(C)Gift Girl Limited / The British Film Institute 2016 

もう“ゾンビ”なんて呼ばせない!?玉石混交の中でのアイデア勝負『ディストピア パンドラの少女』

コラム

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ゾンビという題材を映画で初めて取り扱った、怪奇俳優ベラ・ルゴシ出演の『恐怖城 ホワイト・ゾンビ』(1932年)から85年。ホラー映画のサブジャンルの一つである“ゾンビ”はジョージ・A・ロメロ監督の『ゾンビ』(1978年)をきっかけにパンデミックを起こすがごとくホラー映画の人気者として躍り出たが、死体の腐敗スピードとノロノロとした歩調を合わせるように早々に失速。蘇るまでには『バイオハザード』(2002年)の世界的ヒットを待たなければならなかった。

『バイオハザード』誕生後のゾンバブル

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『バイオハザード』の大ヒットから15年。メジャー、インディペンデントを含めて現在まで製作されたゾンビ映画は、20世紀中に製作されたゾンビ映画の本数を遙かに超えたともいわれており、映画のみならず、漫画、テレビドラマ、小説、ゲームの世界にも幅広く進出する大出世ぶり。『ゾンビ』はザック・スナイダー監督によって『ドーン・オブ・ザ・デッド』(2004年)としてリメイクされ、近代ゾンビの産みの親ロメロ監督は約20年ぶりに『ランド・オブ・ザ・デッド』(2005年)でゾンビ映画にカムバックした。安倍晋三内閣総理大臣もファンというテレビシリーズ「ウォーキング・デッド」もゾンビジャンルの人気を広げる要因となり、哀川翔主演の『Zアイランド』(2015年)や長澤まさみ・有村架純・大泉洋ら旬の人気俳優たちが出演した『アイアムアヒーロー』(2016年)など邦画でもゾンビがワラワラ増えだした。今では一過性のブームを通り越して、安定のジャンルになったといえる。

第1次ブームともいえる1980年代のゾンビといえば例外はあれど、ノロノロ歩く、頭を破壊しないと倒せない、人肉を喰らう、高度な知能はほとんどないなどの基本的なルールがあったが、21世紀に入ると死体というのがウソのような猛ダッシュ系が主流となり、ルールや設定も独自のものが増えた。見た目や状態はゾンビながらも、呼び名が違ったり、新種が誕生したり、ゾンビ化に至る経緯も様々。製作陣もマンネリ化を避けるかのように知恵を絞りに絞り、生ける屍たちの背中を押している。

ゾンビではなく“ハングリーズ”

7月1日公開の映画『ディストピア パンドラの少女』もその一つ。登場するのは“ハングリーズ”と呼ばれるゾンビのようなもの。突然変異したタイワンアリタケというキノコがその現象の原因で、菌が体内に入ったり、ハングリーズに噛まれたり、その血が体内に入ることで感染する。主食は人間のフレッシュミート。獲物を見つけると尋常ならざる脚力と怪力を発揮するが、普段は熟睡中のサバンナのシマウマのようにじっとしている。人間の匂いや音に敏感だが、銃声に反応しない時がごくたまにある。時間が経つにつれて肌も樹木の表面のようなガサガサ感が増し、最終的には体の中から植物が芽を出して、集団で樹木化。巨大なクルミのような実をつけて胞子をばらまき、同志を増やすという塩梅だ。

ゾンベイビーは乱暴チルドレンに

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『ドーン・オブ・ザ・デッド』ではゾンビになった妊婦のお腹から生まれた新生児が超凶暴なゾンベイビーとして産声をあげる絶望的瞬間を描いたが、『ディストピア パンドラの少女』ではさらに踏み込んで、ウィルスに感染した母体から誕生した子供たちを主人公にする。セカンドチルドレンと呼ばれる彼らは、見た目は普通の人間で、中には高い知性を持つ者もおり、生育環境次第ではまっとうに育つ可能性も秘めている。そのため政府は研究施設にセカンドチルドレンたちを集めて、その体からワクチンを作り出そうとするが、なかなか上手くいかない。一見いい子に見える少女も、人間の匂いを嗅いだり、血を感じたりすると凶暴性が顔を出し、前後不覚になったりする。

研究施設に保護されなかったセカンドチルドレンもいる。そんな彼らは独自の言語・ファッションスタイルを形成し、乱暴チルドレンとして共同生活。一番力の強いものがリーダー格として集団を組織しているが、下剋上も可能。リーダー争いは一対一というサムライ気質で、組織構造は山猿に近いものがある。群れの結束力は高く、人間の弱みや欲望に付け込んだトラップを計画実行し、獲物をハンティングする知能を有している。

ファンタスティック映画祭で受賞

原作は“カズオ・イシグロmeetsウォーキング・デッド”と評されたM・R・ケアリーによる小説「パンドラの少女」。作者の思い入れも深いのか、脚本も執筆している。作品の世界観を作り出した原作者自らが直接タッチしているだけに、やや説明不足になっている部分もあるが、既存のゾンビジャンルのくくりからはみ出そうとオリジナリティを目指す意気込みは買える。高い知能を持つセカンドチルドレンのメラニーを演じたセニア・ナニュアは500人を超えるヒロイン・オーディションから抜擢された期待の子役。第49回シッチェス・カタロニア国際ファンタスティック映画祭では女優賞をゲットした。

文・石井隼人

記事制作 : 石井隼人

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