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不祥事による相次ぐ映画の公開中止! たった一人の出演者のためになぜ?

コラム

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文=平辻哲也/Avanti Press

損失覚悟!苦渋の決断をせざるを得ない理由とは?

出演者の不祥事による相次ぐ上映中止! 数億円の製作費が一瞬にして飛ぶ事態は防げないのか? 昨今、俳優の不祥事が多発する芸能界。彼らが出演する映画は、上映中止、再編集などという状況となっており、製作者や共演者への被害も大きい。たった一人の出演者のために、なぜ上映中止にまでしなければならないのか?

未成年との飲酒と不適切な関係を認め、無期限の活動停止を発表した小出恵介が出演する『愚行録』(2月18日公開)は地方でのロングラン公開を続けていたが、公開中止。同じく小出出演の榮倉奈々・安田顕主演の映画『家に帰ると妻が必ず死んだふりをしています。』(来年公開)も現在、協議中だ。

覚せい剤取締法違反で現行犯逮捕された俳優・橋爪遼容疑者が出演した映画『たたら侍』(5月20日公開)は最短9日をメドに一旦、上映を中止し、出演シーンをカットして再編集。17日から再上映が始まった。いずれの作品も、主役ではないが、社会的な影響に配慮した措置だった。

筆者は17日、東京・新宿バルト9で再公開となった『たたら侍』を見に行った。午前8時からの1回上映で、座席数69で最も収容人数が少ない劇場。入りは半分にも満たなかった。当初の館数は全国281館、再上映では24館。しかも、上映回数が1回では見に行こうという人は少ないだろう。島根県内の自治体が観光PRに活かそうと、約4億円を支援した作品の残念な末路だった。

同映画は戦国時代の奥出雲を舞台に、貴重とされた製鉄を作る技術を代々伝承してきた「村下」の家に生まれた青年(青柳翔)が、侍になるために旅に出る……というストーリー。橋爪はその村の鍛冶大工の息子役で出演していた。出演シーンをカットしても差し支えのない「端役」といってよく、「上映中止までしなくてもよいのでは……」といった声も出ていた。

今後の公開作でも、不祥事を起こした出演者のシーンを急きょ差し替えた作品がある。『銀魂』(7月14日公開)には、飲酒運転で物損事故を起こした、お笑い芸人のガリガリガリクソンが数カットで出演。配役を変更し、既に再撮影を終えたという。

新たに参入した映画界で迷惑をかけてはいけない

2011年3月の東日本大震災発生後、映画界では震災そのものや震災を連想させる作品の上映を見合わせたことはあったが、こうした出演者の不祥事、トラブルでの相次ぐ公開中止は、昨今でも珍しい。

ただ、過去にも、似た事例がなかったわけではない。例えば、出演者が撮影中に誤って日本刀で共演者を刺し殺してしまった人気時代劇シリーズ、監督が公開前に覚せい剤取締法で逮捕された人気作家原作の現代劇は有名だろう。この2本は時間がかかったものの、公開には至っている。「不祥事を起こした人に罪はあっても、作品には罪はない」「映画はテレビとは違って、金を払って見るもの。嫌なら、見なければいい。昨今の公開中止はやや過剰反応ではないか」という声もある。

ある製作委員会に属する人物が話してくれた。「社会通念上、倫理上、明らかに問題がある場合は、公開中止や差し替えという判断をせざるを得ない。例えば、薬物事案は明らかにNGでしょう。不祥事やトラブルは、その度合や、公開前か、公開中かでも、判断は変わってきます。もちろん、製作委員会でも議論しますが、最終的な判断は監督ら製作者側の考えが反映されます。製作者も作品外のことで話題に上るのは不本意ですから」。

巨額な損失を覚悟してまでも、映画会社が上映中止などという大きな決断しなければいけないのは、2つの理由がある。

1つはコンプライアンス上の問題。映画の多くは複数の大手企業による製作委員会方式で作られており、企業はそれぞれコンプライアンスに重きを置いている。さらに「『たたら侍』の配給会社LDH PICTURESの親会社であるLDH JAPANは、EXILE、3代目J Soul Brothersらが所属する音楽系のプロダクション。これは“Love”“Dream”“Happiness”の略で、それが社是のようなもの。コンプライアンスにも厳しい。また新たに参入した映画界で迷惑をかけてはいけない、という創業者HIRO氏の考えもあったのではないか」と事情通は話す。

もう1つは昨今のSNSの発達だ。SNSによって肯定的な言葉はもちろん、批判もかつて以上に広く拡散される。それについての苦言は、映画会社ではなく、劇場またはその周辺(関連)企業に、抗議の電話という形で届けられることになり、ほとんど無関係なスタッフが対処に追われることになる。その事態を避けるためにも映画会社は上映中止にせざるを得ないのだという。

映画は時代を映す鏡と言われるが、その周辺で起きるできごともまた同様なのだ。

記事制作 : Avanti Press(外部サイト)