スタンディング・オベーションに感極まる巨匠イーストウッド (c)Aya Ishizu

70回記念のカンヌ映画祭で巨匠イーストウッドが見せた涙

コラム

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文=石津文子/Avanti Press

イーストウッド登場という超巨大サプライズ

5月17日よりスタートした第70回の節目を迎えたカンヌ映画祭。映画祭が始まるまではどんな記念イベントが行われるのか不明だったが、ふたを開けてみれば、映画界の生ける伝説クリント・イーストウッドが登場という超巨大サプライズ。それも20、21の2日続けてイベントに登壇という大判ぶるまいで、カンヌを大いに沸かせた。イーストウッドがカンヌ入りするのは、2008年に『チェンジリング』がコンペティションで上映されて以来。

イーストウッドが登場したのは、映画史に残る名作を上映するカンヌ・クラシック部門。1983年の最高賞受賞作である今村昌平監督の『楢山節考』のはじめ過去の受賞作が上映されたが、イーストウッド御大へは“オマージュ(Homage)”として特別枠が設けられた。

まず、5月20日にはアカデミー賞作品賞ほかに輝いた傑作『許されざる者』(1992年)の製作25周年記念4K版がパレ・ド・フェスティバル内のドビュッシー劇場で上映され、上映前の舞台挨拶に立った。

『許されざる者』のドビュッシー劇場での上映前
舞台挨拶に立ったクリント・イーストウッド 監督
(c)Aya Ishizu

さあ、映画を観ようじゃないか

1000人以上の観客が会場を埋め尽くす中、カンヌ映画祭ディレクターのティエリー・フレモーが、3分近くこの巨匠の映画界、ひいてはフランスでいかに尊敬されているかを語った後、ようやく「クリント・イーストウッド!」と呼びかけると、劇場後方からイーストウッドが登場。もうその瞬間から割れんばかりの喝采だ。目の前に現れたイーストウッドは、5月31日に87歳になるとは思えない、ハンサムぶり。イーストウッドは大監督だが、大スターであったことも改めて思い知らされた。オーラが半端ないのだが、同時に、近寄りがたい感じはしない。

はにかみながらマイクを手にすると、「『許されざる者』を作ってからもう25年も経っていたなんて、言われるまで全然気づかなかった。私には、まだ5年くらいしか経ってない気がするよ」と挨拶。さらに「あまりによい脚本だったから、これが自分にとって最後の西部劇になるだろうと思ったし、実際に今のところはそうなっている。でも、まだ先はわからないな(笑)。さあ、映画を観ようじゃないか」と語ると、ふたたび会場は大喝采。

そして、上映された『許されざる者』は、編集のジョエル・コックス(この作品でオスカー受賞)がすべてのカットを監修したフル4K版。闇の場面がより鮮明になっているのと同時に、平原を行く馬に乗ったガンマンたちをとらえた映像の美しさ、カメラワークの素晴らしさに圧倒された。大のイーストウッド好きである筆者だが、『許されざる者』を劇場の大スクリーンで観るのは、公開時以来。これこそ真のマスターピース(傑作)だと、あらためて思い知らされた。決してテレビの画面だけではわからないものがそこにはある。

映画が終わるや否や、スタンディング・オベーションがはじまった。それはもう、パルムドール受賞作でも叶わないほどの大喝采で、巨匠イーストウッドも涙ぐむほどだった。これほど愛されている映画人は、他にいないだろう。

どうしても撮りたい映画はちゃんと撮ってきた

さらに翌日には、「マスタークラス(Leçon de Cinema)」が行われ、LAタイムズの評論家ケネス・トゥーランの質問に答える形で、1時間以上にわたって自らの映画人生を振り返った。こちらはブニュエルという中規模の会場だったため、入れない人が続出し、暴動が起きそうなほどだった。

評論家ケネス・トゥーランの質問に答えるイーストウッド
(c)Aya Ishizu

前日のスーツ姿から一転、カジュアルな姿で登場したイーストウッドは、前日のスターオーラはほとんどなく、本当に映画の授業に来た先生といった雰囲気。撮りたかったがうまく行かなかった作品があるかと問われると「映画を撮ることにおいて、後悔したことは一度もない。途中で頓挫した映画は、うまくいかなかった理由があるわけで、どうしても撮りたい映画を撮ってきた」と語った。さらに俳優業は引退したのかという質問には「いい作品があれば、やらないとも限らないよ」と含みをもたせた。

世界中の映画人、映画ファンから愛される伝説イーストウッド。本人の淡々とした、気取りのない語り口と同様、淡々と映画を撮り続けてきたうちに、誰もたどり着けない高みに登りつめてしまったような印象だ。「毎日ゴルフばかりじゃ飽きるし、これからも映画を撮ることはやめないよ」という前向きな言葉で、伝説の巨匠はマスタークラスを締めくくった。

記事制作 : Avanti Press(外部サイト)