文=新田理恵/Avanti Press

映画館前を騒然とさせた『昼顔』の上戸彩と斎藤工

今月17日~26日の日程で開催された上海国際映画祭の初日の夜、上海市中心部にある劇場「上海美琪大戯院」(マジェスティック・シアター)前には、車道にまであふれるほどの人だかりができていた。目的は、映画『昼顔』の上映にあわせて舞台挨拶を行う主演の上戸彩と斎藤工の姿を見ること。チケットは発売後すぐに完売。運良く購入できて入場を待つ人々以外にも、チケットの転売を求める人や、人だかりを見物する人の群れで一時周囲は騒然とした。

『昼顔』開場前の劇場周辺は大盛り上がり 撮影=新田理恵

 

入場を待つ20代の若者に話を聞くと、その多くが「最初はアニメから日本に興味を持ち、ドラマや映画にはまっていった」と口をそろえる。上戸のファンだという女子大生は、「子どもの頃、家族でテレビ放送されていた「名探偵コナン」(読売テレビ・日本テレビ系)を見ていて、日本のアニメや漫画に慣れ親しんで育った。友だちからドラマ「半沢直樹」(TBS系)を薦められてからはドラマにもはまり、主人公の奥さんを演じていた上戸のファンになった」と話す。

レッドカーペットで。『昼街』の西谷弘監督(左)、上戸彩(中央)、斎藤工(右)

放送してないドラマ「カルテット」で高橋一生のファンに!?

中国の日本映画・ドラマファンは、とにかく情報が早い。

同映画祭で前後編が2夜連続上映された『3月のライオン』では、主人公が通う高校の先生を演じた高橋一生がスクリーンに映るだけで観客がざわついた。違法アップロードではあるが、ほぼリアルタイムでドラマ「カルテット」(TBS系)を見て高橋のファンになったという人もいれば、深夜ドラマ「民王」(テレビ朝日系)の頃から注目していたという人も。「民王」といえば、主演の菅田将暉のファンも多く、今年上映された日本映画の中でも、『帝一の國』は最もチケットが取りにくかった作品のひとつだ。

ファンに囲まれる『3月のライオン』の大友啓史監督

上海には、嵐のファンも多い。『忍びの国』の上映には、コンサートさながら、主演の大野智や嵐のうちわを手にした若い女性が映画館につめかけた。大野のファンだという女子大学生は、「私のファン歴はまだ浅い。友だちに勧められてネットでドラマ『世界一難しい恋』を見たのがきっかけ」と教えてくれた。

「虹郎、可愛い~!」熱気に包まれた『二度めの夏、二度と会えない君』

25日に主演作『二度めの夏、二度と会えない君』(9月1日公開)が世界初プレミア上映された村上虹郎は上映後のQ&Aに登壇。満席の約600人の観客を前に「見終わったばかりの皆さんの表情がキラキラと輝いていて、すごく嬉しい」と挨拶した。質疑応答では「『武曲 MUKOKU』も中国で上映する予定はないのか」と質問があがるなど、フレッシュな若手にもかかわらず、既に彼を知っている日本映画通が大勢いることに驚かされる。終了後は、気さくで飾らない村上の受け答えに感激したファンたちの「虹郎、可愛い~!」という投稿が微博(中国版Twitter)上に相次いだ。

『二度めの夏、二度と会えない君』(9月1日より新宿バルト9他全国ロードショー)の上映後、観客と記念撮影をする村上虹郎

中国には外国映画の輸入制限があり、一般公開される日本映画は少ない。テレビドラマも、一部、中国の動画配信サイトと提携してコンテンツを正式に提供している作品もあるが、多くは違法アップロードで視聴されている状況だ。

ファンをあおる“見られない”という飢餓感

「見られない」となれば、なんとか策を講じるのが人の常。中国には「字幕組」と呼ばれる有志の字幕翻訳者のネットワークがあり、日本で放送されたドラマには速やかに中国語字幕が付けられる。「逃げるは恥だが役に立つ」のような話題作は、日本で放送された翌日の昼にはネットに字幕付きでアップされていた。しかもその中国語字幕が、日本の制作会社が手掛けるレベルより、余程こなれていたりする。翻訳作業は、ファンによる、ファンのための“善意”で行われており、「見たいのに見られない」渇望が彼らを違法行為に走らせている。

アジアで熱狂的な人気を誇る「深夜食堂」シリーズはこうした違法アップロードの状況をうけ、シーズン3は正式に権利を販売し、現地の大手動画配信サイトを通して日本との同時配信に乗り出した。「深夜食堂」は、中国では6月12日から中国版リメイクドラマが放送され、中国版映画も制作されるなど、人気の拡大に成功。来月18日からは『続・深夜食堂』が中国で一般公開されることも決まっている。

『続・深夜食堂』の舞台挨拶での小林薫(左)と松岡錠司監督(右) 撮影=新田理恵

熱心なファンがついているとはいえ、「全体的に見れば、私たちみたいな日本の映画やドラマファンはまだ少数派」と語ったのは『昼顔』上映に来ていた30代の女性会社員だ。「圧倒的多数派は今でも“韓流”」だという。ただし、優れたコンテンツや脚本が不足している中国の映画やドラマ界では、日本の映画やドラマのリメイク権を買う動きが広がっており、リメイク作品を通じてオリジナルの日本版に興味を持つ人が増えるという構造もできつつある。少数派とはいえ、人口約14億の中国。そもそものパイが大きい。今日も大勢の若者が、インターネットを通して日本の最新芸能情報をリアルタイムでアップデートしている。