結婚はただの制度でゴールじゃない

直木賞作家・井上荒野の同名小説を映画化した『結婚』で、ディーン・フジオカが結婚詐欺師役に挑戦。「結婚イコール幸せ」という女性の夢を砕きつつも、愛さずにはいられない男・古海健児を色香たっぷりに演じている彼が、 “罪な男”の役づくりをするうえでのこだわりや、独自の結婚観を語った。

俳優と結婚詐欺師は近い職業!?

 

Q:出演の決め手となったものは?

西谷(真一)監督と「また何か一緒にやろう」と話していて、この企画に決まりました。結婚詐欺師の役と聞いて最初は驚きましたけど、自分が勝手にイメージする古海健児の人物像が魅力的に思えたんです。彼は自分がどうやって生きて、どこに向かっているのかわからない。その設定にとてもやり甲斐を感じました。それに、俳優という仕事の実働部分と結婚詐欺師のやっていることって、近いですよね(笑)。演技力を求められた場所で求められたときに正しく使うと俳優になり、ルール無視でやると犯罪者になる。

Q:つまり、詐欺師は演じやすいキャラクター?

“演技する”という意味でのアプローチは普段と変わらないですね。まずはキャラクターのバックグラウンドを自分なりに創って、彼の掴みどころのない雰囲気、実体のない感じをどう表現するかを考えました。普段はもっと直感に沿ったストレートな演技が好きなんですが、今回はカメラのアングルやライティングをかなり意識して、小ワザを利かせて演じています。

Q:ダンスにピアノ演奏にキスシーンと、セリフを発しない身体表現が多いですね。

社交ダンスは初めての経験でした。半日くらい集中して練習して、社交ダンスとしては成立していませんが、カメラアングルや編集の力で、映像としてはギリギリ成立したのではないでしょうか(笑)。

Q:背筋がピンと伸びていて、佇まいが美しかったです。

中華武術をやるときもそうですけど、トラディショナルな武道や肉体を使うものは、胸を張って姿勢を正すことが基本にありますから。自分なりの経験がだいぶ役に立ちました。この作品には食べるシーンを含めて、原始的な描写が必要不可欠だったと思います。ただキスシーンやラブシーンに関しては、「編集でああなるんだ」とビックリしました(笑)。

シャインマスカットはマッチ売りの少女のマッチ

Q:シャインマスカットを食べる仕草も、どことなく官能的でした。

テクスチャー(質感)が偽物みたいですよね。ジェイド(翡翠)のようにも見えつつ、食べるとすごく甘くて、種も入っていない。光り輝くマスカットがなくなると同時に、魔法も消えていく。“マッチ売りの少女”にとっての、マッチのような存在です。茎だけになった画もシュールなので、僕の好きなフルーツというだけでなく(笑)、メタファーとして選んでいただきました。

Q:ほかにディーンさんご自身から出されたアイデアはありますか?

基本的に、僕は俳優をやるときにはアイデアを出さないんです。受け身の仕事だと思うので、監督やプロデューサーが何を創りたいかを理解することに努力する。その要求に対して、どれだけ精度を高めて戻せるか。もしくはいい意味で期待を裏切れたらいいと思っています。ただし今回は、監督がディスカッションの機会をいろいろ設けてくださったので、自分も作品への情熱から、自由に意見交換させていただきました。

Q:エンディングに流れる主題歌の作詞作曲も、ディーンさんが担当されていますね。

この作品に当て書きした歌詞の世界は、自分なりのひとつのアンサーソングです。古海健児というキャラクターは、何を考えどこに向かっているのか、実は古海本人もよくわかっていない。だから自分なりに想像を膨らませて書いたわけです。この曲が終わったときに映画も終わる、という感覚で取り組ませてもらいました。

プロポーズ秘話と結婚観

Q:ロマンティックなプロポーズシーンも登場しますが、ディーンさんもシチュエーションにはこだわりましたか?

まったくないです。行き当たりばったり(笑)。

Q:理想とはほど遠い形で?

長年「結婚しなくていいかな」と思っていましたから。ただ年齢を経ていくうちに、人生は短いんだと痛感したわけです。1年でこれだけのことしかできなかったとか、そうなるとあと何回やれるだろう……とか、数字や終わりが見えてきちゃう。ずっと遠距離の関係が続いていたこともあって、玄関で衝動的にプロポーズしました。

Q:都会や男社会で奮闘しながらも孤独で、結婚に人生の転機を懸けている女性キャラクターたちは、ディーンさんの目にはどう映りますか?

結婚って、ただの法的な制度ですよね。考え方は人それぞれですが、劇中のセリフにもあるように、ゴールではなくスタート。自分は結婚して良かったと思うし、帰る“家”の存在が安らぎや踏ん張る力になっていますけど。どこに人生の価値を置くか、個人差がありますから。この作品は観る方それぞれが自由に解釈できるオープンエンディングになっていますが、人生ってそういうもの。明日はどうなるかわからない。それがいちばん正直な気持ちかもしれないです。

取材・文: 柴田メグミ 写真: 金井尭子