文=金田裕美子/Avanti Press

巷で「おしゃピク」というものが流行っているそうです。おしゃれな敷物やバスケット、フォトジェニックな食べ物や飲み物をそろえたピクニック、略して「おしゃピク」。SNS上には、おしゃピクの美しく楽しそうな写真があちこちにあふれています。

巨匠フランシス・コッポラの夫人エレノアが
初監督作でこれでもかと見せる食への思い入れ

そんななか、ぜひおしゃピクの参考にしたい映画、『ボンジュール、アン』が7月7日から公開されます。この映画で描かれるのは、張り切ってカワイイものをそろえたきゃぴきゃぴのピクニックではなく、フランスはロワール川の岸辺でワインやチーズなどを並べる、さりげなく贅沢な大人のピクニック。ロワール川には行けないけれど、今回はこれに挑戦してみます。

『ボジュール、アン』は、『ゴッドファーザー』などで知られる巨匠、フランシス・コッポラ監督夫人であるエレノア・コッポラの脚本・監督作品。エレノアは本作でなんと、80歳にして長編劇映画監督デビューを果たしています。そしてこのお話は、エレノア自身の実体験がもとになっているのだとか。全編フランスの超美味しそうなものに溢れたこの映画を見ると、彼女がいかに食いしん坊かがわかります。エレノア、仲間仲間。

『ボンジュール、アン』
7月7日(金)よりTOHOシネマズ シャンテ他にて全国ロードショー (c)the photographer Eric Caro

映画プロデューサーである夫マイケル(アレック・ボールドウィン)と共にカンヌ映画祭に来ていたアン(ダイアン・レイン)は、このあと夫婦でバカンスを楽しむ予定でしたが、夫は仕事で急遽ブダペストに飛ぶことに。仕方なくマイケルの仕事仲間のフランス人ジャック(アルノー・ヴィアール)の車に乗せてもらい、一緒にパリまで向かうことになります。しかし、南仏のカンヌから北部の都市パリまでは900キロ以上、10時間はかかる距離。いくら夫の仕事仲間とはいえ、特に親しくもない男性と二人きりでそんなに長時間を過ごすのです。

カンヌ映画祭に参加したマイケル(アレック・ボールドウィン)とアン(ダイアン・レイン)
『ボンジュール、アン』  7月7日(金)よりTOHOシネマズ シャンテ他にて全国ロードショー 
配給:東北新社 STAR CHANNEL MOVIES  (c)the photographer Eric Caro

戸惑い気味のアンの気持ちを察して、ジャックはまず彼女をレストランに誘い、美味しい食事とウイットに富んだ会話でリラックスさせようとします。地元のワインを勧められ、アンは最初こそ断るものの、ちょっと解放的な気分になって飲んでみることに。このワインに合うという生ハム&メロンとともに味わって、「美味しい!」と感激するアン。

ドライブとおいしい料理…心を開かずにはいられない条件

「機内食はまずいから」と搭乗前に紙袋いっぱいの食料を用意するほどグルメなジャックは、その辺に生えているたんぽぽを見ても「オリーブオイルとアンチョビ、塩こしょうでサラダにしたら美味しい」などと言い、アンは「何でも食べ物に結びつけるのね」とあきれ気味。しかしプロヴァンスの古城や、セザンヌの絵画で有名なサント=ヴィクトワール山、ローマ時代の水道橋などを観光しながらドライブするうちに、アンは少しずつジャックに心を開いていきます。

『ボンジュール、アン』 ローマ時代の水道橋、ポン・デュ・ガール
7月7日(金)よりTOHOシネマズ シャンテ他にて全国ロードショー (c)the photographer Eric Caro

とはいえ、「休憩も必要だし、トリュフのシーズンだし」とかなんとか言って、なかば強引にヴィエンヌのレストラン付きホテルに一泊することにしてしまったのにはアンもびっくり。もちろん部屋は別ですが、これまで子どもと夫を第一に考え、家庭を守ってきたアンには大変な冒険です。

地元の美味しい食事とワインを無事(?)堪能して、翌朝ふたりは気分よく出発。ところがローヌ川沿いを走っている最中に、ジャックの車が故障して立ち往生してしまいます。アンは「いつになったらパリに着けるの?」と途方に暮れますが、ジャックは「慌てても仕方ない」と全く動じず、楽しそうに川原に降りて行ってピクニックの準備を始めます。シートを敷いて、野生のクレソンを摘み、バスケットからチーズやパン、果物を取り出してワインで乾杯。

『ボンジュール、アン』ダイアン・レインとアルノー・ヴィアール
7月7日(金)よりTOHOシネマズ シャンテ他にて全国ロードショー (c)the photographer Eric Caro

それでは“おしゃピク”道を究めてみましょう!

これです! おしゃピクのお手本にするのは。たまたま車が故障しちゃった場所で、というのがヤル気満々すぎなくて格好いい。このシーンにも出てくるように、おしゃピクの重要なアイテムはまずピクニック・バスケット。そして陶器のお皿、ガラスのワイングラス、金属のナイフとフォーク。紙皿や紙コップなんぞを使ってはいけません。「えー、重いし割れるしー」などと言っていては、おしゃピク道は究められないのです。

次にメニューです。ふたりのバスケットから出てくるのは、シェーブル(ヤギのチーズ)数種、パン、ぶどう、プラム、白ワイン。そしてジャックが川原で摘んできたクレソン。その土地の美味しいものを少しずつ、という感じです。ヤギのチーズは「【映画の料理作ってみたらvol.8】憧れだったハイジのとろーりチーズに挑戦してみた」の回でヤギミルクから作ることに挑戦しましたが、ここはやはりフランスの職人さんの作ったものを購入しました。チョイスしたのは、ふたりが通ってきたプロヴァンス名産の、栗の葉に包まれたクリーミーな「バノン」、ジャックが一番好きだという「クロタン・ド・シャヴィニョール」、そしてこのあと立ち寄るリヨンの南にある町で作られる「サン・マルスラン」(こちらは牛乳のチーズ)。さらに、ジャックが一番美味しいと太鼓判を押す、ブルターニュ産のバターも入手しました。

左上から反時計回りにサン・マルスラン、クロタン・ド・シャヴィニョール、バノン、ブルターニュ産バターのボルディエ

リヨンは、「映画の父」と呼ばれるリュミエール兄弟ゆかりの地で、アンとジャックはここにあるリュミエール研究所にも立ち寄り、映画誕生の歴史にも触れます。研究所の所長とジャックは以前関係があったらしく、なんとなくあやしい雰囲気。そんな3人でぎこちなくフランス一というリヨンの市場でチーズやサラミ、その他膨大な量の食材を見、人気のレストランで昼食をとります。ここで最初に出てくるのが、そら豆のタルティーヌ。タルティーヌはスライスしたパンの上にさまざまなものをのせて食べる、オープンサンドのようなもの。茹でたそら豆をのせたこのシンプルなタルティーヌも、ピクニック・メニューに加えます。

もうひとつ、あちこちの高級レストランでさんざん美味しいものを食べてきただろうジャックが「何よりも美味しい」というトマトのタルティーヌ。お母さんが焼きたてのパンにもぎたてのトマトをスライスしてのせ、塩こしょうとオリーブオイルをかけて食べさせてくれた思い出のひと品なんだそうです。

ワインが進みます!そら豆、トマトのタルティーヌ

まずそら豆のタルティーヌを作ります。そら豆はさやから出して、黒い筋の反対側の皮に切れ目を入れます。これ、黒い筋の側に切れ目を入れる派の人もいますが、両方やってみたところ、反対側の方が茹でたあと身を取り出しやすいです。沸騰したお湯に塩を入れ(濃度は2%くらい)、そら豆を投入。豆の大きさにもよりますが、2~3分ほど茹でて皮から取り出し、加減をみて塩、こしょう、オリーブオイルで和えます。これを薄く切ったバゲットに並べ、上におろしたパルメザンチーズをかければ出来上がり。

そら豆は黒い筋の反対側に切れ目を入れると剥きやすいです

トマトのタルティーヌは、完熟トマトをカットして塩、こしょう、オリーブオイルで和えます。今回はプチトマトを使いました。これを同じくバゲットにのせ、生のオレガノを飾りました。そら豆のタルティーヌと一緒に並べると、緑と赤が色鮮やかでおいしそう! 俄然おしゃピク度がアップします。

緑と赤がきれいなタルティーヌ2種

あまり手をかけないのが大人のさりげないピクニック、と言いつつ、貧乏性なのでやはりあれもこれもと欲張りたくなってしまいます。アンとジャックが最初に食べた生ハム&メロンも作りました。これは文字通り、メロンに生ハムをのせるだけ。

生ハム&メロンは、メニュー名がすべてを表しています…

『昼下りの情事』の超セレブピクニックで
オードリーが食べてる鶏の手羽元

さらに。フランス、パリ、ピクニック、と聞いて私がどうしても思い出すのが、オードリー・ヘップバーン、ゲイリー・クーパー主演のロマンティック・コメディ『昼下りの情事』(1957年)です。パリのホテルリッツに滞在しているアメリカ人富豪のフラナガン氏(クーパー)と、プレイガールを気取ってはいるものの実はうぶな音楽院生のアリアーヌ(ヘップバーン)は、昼下りにだけデートする関係。フラナガン氏は億万長者らしくホテルから大勢引き連れてパリ郊外にピクニックに出かけます。きちんとテーブルクロスをかけた野外用テーブルに、執事はどんどんシャンパーニュを運んでくるわ、お抱え楽団はそばで演奏を続けるわ、もう、おしゃピクどころではありません。超セレブピクとでもいうのでしょうか。ここでオードリーが食べているのが、意外と普通のチキンレッグ(鶏の手羽元)。無理やりこれもメニューに加えちゃいましょう。

『昼下りの情事』フラナガン氏(ゲイリー・クーパー)とアリアーヌ(オードリー・ヘップバーン)のセレブピク
(c)Globe Photos/ZUMAPRESS.com

プロヴァンスをイメージして、鶏の手羽元ににんにくと塩こしょう、白ワイン、オリーブオイル、ローズマリーで下味をつけてオーブンで20分ほど焼きました。

ピクニックにはやっぱりチキン

ワインは、映画にちなんでカンヌ映画祭オフィシャル・ワインであるムートン・カデの赤と白を用意。今年70回目を迎えた同映画祭で使われた、70回記念ボトルです。

ムートン・カデのカンヌ国際映画祭70回記念ボトル。羊の模様がさりげなくフィルムになってます。意外にお手頃、千円台で買えます!

バスケットにいろいろ詰めて池のある近所の公園へ、いざ!

では、いざ。食器やらなにやら全部バスケットに詰め込むと、重い。そして歩くとバスケットがバンバン足に当たって、痛い。バスケットは可愛いけれど、実用的かどうかは疑問です。向かった先は、池のある近所の公園。ここをローヌ川の岸辺に見立てるのは相当無理が……と思ったのですが、シートを敷いてバスケット脇にカラフルなタルティーヌやグラスにさしたクレソン、チーズ、ワインと本物のワイングラスなどを並べてみると、なんだかそれっぽく見えてきました。すごい! SNSに投稿したい!

じゃーん!

セッティングできたところで、ワインで乾杯。チーズはそれぞれさっぱりした味わいだったり、とろーりクリーミーだったりで美味しい。同じシェーブルでも、食べ比べてみると個性の違いがはっきりわかります。そら豆のタルティーヌは、パンの上に豆? と思いましたが、これはいける。塩茹でや、さやごと焼いたもの以外あまり食べることのないそら豆も、オリーブオイルやチーズを使うとワインにぴったりの1品になるんですね。トマトのタルティーヌ、生ハム&メロンはおなじみの美味しさ。ブルターニュ産バターはスライスしたバゲットに塗って食べてみます。今回用意した「ボルディエ」は、昔ながらの手練り製法で作られているんだそう。濃厚でほんのり甘くてクリーミーで、しょっぱいミルキーみたい。ほあー、すごいバターがあるもんだ。クレソンや果物など、さわやか系もラインナップのマストであることがわかりました。

ジャックの好物、クロタン・ド・シャヴィニョールとクレソンをのせて

近所の公園で仕事や子育てから解放された贅沢な時間!?

ピクニックもこうしてテーマを決めると、持って行く食べ物や飲み物、さらには演出のための小物(?)まで選ぶワクワクが増えて、楽しさ倍増です。見慣れた近所の公園も、ちょっと違った贅沢な空間のように見えるから不思議。ジャックと旅したアンも、解放された気分でこんなふうに野外でのんびりした時間を持って、仕事や子育てに邁進してきた自分の半生を振り返ってみたのかもしれません。

カモのおふたりもおしゃピクに飛び入り参加

振り返るといえば……アンを演じたダイアン・レインがその美少女ぶりで世界中の映画ファンを虜にしたデビュー作、『リトル・ロマンス』が公開されたのは1979年。パリに住む早熟なアメリカ人の少女が、これまた早熟なパリジャン少年と恋に落ち、“「ため息の橋」の下で日暮れ時にキスした者は永遠の愛で結ばれる”という伝説を信じてヴェネチアを目指すお話でした。その後ダイアンはロック歌手になってギャングに狙われ(『ストリート・オブ・ファイア』)、クラブ歌手兼ボスの愛人になり(『コットン・クラブ』)、幸せな専業主婦だったのにフランス人青年と不倫して苦しむことになり(『運命の女』)、離婚して傷心旅行先のトスカーナで古い屋敷を衝動買いし(『トスカーナの休日』)、赤狩りで迫害された脚本家の夫ダルトン・トランボを支え(『トランボ ハリウッドに最も嫌われた男』)、そして今、自らを振り返りつつ、またパリに戻ってきたのね……となんだか感慨深いものがあります(映画と現実が完全にごっちゃになってる)。

『リトル・ロマンス』ダイアン・レイン14歳!
ローレン(ダイアン)とダニエル(テロニアス・ベルナール)
(c)Entertainment Pictures/Entertainment Pictures/ZUMAPRESS.com

ピクニックしながらそんなことを考えていて、あまりの気持ちよさに夕方まで長居してしまったところ、あちこちを蚊にボコボコにされました。ピクニックにお出かけの際は、虫よけをお忘れなく。

『ボンジュール、アン』 7月7日(金)よりTOHOシネマズ シャンテ他にて全国ロードショー 

《おしゃピク料理の材料》
〈そら豆のタルティーヌ〉そら豆、オリーブオイル、塩、こしょう、パルメザンチーズ、バゲット
〈トマトのタルティーヌ〉完熟トマト、オリーブオイル、塩、こしょう、オレガノ(バジルなどほかのハーブでも)
〈生ハム&メロン〉生ハム、メロン
〈ロースト・チキンレッグ〉鶏手羽元、にんにく、白ワイン、オリーブオイル、ローズマリー、塩、こしょう
〈その他……〉シェーブルなどのチーズ(今回用意したのは、バノン、クロタン・ド・シャヴィニョール、サン・マルスラン)、バゲット、ブルターニュ産バター、クレソン、ぶどう、プラム、ワイン
《映画っぽい雰囲気を盛り上げる小道具》
ピクニック・バスケット、レジャーシート、本物の食器、数読、バラの花、故障した車
《必携品》
虫よけ