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ニコラス・ケイジ主演『ドッグ・イート・ドッグ』は、“元受刑者”によるホンモノ犯罪小説

コラム

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前科作家エドワード・バンカー原作の映画『ドッグ・イート・ドッグ』が、6月17日に公開される。『タクシードライバー』(1976年)『レイジング・ブル』(1980年)などの脚本家として知られ、映画監督としてもアウトサイダーへの共鳴を歌い続けるポール・シュレイダーが、ニコラス・ケイジを主演にメガフォンを取った。元受刑者作家にアウトサイダー好き監督、そして追い詰められてこそ真価を発揮する名優の三つ巴。これがいい化学反応を起こさないはずがない。

すべてのモノホン犯罪小説の生みの親!

1933年の大晦日に娼婦の腹から飛び出したバンカーは、4歳の時に両親の離婚を経験。各施設を渡り歩いたのちに17歳という若さで凶悪犯ご用達のサン・クエンティン州立刑務所に入学。1975年までシャバとムショの往復生活を送ったが、受刑中に差し入れられたタイプライターがそれまでの荒れ果てた人生をガラリと変える。空前絶後の超絶怒涛な自身の生き様に基づいた犯罪小説を執筆しはじめ、小説「ストレート・タイム」はダスティン・ホフマン主演で映画化され、アウトロー作家としての才能を開花させた。

脚本家としても活動し、さらには“男の顔は履歴書”とばかりにエディ・バンカー名義で俳優業にも挑戦。バンカーを崇めるクエンティン・タランティーノ監督の長編映画デビュー作『レザボア・ドックス』(1991年)ではMr.ブルーとして職業俳優には出せぬただならぬ色香を匂い立たせた。2005年に71歳で亡くなるまでに執筆した犯罪小説や自伝本は、日本はもちろんのこと、世界各国で出版されている。

悲劇は喜劇!負け犬たちのブラックコメディ

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映画『ドッグ・イート・ドッグ』は、そんなバンカーが1995年に発表した同名小説がベースだが、毛色はかなり違う。時代設定、人種、エピソードなどの細かい改変もさることながら、一番の大きな変更点は原作のテイストだ。映画はハードボイルドタッチを捨てて、チャールズ・チャップリンが言うところの「人生はクローズアップで見れば悲劇だが、ロングショットで見れば喜劇である」を地でいくクライム・ブラックコメディとして、初老に差し掛かった崖っぷち犯罪トリオの悲哀と負け犬ぶりを強調している。

大金をせしめて高飛びしたいトロイ(ニコケイ)、ヤク中のマッド・ドッグ(ウィレム・デフォー)、時限爆弾的性格のディーゼル(クリストファー・マシュー・クック)。人生の大半をムショで過ごした3人は最後のヤマとして大金が支払われる誘拐事件に手を染めるが、墓穴に次ぐ墓穴を掘ってしまう。クライムジャンルに付き物のクールさとスリルは皆無。描かれるのは、初老に差し掛かったチンピラの末路。若い売春婦にも軽くあしらわれ、新たな恋の萌芽も地金暴露で御破算。若ければ奮起して一発逆転の可能性も期待できそうだが、年齢的にそれも難しい。状況としては結構悲惨。にもかかわらずオーバーな湿り気はない。いぶし銀俳優たちが楽しそうに半裸にソースを塗り合う謎のにぎやか回想シーンが前後のトーンに関係なく挿入されるなど、シリアス一辺倒にならない楽観的な雰囲気が作品全体を包む。シュレイダー監督にアウトサイダーに対する慈愛の眼差しと、自滅に突き進まざるを得ない生き様への憧れがあるからこその軽さなのかもしれない。

本業脚本家には珍しく、シュレイダー監督はかなりの映像派。今回の現場でも「つまらない事をするのは一切禁止!」と現場の若手スタッフに発破をかけ、70歳とは思えぬエネルギッシュかつお遊びテイスト満載の映像表現を実施。マッド・ドッグがトリップする冒頭シーンは、実際のヤバい行為とコミカルな映像スタイルのアンバランスさによって作品の方向性が暗示されている。「この映画はシリアスじゃないよ、笑ってね!」と。

滑稽芝居で本領発揮のニコラス・ケイジ

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ニコケイがシュレイダー作品に参加するのはこれで3度目。前作の『ラスト・リベンジ』でファイナルカット権(最終編集権)に苦汁を味わったシュレイダー監督は、まさに“リベンジ”とばかりに「次の作品ではファイナルカット権を絶対に守る。俺たちの作りたい映画を作ろうぜ!」とニコケイに約束。『ハードコアの夜』(1979年)でも同様の苦い経験があるシュレイダー監督の覚悟は相当なものだったろう。男の契りとニコケイもその熱意に応え、シナリオにはない設定を現場で考えて役柄に深みを持たせた。

『リービング・ラスベガス』(1995年)しかり『バッド・ルーテナント』(2009年)しかり、ヒーローを演じるよりも、自滅に突き進んでいくキャラクターを演じた方がニコケイは光るし、追い詰められた状況下の芝居こそが真骨頂。焦りの中で車に轢かれそうになってムッとするニコケイ、若い女性警官に職質されて必要以上に飛び上がるニコケイ。滑稽な瞬間も非常に映える俳優だと改めて思わされた。

(文・石井隼人)

記事制作 : 石井隼人

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