文=新田理恵/Avanti Press

「これは一体、何なのだ……」。何も知らずに『映画 山田孝之 3D』のチラシを手に取った人は戸惑うに違いない。かたや、ドキュメンタリードラマ「山田孝之のカンヌ映画祭」を見ていた人は、「ホントに出来たんだ……」と口元にうっすら笑みを浮かべることだろう。そして次の瞬間、誰もが「良く分からないけど、なんか気になる」と期待と不安が入り交じった気持ちに襲われるはずだ。

『映画 山田孝之3D』6月16日(金)より全国公開  
(C)2017「映画 山田孝之」製作委員会

「山田孝之のカンヌ映画祭」(テレビ東京ほかで2017年1〜3月に深夜帯で放送。 以下、「カンヌ」)とは、俳優・山田孝之の「世界最高峰のカンヌ映画祭で賞をとりたい」という言葉で始まった、カンヌで最高賞(パルムドール)をとるための映画『穢の森』作りを追ったドキュメンタリードラマ。プロデューサーの山田が暴走気味に現場を引っ張り、主演女優の芦田愛菜と監督の山下敦弘が振り回される様子が話題を呼んだ。ドラマ自体の監督を山下敦弘と松江哲明が務めた。

そんな「カンヌ」をきっかけに生まれたのが、『映画 山田孝之 3D』だ。

一足早く試写を観た。結果、「山田孝之」という俳優がますます分からなくなった。

この作品は一体何なのですか?!  ―—山田の“共犯者”であり、「カンヌ」に続き、映画でも監督を務めた松江&山下両監督にお話をうかがった。

山田孝之という人の強さが成立させた企画

―—「カンヌ」、『映画 山田孝之 3D』と観てきて、この映画はある意味、山田孝之さんの成長記録の集大成のように感じました。監督お二人の中ではどう位置づけていらっしゃるのでしょう?

山下:「山田孝之の東京都北区赤羽」(テレビ東京ほかで2015年に放送。山田が赤羽に移住した2014年夏の出来事を追う。以下、「赤羽」)に始まり、「カンヌ」を撮って、もう3年ぐらいになります。僕らがこの3年間に感じた山田くんの魅力を一つ形にしたという感じですね。

松江:僕らが濃く付き合ってるのはここ3年ですけど、「山田孝之」という人がいろんな人に愛されて、いろんな認知のされ方をしてるので、決して僕らが撮っていることは山田くんのすべてではない。「僕らが見た側面」を形にできたかなという思いはあります。

松江哲明監督 撮影=伊藤さゆ

——山田さんにはいろんなパラレルワールドがあって、その中の一つということでしょうか。

松江:そうなんです。あの人ってそこが不思議で。僕らは、山田くんが他の監督には言ってない「カンヌで賞とりたいんです」とか「赤羽に住もうと思うんです」っていうときに呼ばれる役割なんです(笑)。

——「カンヌ」といい、この映画といい、着地点が分からない。よくテレビ東京がゴーサインを出したものだと驚きました。これができるテレビ東京の強さってどんなところにあると思いますか?

山下:テレ東の強さもなんですけど、やっぱり山田孝之の強さですよね。あれを成立させてしまう何かを持ってるんですよね。

松江:そうそう、だから芦田さんが主演としてやろうと思ってくれたのも、今の山田くんが持つオーラというか、勢いみたいなものだったと思うんですよね。確かにテレ東さんもすごいけど、「山田孝之だから」っていうのが一番大きい気がします。

山田孝之は「芝居か、芝居じゃないか」が分からない

——『映画 山田孝之 3D』について、チラシには「山田さんの世界にダイブする」映画とあります。でも、「山田孝之を語る山田孝之」を山田さんが演じることもできるわけで、映画を観て、ますます山田さんが分からなくなりました。これは狙いなんでしょうか?

松江:もちろんそうです。たとえば、子ども時代の話をしてるからといって、山田くんの子ども時代の写真を出してもズレるんです。山田くんのインタビュー映像の背景に出てくるCGアニメーションなんかは、より“変な掛け算”にしたかった。それが(漫画家の)長尾謙一郎さんに芸術監督をお願いした理由なんですけれども。ちょっと違ったモノをかまさないと。これが山田孝之の面白いところで、敢えて変なことをすることによって、より広がるんです。

——山田さんはもちろん、何がその人間のリアルなのかというのは、誰にも分からないですよね。

山下:それが分からないから面白いとも言えるし。まだこの映画の背景の映像ができる前、山田くんのインタビュー映像を一度全部つないだときに、「これ、もしかして全部ウソだったらどうしよう……」って怖くなったんです。「全部ウソって可能性も無くはないよね」って。だったら天才だなと思いますけど。いまだに分からないですよ。

松江:本人が「1個ウソついた」って言ってるんけど、それがどこか分からない。 もしかしたら僕らがカットしちゃった部分かもしれないし……。

山下:俺も分からない。

『映画 山田孝之3D』6月16日(金)より全国公開
(C)2017「映画 山田孝之」製作委員会

——「赤羽」から3年一緒に作品を撮ってきても、まだ山田さんのウソとホントは……。

山下:分からないです、あの人は。「ウソか、ホントか」というより、「芝居か、芝居じゃないか」が分からない。

松江:僕が山田くんを好きなのは、山田くんをずっと見てると、「人間って面白いな」っていうところまでいくんですよ。“ただ面白い人”なら「この人、面白いな」で終わるんですけど、山田くんに関しては、「人間って面白いな」までいく。別に彼が役者だからじゃなくて、「人間って芝居をするものだ」ということまでも感じさせてくれる。なかなかそういう人って、いないと思いますね。

山下:「赤羽」のときも思ったんですけど、後で素材を見ると、山田くんが赤羽に住む人たちを演出してるのが分かるんです。山田くんが人を動かしちゃってる。山田くん自身が面白くて、プラス、人に当てたボールをちゃんと返ってこさせるだけの何かを持っている。ドキュメンタリーって「やらせか、やらせじゃないか」っていう議論になっちゃうんですけど、山田くんと撮っていると、「基本、人は芝居をするけど、芝居をするかしないかは、そこにいる人次第」という次元になるんです。

松江:いい芝居するんですよ。山田くんがいると、まわりの人も。

山下:そうそう。それはすごく感じましたね。

松江:山田くんと一緒にいて、芝居しないのは子どもだけですね(笑)。

カンヌのために、映画を撮ってもいい

——ちょっと「カンヌ」の話になりますが、視聴者が「いやいや、違うんじゃないの?」とツッコミながら観ていたポイントの一つが「賞をとるために映画を作る」という部分だったと思います。お二人とも既に何本も作品を撮っていて、いい映画を作る「いろは」はご存じ。でも、敢えて「賞のための映画」作りに巻きこまれていく、その心境はどんなものだったのでしょうか?

山下:山田くんも言ってたけど、「みんな実は賞を狙ってるでしょ?」っていう、そこに「なるほど」と思っちゃったんですよ。「賞を目指して撮るなんてカッコ悪い」というルールを、自分たちで勝手に作っていたんですよね。でも、敢えて狙うっていうのも、やっていいんじゃないかなってあの時は思っていました。昔だったら「カンヌを目指す」って言うなんて恥ずかしいなと思いましたけど、「カンヌ」をやってる途中はちょっと気持ちよかったですね。

山下敦弘監督 撮影=伊藤さゆ

松江:「カンヌ」をやったあとに山下くんが「次はカンヌを目指す」って言うと、すごい恥ずかしいよ(笑)。

山下:まだ何も分かってねえ! って言われちゃう(笑)。今は熱が冷めたので、カンヌはもう……。でも、「カンヌでパルムドールをとる!」って頑張ってる人がいても、いいなと思いますけどね。「山田孝之のカンヌ映画祭」は失敗例ですけど、間違ったことは言ってないので、あれを反面教師にしてくれれば、何かヒントはあると思うんです。

「不思議なものをテレビでやるって、すごく大事」

——メジャーな映画作品に出演する人気俳優でありながら、山田さんが日本の今の映画界にもの申す構造になっているところが「カンヌ」の面白さでもありました。「カンヌ」『映画 山田孝之 3D』と、一連の制作を通して、お二人の映画作りへの取り組み方に何か変化は生じましたか?

山下:僕は次、夏に現場の予定があるんですけど、そのときにいろいろ跳ね返ってくるだろうなとは思っていますね。

松江:実は、僕は日本映画界だけじゃなく、もっと、今のこの国の社会の窮屈さというのを描きたかったんです。それが、「カンヌ」を不特定多数の人が見られるテレビでやった理由でもあるんですよね。山田くんが、あるものにドン・キホーテ的にぶつかっていく姿って、一見バカらしいかもしれないけど、ああいう行動をバカにするのはつまらないし、虚実曖昧で不思議なものをテレビでやるってすごく面白いし、大事なことだと思う。

『映画 山田孝之3D』6月16日(金)より全国公開  
(C)2017「映画 山田孝之」製作委員会

山下:『映画 山田孝之 3D』も「映画」ってつけてるけど、劇場で、3D で観るからみんな映画だと思うわけで、別に「何これ! 映画じゃないじゃん!」って思う人がいてもいいと思うんですよね。今は深夜番組を含め、テレビにも「怪しい、いかがわしいもの」がなくなった。俺はこの映画自体が「いかがわしいもの」でいいと思っているので。TOHOシネマズというシネコンでかかるから大丈夫と思って観るんだろうけど、「起承転結あると思うなよ!」っていう(笑)。何を見たか絶対説明できない。

松江:そう、TOHOシネマズっていうのが大事なんですよ!

——「よく分からないもの」「怪しいもの」を作ることに飛び込んで行けたのは、ある意味、山田さんの力と言うこともできるのでしょうか。

山下:東宝、TOHOシネマズまで巻きこむという、山田くんのスケールの大きさのおかげでもありますよね。

松江:山田くんって、彼が持つ「違和感」みたいなものを自分で作った人だと思いますよ。『ジョジョ』(映画『ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない 第一章』)のポスター、怖いよね。漫画の世界の中に本物の殺人鬼がいる、みたいな(笑)。「まぜるなキケン」みたいに。ヤバいんです、あの人!

松江哲明(まつえ・てつあき) ドキュメンタリー監督。1977年、東京都生まれ。『あんにょん由美香』(09)、『ライブテープ』(09)、『フラッシュバックメモリーズ3D』(13)など。
山下敦弘(やました・のぶひろ) 映画監督。1976年、愛知県生まれ。『リンダリンダリンダ』(05)、『天然コケッコー』(07)、『苦役列車』(12)、『もらとりあむタマ子』(13)など。