『20センチュリー・ウーマン』 6月3日(土)丸の内ピカデリー、新宿ピカデリーほか全国公開
(C)2016 MODERN PEOPLE, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.
配給:ロングライド

あんなにセクシーだったのに…『20センチュリー・ウーマン』のオバちゃん女優アネット・ベニングがそれでも魅力的な理由

コラム

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文=石橋朋子/Avanti Press

アネット・ベニングという女優の名前と顔が一致する人はちょっとした映画通だろう。現在59歳の彼女は、最新作『20センチュリー・ウーマン』でのゴールデングローブ賞ノミネートをはじめとして、同賞には受賞2回を含むノミネート歴7回、アカデミー賞ノミネート歴4回など多くのノミネートおよび受賞歴がある一方、ハリウッドきってのプレイボーイと言われたウォーレン・ベイティの妻で4児の母親と、様々な顔を持つ大変興味深い女性である。しかしこれほどまでの大女優でありながら、比較的ローキー(目立たない状態)を保っている理由は、彼女自身の職人気質によるところが大きい。「美しく着飾るのもいいけれど、それは女優の仕事とは関係ない」と言う彼女は、人間として自身が成長するにつれ、その時期の等身大の自分を演じる役柄に投影しているように見える。波乱に満ちた人生の一方で、古典派からセクシー女優を経て、肝っ玉母さんとなっていく女優としての姿が本人像と大きく被るベニングに、素敵な歳の重ね方を学ぶことができる。

ジェイミー役のルーカス・ジェイド・ズマンと母親役のアネット・ベニング
『20センチュリー・ウーマン』6月3日(土)丸の内ピカデリー、新宿ピカデリーほか全国公開
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配給:ロングライド

熱血舞台女優の20代からセクシー映画女優の30代へ

映画へのデビューは女優としては遅い30歳近くであったが、それまでに舞台女優としてニューヨークで活動し、すでに高評価を得ていた。もともとは高校生の時にシェイクスピア劇を見て感動し演技への道を歩み始めたというだけあって、「『お気に召すまま』のロザリンドを演じられるなら死んでもいいと思っていた」と芝居へ傾倒していた当時を語る。映画界に入ってからも、著名な監督や俳優たちと演技について語り合うのが楽しかったようだ。長編映画2作目となった『恋の掟』では、舞台で培った古典作品の経験を生かした演技力と、イングリッド・バーグマンを彷彿とさせる正統派の美貌、そして男を骨抜きにするセクシーさで注目を浴びた。

ブレイクスルーとなったのは、翌年公開の出演作『グリフターズ/詐欺師たち』。女であることを武器にペテン師として渡り歩く小悪魔的魅力の女性を演じ、初のアカデミー賞ノミネートを果たした。そしてこの演技がウォーレン・ベイティの目に留まり、その後の人生を大きく変える『バグジー』に起用された。

人生で一番大切な作品は『バグジー』。主人と出会ったから

ラスベガスという町を創ったマフィア、バグジー(ベイティ)を描いたこの作品で、ベニングは権力者に愛されながら、彼を振り回す恋多き女優を演じた。この時、33歳。22歳年上のベイティと撮影中に恋に落ち、クランクアップ直後に妊娠が発覚した。30年間浮名を流してきたプレイボーイと、その時、別居中ではあったが既婚者だったベニングとの不倫騒動はハリウッドを賑わせた。結局ベニングは夫と別れ、ベイティはとうとう年貢を納めて2人は結婚。翌年には、互いに婚約者がいる男女が恋に落ちるラブ・ロマンスの傑作『めぐり逢い』のリメイク版で共演し(製作、脚本、主演がベイティ)、自分たちの私生活とのイメージを重ね、ラブラブぶりをアピール。その後、計4人の子どもをもうけるおしどり夫婦となるとは、誰も想像しなかっただろう。

『バグジー』より アネット・ベニング(左)とウォーレン・ベイティ(右)
dpa-Film Tristar/ (c)Picture Alliance/Photoshot

4人の子どもを育て、夫をコントロールしながらも、ベニング自身の女優としてのキャリアも着実に伸びていく。もともとセクシーで可愛い女性を演じていても、時々放つ迫力のある低い声と、瞳の奥に覗かせる策略の光に、ただ可愛いだけのアイドル女優ではないことを匂わせていたベニング。 この時期出演した『アメリカン・プレジデント』や『リチャード三世』といった作品の役所でも、歴史を左右するほどの権力の陰に潜む女性像を見せることになる。

「夫のことも、子どもたちのことも、私が話せることはない。これはルールなの」との言葉通り、公共の場でプライベートなことを話さない彼女ではあるが、一方で、その後演じる役はまるで彼女自身の生活を投影しているかのように変化していく。

歳をとるのは怖くない

40歳で2度目のオスカーノミネーションを獲得した作品は『アメリカン・ビューティー』。バリバリのキャリアを持つ主婦役がハマった。30代前半、美しくセクシーな小悪魔を演じていたベニングのイメージは、この頃には肝っ玉のすわったしっかりもののオバさんへと、すっかり変貌していた。かつて男に媚びるフリをしながら実は手玉に取っている悪女を演じながらも、どこかサバサバとした印象があった彼女は、女という武器を捨てたかのように、クールさを増していく。

「私より年上の、50代、60代、70代、80代の女性たちを見ていると、尊敬するし、こういうふうになればいいのねと思う。だから、(歳をとることは)怖くないわ」。この言葉をまさに象徴するかのように、45歳の時に主演した『華麗なる恋の舞台で』では、名声を欲しいままにしながら若い恋人に溺れ、新人女優に嫉妬する大女優を演じ、3回目のアカデミー賞ノミネートを果たした。作中、後半の一シーンで、母の全てと、母すら知らない事実を見透かしているティーンエイジャーの息子に、「私、老けたかしら?」と大女優は問う。そして母として、妻として、女としての迷いを吹っ切り、大舞台へと戻っていく。その姿は人間としての器が一回りも二回りも大きくなったベニング自身を映すようだ。

常に自然体で変化を受け入れてきたとはいえ、子育てにはやはり悩みが多かった様子。特に、長女がレズビアンであることをカミングアウトしただけでなく、性転換を希望した時には、親子で何度も話し合ったという。しかし、そこはやはり根っからの女優魂のベニング。51歳の時に、『キッズ・オールライト』でティーンエイジャーの子どもたちを持つレズビアンのカップルという役を演じ、4回目のアカデミー賞ノミネートとなった。自身の実生活の家族の問題も、世の中の人々が抱える問題も全て受け入れ、愛を注ぐメッセージが込められた作品だ。

映画『キッズ・オールライト』より アネット・ベニング(左)とジュリアン・ムーア(右)
(C) LFI/Photoshot

おばあちゃんになっても、カメオで演じ続けたい

50代最後を迎えたベニングの最新作『20センチュリー・ウーマン』は、1970年代終わりを舞台に、ティーンエイジャーの息子の気持ちがわからないと戸惑い悩むシングルマザーを描く物語。ヒッピー時代が過ぎ去り、パンクミュージックとフェミニズムが台頭。少年から青年へと成長していく息子を見守る戦前生まれの母親には、新世代の若者たちの行動は理解できず、息子に歳が近い女子2人に彼の相談役としての協力を求める。それは、人生の通過点のほんの短い時期。一定の時期を切り取ってはいるものの、特に大きな出来事が描かれるわけではない日常。誰もがそんな時代もあったなと懐かしく、でも大切に思い出せる、静かでささやかな作品だ。

母親を演じるベニングの姿は、ぎょっとするほど普通のオバさん。オーラが消えた後の残存オーラを醸しているというべきか。それはもう存在感自体が演技を超えていて、ある意味、我々一般人が持つハリウッド女優への認識を覆すほどの自然な存在感があり、ベニングが人生において到達した地点が透けて見えるのである。

「今は多くの機会に恵まれていることを嬉しく思うけれど、こんな恵まれた地位は長くは続かないとわかっている。だからといって演じることを辞めたりはしないわ。おばあちゃんになってもカメオで映画に出演して、『あれ、ベニングとかいう女じゃない?』と言われる自分の姿が目に浮かぶの」。

歳を重ねることを恐れず、歳を重ねた自分をさらけ出すことを恐れず、人生のその時々にふさわしい役に自分を投影していく。60代からのベニングはどんな女性像を私たちに見せてくれるのか。これからも楽しみだ。

『20センチュリー・ウーマン』6月3日(土)丸の内ピカデリー、新宿ピカデリーほか全国公開
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記事制作 : Avanti Press(外部サイト)