文=ロサンゼルス在住ライター 町田雪/Avanti Press

この初夏、ハリウッドの寵愛を受けているドキュメンタリー映画がある。『ハロルドとリリアン ハリウッド・ラブストーリー』だ。ちょうど昨年のカンヌ映画祭に出品された同作は今月、米国で公開されるや、批評家たちの高評価を得て、ハリウッド業界内で話題に。あのウディ・アレンや、世界的な有名フィルムメイカーたちがプライベート試写会を依頼しているという。一体、なぜ? そして、魅力は何なのか、紹介したい。

被写体は、ハリウッド全盛期の名作映画の数々を支えた、絵コンテ作家のハロルド(今は天国へ)と、映画リサーチャーのリリアン(最高にチャーミング&パワフルな88歳)という夫婦。同ドキュメンタリーでは、2人の生い立ちやキャリア、ロマンス(駆け落ち!)を、ハリウッドの歴史や映画製作の舞台裏、数々の名作を交えながら振り返っていく。

ハロルドとリリアンは業界内だけが知る“秘密兵器”だった

『鳥』の絵コンテ

絵コンテとは、脚本をもとに、シーンごとの背景や登場人物の表情などを描き起こしたもので、一見、マンガのコマのようなもの。映画製作にかかわるすべてのクルーやキャストが、脚本の“文字”だけでなく、視覚的に“絵”をイメージするために重要なプロセスだ。同ドキュメンタリーでは、名作映画の象徴的なシーンと、そのもととなったハロルドの絵コンテが次々と紹介されるのだが、そのラインナップがすごい。ヒッチコックの『鳥』で逃げ惑う人々を鳥たちが襲うシーン。『卒業』で“セクシーな足の向こうにダスティン・ホフマンの顔が見える”誘惑シーン。『十戒』でモーゼが海を割り、奇跡を起こして仁王立ちするシーン。このほか、『スタートレック』『フルメタル・ジャケット』『ローズマリーの赤ちゃん』『ヴァージニア・ウルフなんかこわくない』などの名シーンが、ハロルドの絵コンテそのものだったりするのだ。ところが、監督や脚本家、撮影監督と並ぶ(か、場合によっては、それ以上の)貢献者でありながら、当時、彼の名前がクレジットされることはなかった。いまや、ハリウッド映画のエンドロールは10分間も続くことがあるほど、すべての関係者やクルーがクレジットされているが、一昔前は、影の立役者たちは、業界内だけが知る“秘密兵器”だったのだ。

『卒業』の絵コンテ

『卒業』の絵コンテ

同じく秘密兵器だったリリアンも、上記のような作品群のリサーチャーとして名を馳せた。『鳥』では鳥の動きや性質を研究し尽くし、『スカーフェイス』では麻薬王から情報を入手。ついついグーグル検索に頼ってしまいがちな今だからこそ、紙をめくり、足を動かして情報収集に努める姿は、リサーチャーの鑑に見える。彼女が当時の映画スタジオ内に設けたリサーチ図書館は、フランシス・フォード・コッポラやドリームワークス経営陣など、ハリウッドの重鎮たちから入居リクエストを受けるほど、有名な存在だったそう。ミュージシャンのトム・ウェイツが、彼女の小さな図書館に入りびたり、曲を奏でていたなんて逸話も飛び出す(当時の映像とともに!)。

どのような偉業でも、礎となるのは、あらゆる意味での“ラブストーリー”

最高にチャーミング&パワフルなリリアン

最高にチャーミング&パワフルなリリアン

同作のさらなる魅力は、こうした2人のキャリアを紹介しながら、本筋に、その2人自身の純粋なロマンスが綴られていること。兵役したハロルド、孤児院で育ったリリアン、親に反対されて駆け落ちした2人、仕事がない金欠生活、自閉症の子どもの育児、記念日ごとにハロルドが手作りするラブレター……。誰もが、どこかしらに共感できるリアルな要素が詰まっているのだ。そのせいか、ロサンゼルスの映画館で上映後に行われたQ&Aでは、観客たちからリリアンに、女性、妻、母として、そしてハリウッド業界人、アメリカ人、1人の人間として……と様々な立場における質問と感謝の言葉が相次いだ。「結婚が長続きしないといわれているハリウッドで、60年も添い遂げたことに、一番びっくりしているのは自分たち」とおちゃめに笑うリリアンには、ハロルドやコッポラ、ヒッチコックでなくても、誰もが恋してしまうだろう。こんな人たちが支えていたから、あんなに素晴らしいシネマが生まれていたのだな、どんなに華やかに見える場所や業界でも、結局は人なのだなと、あらためて実感させられる。そして、どのような偉業でも、礎となるのは、あらゆる意味での“ラブストーリー”なのだということも。

たとえば『ラ・ラ・ランド』が、ハリウッドを舞台にタレント同士のロマンスを描いたファンタジーだとしたら、『ハロルド&リリアン』は、同地を舞台にクルー同士のロマンスを描いたドキュメンタリー。しかも、ハロルドの職業にちなんで、イラストや絵コンテで2人のロマンスが綴られるため、マンガを見ているような感じも楽しめて、ドキュメンタリーが得意でない人にもおすすめだ。

『ハロルドとリリアン ハリウッド・ラブストーリー』
5月27日(土)よりYEBISU GARDEN CINEMAほか全国公開
配給:ココロヲ・動かす・映画社○
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