(C)2017『彼女の人生は間違いじゃない』製作委員会

東京で“デリヘル嬢”に…被災地からのリアルな叫びが聞こえる『彼女の人生は間違いじゃない』

コラム

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2011年3月11日の東日本大震災以降、震災に関する映画が次々と発表されています。7月15日から公開される映画『彼女の人生は間違いじゃない』も、被災地・福島が舞台。まだ若い女性が、仮設住宅から週末ごとにデリヘルのアルバイトをするために東京へ行く。その設定も衝撃的ですが、被災地のリアルな心の叫びが聞こえてくる1本になっています。

彼女は、デリヘルのアルバイトのために毎週末、福島から東京へ

朝もやの桜並木、車から防護服に身を包んだ人々が次々と降り、除染作業を始める“ドキッ”とするオープニングで幕を開ける本作。主人公は市役所職員のみゆき。母を震災で亡くし、元は米作り農家で今は失業中の父と二人、仮設住宅で暮らしています。ただ、表向き平静を装う彼女には、誰にも打ち明けられない秘密が。それは、英会話の勉強と偽り、毎週末東京へ向かい、デリヘルのアルバイトをしていること。作品では、どこか心にぽっかりと穴のあいたみゆきを中心に、働く意欲を失い酒とパチンコに溺れるみゆきの父親、復興推進に奔走するも市民から厳しい批難を受けるみゆきの同僚職員の青年ら、先の見えない人間たちがもがき苦しむ姿が切々と描かれます。

被災者だけではない。誰もが心に痛みを抱えている

みゆきを始めとする登場人物たちの姿から浮かび上がるのは、声にならない心の叫びにほかなりません。人生が一変するような出来事に遭遇し、そこから抜け出せない人間たちの言葉にはできない悲しみや孤独、生きることの虚しさ、辛さが聞こえてくるようです。そこには被災地・福島で生きる市井の人々の本心が反映されています。ただ、福島の人々の窮状を訴える作品ではありません。

観ていると、“大小の差はあるけれど、自身も同じような気持ちや感情を抱いたことがあるのではないか”とふと気づくのです。被災地の人々が抱くやるせなさ、どうやっても満たされない心といった感情はなにも特別ではない。もしかしたら混沌とした今の時代を生きる我々が多かれ少なかれ感じていることかもしれない。もっと言えば、いつ自分の周りでも人生を一変させるようなことが起きてもおかしくない、誰もが心に痛みを抱えながら生きているということに気づかせてくれます。また、その自身とこの物語がつながったとき、改めて被災地に思いを馳せることでしょう。

廣木隆一監督の故郷・福島への想い

本作を手掛けた廣木隆一監督は福島出身。この作品は、すでに自らの手で書き上げ発表している処女小説が原作になっています。今回の映画化のため新たに取材を行い、ここで描かれているエピソードのほとんどが実際現地で聞いたことだそう。デリヘルで働くみゆきも、のんだくれの父親も等しく扱い、誰も悪者にしない、その優しい目線には故郷・福島とそこで生きる人々への想いがあふれています。また、彼の過去の作品を振り返ると、廣木監督は作品を通して、今を生きる人々の心の痛みに寄り添ってきた映画作家であることがわかります。代表作といっていい映画『ヴァイブレータ』(2003年)では、31歳という微妙な年齢に達し、心の枯渇した女性、映画『きみの友だち』(2008年)では無二の親友との永遠の別れを体験する少女、映画『RIVER』(2012年)では秋葉原無差別殺人事件で恋人を失ったヒロインと、いずれも大きな喪失を抱えた人間の心の痛みに寄り添っています。近年は人気俳優を起用したラブコメや恋愛ドラマを数多く手がけている廣木監督ですが、人間の心の痛みに寄り添った作品こそが真骨頂と言っていいかもしれません。

『彼女の人生は間違いじゃない』――誰も彼女のことは責められないし、誰も彼女を否定できない。いつ自分が同じようなことになるのかわからない。このタイトルに込められた意味を噛みしめてほしい作品です。

(文/水上賢治@アドバンスワークス)

記事制作 : アドバンスワークス

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