ロサンゼルス在住ライター=鈴木淨/Avanti Press

80歳オーバーの3人が人生最後の賭けとばかりに銀行強盗を企てる映画『ジーサンズ はじめての強盗』(6月24日に日本公開)は、タイトルもすごいが、主演の“ジーサン”たちが全員アカデミー賞受賞者(モーガン・フリーマン、マイケル・ケイン、アラン・アーキン)であるなど、キャストも豪華。

老後の年金、住宅ローン、病気といった、やがて誰もが直面する社会的問題を扱った同作を、独身アラフィフ男性ライターの記者が、ひと足先に鑑賞した。

ちなみに、我々の世代が学生時代の友人と飲んでいると、話題はもっぱら親と自分たちの体調について。そして酔いが進むにつれ、誰かがつぶやく定番の言葉がある。「もうひとつ、何かやりたいなあ」。もちろん、「リタイアするまでに」あるいは「死ぬまでに」という意味だ。

人生最後の大勝負!「俺たちの年金を取り戻そう」

ウィリー、ジョー、アルの3人は40年以上も真面目に働いた会社から見放され、突然、年金を打ち切られる。さらに、住宅ローンが急に3倍になったり、医者から重い病気を告げられたりとトラブル続き。崖っぷちに立たされたジーサンたちは、家族や仲間と平穏な余生を過ごしたい、デザートに甘いパイぐらい食べたい、といったささやかな願いを叶えようと、銀行強盗を企てる。「俺たちの年金を取り戻そう」――。

『ジーサンズ はじめての強盗』(C)2017 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC

痛快コメディ『ジーサンズ はじめての強盗』は、『ビバリーヒルズ・コップ』『ミッドナイト・ラン』などで知られるマーティン・ブレストの監督デビュー作『お達者コメディ/シルバー・ギャング』(1979年・日本未公開)のリメイクだが、描かれているのは現代の格差社会。真面目な労働者たちがあてにしていた企業年金を銀行が食いものにする。ジーサンたちは理不尽な世の中に反旗を翻し、資本側の象徴としての銀行を襲う、といういかにもアメリカらしい物語。もちろん銀行強盗は犯罪なのだが、見ているうちにジーサンたちを応援したくなる。

どの世代が見ても共感できる部分があり、楽しめる映画。だが記者は正直、アラフォーやアラサーでこの作品に出会っていたとしても、今の自分ほどには心に刺さらないと思った。“折り返し地点”を明らかに過ぎた、と自覚する世代だからこそわかる笑いや悲哀が、そこにはある。

華やかなキャストの名演技にも説得力

LA在住フリーランスの記者も、将来の年金には大いに不安があり、住宅ローンも残っているし、パートナーもいない。健康診断の数値だって決していいわけじゃない。“最後の大勝負”に出るジーサンたちの動機が、よりリアルに感じられる立場だ。

『ジーサンズ はじめての強盗』ジョーイ・キングとマイケル・ケイン
(C)2017 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC

そのリアリティは、出演者たちの名演技によっても増幅される。主演の3人はもちろん、クリストファー・ロイド、マット・ディロンら脇役陣も錚々たる面々。ベテラン女優アン=マーグレットの美しさは物語にある高齢者のロマンスを成立させ、引く手あまたの10代女優、ジョーイ・キングも存在感を放つ。

テレビ朝日系の昼ドラ「やすらぎの郷」を連想させるような華やかなキャストが、パフォーマンスを競う。そう言えば、同ドラマも老後の生活がテーマだっけ。

『人生に乾杯!』『死に花』……まだあるシルバー世代の強盗映画

『グラン・トリノ』 (c)LFI/Photoshot

老人が強盗をする映画と言えば、ハンガリー作品『人生に乾杯!』(2007年)が思い出される。こちらも苦しい年金生活がきっかけだが、強盗をはたらくのは老夫婦。ハンガリーが社会主義国だった時代に出会い、すっかり様変わりした現代に暮らす81歳の夫と70歳の妻が国家に背き、あくまでジェントルに犯罪を重ねていく。この行動は社会に問題を提起し世論を動かすまでになる。逃避行の間に結びつきを強めた老夫婦の行く末は――。

邦画にも、シルバー世代が銀行を襲う印象的な作品がある。犬童一心監督『死に花』(2004年)。山崎努、宇津井健、青島幸男、谷啓、長門勇、藤岡琢也、森繁久弥と、これ以上ないほど大物俳優が顔を揃えた。同作に登場する高齢者たちは、みな裕福だ。高級老人ホームで悠々自適な余生を送っているが、死んだ仲間の思いを晴らすため、壮大な銀行強盗計画を実行する。

今回、記者は『人生に乾杯!』『死に花』ともにDVDで見直したが、両作とも公開当時とはまったく違う重みを感じて驚いた。映画は変化しないので、確実に自分が主人公たち(シルバー世代)のひとつひとつの言動に、より共感できるようになっている。どちらの作品も鑑賞後、しばらく体の中に残った。

『ジーサンズ はじめての強盗』も含め、いずれもコメディ映画なのだが、もう一つの共通項は、“最後にひと花咲かせよう”とする老人たちの、生まれ変わったように生き生きした様子。これは冒頭に紹介した、我々アラフィフ定番のつぶやき「もうひとつ、何かやりたいなあ」と、つながっている気がする。

あの黒澤作品も!愛すべき“最後にもうひと花”映画たち

強盗に限らず、くくりを「シルバー世代が大暴れする映画」と広げれば、該当作は山ほどある。最近では、北野武監督が新手の詐欺集団と戦う古いヤクザたちを描いた任侠コメディ『龍三と七人の子分たち』(2014年)もそうだった。

ドイツ映画『陽だまりハウスでマラソンを』(2013年)、ハリウッド作品『最高の人生の見つけ方』(2007年)『グラン・トリノ』(2008年)などなど、挙げだしたら切りがない。黒澤明監督『生きる』だって、“最後にもうひと花”映画の名作と言えるだろう。

こういった作品の魅力的な高齢者たちを見ると、老いるのも悪くないかと思うし、アラフィフなんてまだまだ若い、ということも確認できる。映画をより深く理解できるようになるのは、幸せなことでもある。

『生きる』発売・販売:東宝

愛すべき“最後にもうひと花”映画たちから学べるのは、アラフィフから先のこれからは、何をしても、いくつになってもずっと「もうひとつ、もうひとつ」と思いつづけるんだろうな、ということ。

その「もうひとつ」は金儲けかもしれないし、人のためのボランティア活動かもしれないし、今さらな大恋愛かもしれない。アラフィフ以上の夫をお持ちの奥様、旦那さんは密かに「最後の大勝負」を画策しているかもしれませんよ。急に大計画を打ち明けられても驚かないように、今から心の準備を。