『美しい星』5月26日(金)より全国公開 (c)2017「美しい星」製作委員会

美しさの目盛りをマックスに! 三島由紀夫原作の異色SFで、吉田大八監督が橋本愛に言ったこと

インタビュー

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取材・文=大谷隆之/Avanti Press

『桐島、部活やめるってよ』(2012年)や『紙の月』(2014年)など優れた人間ドラマを発表してきた吉田大八監督が、三島由紀夫の異色SF小説を映像化した最新作『美しい星』。リリー・フランキー、橋本愛、亀梨和也、中嶋朋子という豪華キャストが結集した話題作だ。30年以上も映画化を望んできたという監督本人が、本作に込めた思いを語る。

ブラックな笑いの底に潜む、シビアな命題

吉田大八監督

吉田大八監督

物語の軸となるのは、「大杉家」という4人家族だ。それぞれに問題を抱え、空中分解する寸前で家庭を営んでいた彼らは、ある日を境に「宇宙人」として覚醒。絶滅の淵に立つ人類を救うべきか、それとも早々に“安楽死”させるべきなのか、果てしなく議論を重ねながら、常識ではありえない行動に突っ走っていく。SFといってもスペースオペラやファンタジーとはほど遠く、むしろ高度に寓話的なトラジコメディ(悲喜劇)の印象が強い。

「もともと人間は業の深い存在で、自分たちの住むこの世界を喰い潰して繁栄してきたところがありますよね。たとえば核兵器や地球環境の問題がそうです。それをとことん突き詰めて考えると、『この美しい星にとって、人間が存在する意味は何なのか?』というシビアな命題にぶち当たってしまう。でも人間は、どんな状況下でも生を全うせざるを得ませんよね。おそらく三島さんは、宇宙人や円盤などのSF的なモチーフを採り入れることで、純文学とは違った視点から、その命題に正面から向き合おうとした。だから僕も、そのギリギリの議論から逃げないでいようと思いました」

必死になるほど哀愁が漂うリリー・フランキー

原作が発表されたのは、米ソ対立が激化していた1962年。脚本化にあたっては時代設定を現代に移し、小説のベースにあった「冷戦下における核戦争への恐怖」を、今の観客にとってよりリアルな「人口爆発とそれに伴うエネルギー危機、地球温暖化や異常気象」に置き換えた。また、気象予報士の父親・大杉重一郎(リリー・フランキー)と長女の暁子(橋本愛)のキャスティングは、シナリオの準備稿を書き始めた段階からイメージしていたという。

『美しい星』5月26日(金)より全国公開 (c)2017「美しい星」製作委員会

「原作の重一郎は、芸術家肌の自由人。と同時に、戦前から続いてきた家父長制が崩れていくなかで戸惑いを感じている人物としても描かれています。そういう軽みや不安定さを滲ませながらもちゃんと腰の据わった演技ができる俳優さんとなると、リリーさんしか思い付かなかった。彼が引き受けてくれなかったら、この映画はまったく違うものになっていたはずです」

愛人を作り、キャスターに「予報、当たりませんね」とイジられてもヘラヘラしていた重一郎は、ある出来事をきっかけに「火星人」として覚醒。温暖化の脅威について突如テレビで熱弁を振るいだす。必死になればなるほどオカシミと哀愁が漂う、難しい役だ。飄々とした素顔とは裏腹に、現場では「思いきり正攻法の演技アプローチに驚かされました」と吉田監督。

「たとえば『リリーさん、走ってください』とお願いすると、こちらの期待をはるかに上回る全力疾走を何度でもくり返してくれる。劇中、重一郎がニュース番組のスタジオで奇妙なポーズを取るシーンがありますが、その撮影のリリーさんもスタッフが驚くほど役に入り込んでくれて……。ちょっとした腰の角度から指先の形まで、カメラを回すたびに予想もしなかったものが出てくるんですね。たぶんリリーさんは、小手先の技術でどうこうしようとは最初から思ってらっしゃらない。むしろ監督の言うことを必死に受け止めて、役に真っ直ぐ向かい合うタイプの役者さんじゃないかなと。リリーさんのそういうひたむきな姿勢にはすごく助けられました」

橋本愛には「復讐のつもりで美しくあってほしい」

そんな父親をクールに見つめているのが、大学生の長女・暁子だ。キャンパスでも人目を引くほどの美人だが、そのことに居心地の悪さも感じている女性。2012年の『桐島、部活やめるってよ』にも出演した橋本愛が演じた。

『美しい星』5月26日(金)より全国公開 (c)2017「美しい星」製作委員会

「あらためて原作を読み直して、この役は絶対に橋本愛しかいないと思いました。もちろん美しい女優さんは世の中にたくさんいます。でも暁子という役には、その容姿が自分自身をも傷つけてしまうような──いわば孤絶した美しさが不可欠で、やはり彼女以外には考えられませんでした。『ほかに誰かいたら連れてきてよ!』という感じでした(笑)」

チヤホヤされることに違和感を抱いていた暁子は、あるミュージシャンが路上で歌っていた「金星」という曲を耳にして、激しく心を揺さぶられる。そして彼を追いかけて金沢へ趣き、冬の海で、空に光る物体と遭遇する──。初めて何かを信じることで定まっていく表情が毅然とした美しさを放つ。

「橋本さんは、本当に素晴らしい『暁子』を見せてくれた。映画全体のなかであの海辺の時間が持つ意味を分かっていないと、あの表情はできないと思うんです。自分自身の役柄だけじゃなく、物語に対する理解に、とても深いものがありました。撮影前、僕が彼女に言ったのは『とにかく、美しさの目盛りをマックスに入れて臨んでほしい』という1点だけ。たぶん彼女自身、美しさが過剰に評価されてしまう歯がゆい経験を何度もしていると思うから、それにまとめて復讐するつもりで、まず最大限に美しくあってほしいと。『橋本さんなら、できるでしょ』(笑)というつもりでしたが、彼女は僕の言わんとすることを完璧に汲んでくれて、現場で僕はひたすらそれを見守っていればよかった」

記事制作 : Avanti Press(外部サイト)