文=高村尚/Avanti Press

映画の主役級&伝統芸能を代表する俳優が揃った

野村萬斎が、戦国武将たちに“花”を武器に勝利するという映画『花戦さ』が公開された。これ本当にあった話がベース。池坊専好というお坊さんが、時の天下人・豊臣秀吉に、松を基調にした大きないけばな(大砂物)を披露して称賛された記録がもとになっているのだそう。もちろん勝利したのは野村萬斎ではなく池坊専好(初代)。この映画『花戦さ』の俳優陣の“すごさ”と“浅からぬ縁”、そして応援団が次々と名乗りをあげることの“不思議さ”が話題になっている。一体どんなことなのか紹介したい。

『花戦さ』6月3日より全国にて公開
(c)2017「花戦さ」製作委員会

親子二代の主演級俳優の共演

まず出演者がみな主演級だということ。織田信長、千利休、前田利家、豊臣秀吉、池坊専好ら時代を切り拓いた人物を演じるのだから当然かもしれないが、中井貴一、佐藤浩市、佐々木蔵之介、市川猿之助、野村萬斎と、映画界、歌舞伎界、能楽界のトップランナーが揃った。

信長役の中井貴一と利休役の佐藤浩市。二人の父親は、ともに松竹の主演俳優だった佐田啓二と三國連太郎(のちに移籍)。佐田は37歳と若くに亡くなっているので意外な気もするが、三國のほうが3つ年上。佐田と三國は松竹の専属俳優時代、『海の花火』『命美わし』(ともに1951年)『本日休診』(1952年)で共演している。主演級の俳優である中井、佐藤が共演するのは珍しいが、これまでもあった。しかしそれは父の代からのこと。そう思うと感慨もひとしおだ。

『花戦さ』6月3日より全国にて公開
(c)2017「花戦さ」製作委員会

佐藤浩市の父と市川猿之助の祖父

その三國が東宝の作品に出たことでマスコミ沙汰となった映画『戦国無頼』(1952年)では、『花戦さ』で秀吉を演じる市川猿之助の祖父・三代目市川段四郎と共演している。猿之助自身、そのことに「浅からぬ縁を感じる」と発言しており、役の上とはいえそんな縁ある先輩・佐藤(利休)の頭を踏む場面には、「本当に鬼かと思いました。ただ映像はやっぱり力を抜くと分かってしまうので、心の中で“ごめんなさい”と言いながら踏みつけていました」と語っている。ちなみに京都東山にある豊臣秀吉を祀る豊国神社には、猿之助の曽祖父・初代市川猿翁の絵馬も奉納されているそうで、太閤秀吉にも縁を感じているのだとか。「名前も猿之助で猿だしね」と。

『花戦さ』6月3日より全国にて公開
(c)2017「花戦さ」製作委員会

千利休を演じるアプローチ

猿之助に頭を踏まれた佐藤浩市は、『花戦さ』で千利休を演じるにあたり、表千家でお茶を学んだ。学びながら、この映画の中での利休=お茶を、背筋が伸びた鋭角的な姿から差し出すものではなく、どこか丸みのある世界観から示されるものにしたいと思ったという。この考えを表千家の先生に相談したところ、「お父様も同じことをおっしゃっていました」と言われたのだそう。そう。三國連太郎も『利休』(1989年)で千利休を演じていたのだ。発想の発端はわからないが同じような解釈に行きついたことに対して、「あー、ちくしょう!」と思う反面、「ちょっと面白かった」と佐藤浩市は余裕な笑顔を見せた。

『花戦さ』6月3日より全国にて公開
(c)2017「花戦さ」製作委員会

作品の内容、俳優同士が、こんな深い縁を持つ人々が集まった『花戦さ』。取材で撮影所にうかがった際、衣装を着けたまま、待ち時間にたわいのない話をするキャストの姿を見かけた。それだけで胸がときめき、感動したのは、上記の理由もあるのかもしれない。

“伝統文化”と“文化の未来”をけん引する二人の専好さん

池坊専好を演じる野村萬斎は、能楽の狂言師、演劇人として活躍しているが、世田谷パブリックシアターの芸術監督、2020年に向けた文化イベント等の在り方検討会委員など日本の文化を推進する役割も担っている。その野村萬斎が演じる専好は、いけばなには抜きん出た才能を見せるが、人付き合いにも出世にも興味がなく、お寺の執行(住職)に抜擢されるも、人の顔が覚えられず、悩み多き日々を送っているキャラ。野村はそんな人物を、突き抜けた表現でコミカルに演じあげる。中井はその姿を、「狂言の伝統、小さい頃からの修行があるからこそ演じられる表現。僕や佐藤さんがやったら、おまえ大丈夫か? と言われるでしょう(笑)」と称賛する。野村萬斎と、現在の池坊を背負って立つ四代目池坊専好華道池坊家次期家元は、“2020年~検討会委員会”などの席で顔を会わす仲。四代目池坊次期家元は、野村演じる初代専好に「もっと自由に生きるのもあり」だと励まされたという。ちなみに野村、四代目池坊次期家元ともに“人の顔を覚えるのはやや苦手”だと明かす。初代専好との共通点は意外なところにあった。

『花戦さ』6月3日より全国にて公開 
(c)2017「花戦さ」製作委員会

なぜか集まる応援団その1:時代劇を海外へ

もうひとつの話題である、映画を応援する人が次々名乗りを上げる“不思議”。最たる人物は高円宮久子さまだ。東京オリンピックの誘致を決めたと言ってもいい見事な英語でのスピーチが記憶に残る。5月29日に、朝日ホールで行われた『花戦さ』完成披露舞台挨拶付き上映会にご臨席され、「日本文化を丁寧にとらえている作品。ぜひ世界に発信していただきたい」とのお言葉を篠原哲雄監督に伝えられたと聞く。ひとつ懸念されていたのが「おおきにはサンキューじゃない」という翻訳の際の表現について。さすが久子さま! 日本文化が持つニュアンス、良さをできるだけ正確に伝えていきたいという気持ちが伝わる。

『花戦さ』をご覧になる高円宮久子殿下(右)と絢子女王
(c)2017「花戦さ」製作委員会

なぜか集まる応援団その2:歴史とはこだわらない心を知る手段

『花戦さ』を海外へという応援団には歴史学者で『殿、利息でござる!』『武士の家計簿』の原作者・磯田道史氏も加えたい。なんと試写を見た後、映画を気に入り、原作者でも、時代考証でもないのに、積極的にいろいろなところで『花戦さ』を勧めているのだ。磯田先生は自分の仕事が映画になり、それが飛行機の国際線の中で放映されているのを見た時にフィニッシュしたと感じるそう。天下人じゃない立場からの戦国時代を映画にできないかと、長いこと思っていらしたそうで、「殺す戦国もあれば、生かす戦国もあった」というこの映画のテーマを絶賛している。「歴史とはこだわらない心を知る手段」であり、優れた先人の考え方を知る機会でもあると磯田先生。「見たことのない戦国、見たことのない時代」を見せてくれる映画が大好きで、だからこそ応援したいというのだ。こういう人々を呼び寄せるということは確かにいま見るべき映画なのだろう。