文=金原由佳/Avanti Press

今年の夏休みは、個性豊かな子ども映画が相次いで公開される。そこで、お子さんのタイプ別に、おすすめ映画を紹介しよう。

コンプレックスの強いお子さんには『メアリと魔女の花』を

『メアリと魔女の花』
7月8日(土)から全国東宝系にてロードショー
(c)2017「メアリと魔女の花」製作委員会

『借りぐらしのアリエッティ』(2010年)、『思い出のマーニー』(2014年)の米林宏昌監督が、新たに設立したアニメーションスタジオ「スタジオポノック」で製作した『メアリと魔女の花』。原作はイギリスの女性作家メアリー・スチュアートが1971年に発表した児童文学「新訳 メアリと魔女の花(原題:The Little Broomstick)」だ。

主人公メアリは平凡な女の子。人の役に立ちたいという思いは強いけれど、やることなすことうまくいかない。注意力が散漫で、彼女が動くといろんなものが倒れたり、壊れたり、周囲をハラハラさせる。ゴワゴワした赤毛にもコンプレックスがあり、自己嫌悪に陥っている。大叔母の家に転居してきて、間もなく新学期が始まるけれど、友だちができるかどうかもかなり心配。そんな矢先、村の少年ピーターと出会う。だが赤毛をからかわれたことから、彼ともうまく打ち解けることができない。

どこか「赤毛のアン」のアンとギルバートの出会いを彷彿させる物語だが、映画は中盤から舞台を魔法の国へと変えて展開していく。メアリの好奇心が強すぎて空回りしてしまう性質は、魔法の学校では一転してやる気のある性格として褒められ、ゴワゴワした赤毛も、感受性の強い猫の髭のように気を読み取るアンテナであると賞賛される。自分のネガティブなパーツが、ひっくり返ってポジティブに変わる。そんな場所を見つけたことで、自分の能力を発揮させる術を手に入れる。そんなドジっ子メアリが覚醒する過程を、声を担当する杉咲花が丁寧に表現している。

外で遊ぶのが大好きなお子さんには『ハイジ アルプスの物語』
知られざるピーターの腹黒さもきちんと演出

『ハイジ アルプスの物語』
8月26日(土)より全国順次公開
(c)2015 Zodiac Pictures Ltd / Claussen+Putz Filmproduktion GmbH / Studiocanal Film GmbH

1974年に制作放送され、高畑勲が演出を手掛けたテレビアニメ「アルプスの少女ハイジ」の影響で、日本では“アルプス”といえば“ハイジ”。ヨハンナ・シュピリによる不朽の児童文学「アルプスの少女ハイジ」は19世紀のスイスが舞台。スイスの高山で自然に育まれてのびのびと暮らすハイジと、経済的に恵まれていても、親の愛に飢え、フランクフルトのお屋敷で籠の鳥のように暮らすクララ。二人の少女が生きる状況は、21世紀の今日にも多くのメッセージを伝えてくれる。

今回の実写化での目玉は3つ。まずは主人公ハイジを演じるアヌーク・シュテフェンの身もだえしたくなるほどの愛くるしさ。オーディションで500人の中から選ばれただけあって、表情豊かでとくに笑顔がso cute! ドレス嫌いで、シミーズ姿で、自然の中で生き生きと裸足で駆け回る姿はまさに“ハイジ”そのもので、フランクフルトのクララの家に連れていかれてからの意気消沈ぶりとの落差をちゃんと演じ切っている。

2つめは、ブルーノ・ガンツ(『ヒトラー ~最期の12日間~』)演じるアルムおんじ。ガンツが演じることで、おんじのワケあり人生が濃厚に伝わってくる。突然、世話を押し付けられたハイジに当初は冷たかったおんじも、ハイジが山暮らしにあっという間に溶け込む姿を見て、黙って彼女の椅子を作り始める場面がある。その寡黙な優しさもガンツが演じると極上。お約束の溶けたチーズをライ麦のパンに乗せてハイジに食べさせる場面も、スイス生まれのガンツにはお手の物。厳しい山の中で、自給自足で暮らす姿は、ナマけた現代人に活を入れてくれるのだ。

3つめは、ピーターの心の闇をきちんと描いていること。クララがアルプスにやってくることで、ピーターの心に生まれる嫉妬という感情。アニメーションでは割愛されていたこのピーターの意地悪が、実はクララの奇跡のクライマックスに大きな影響を及ぼすのだけど、それは劇場で!

今回の実写化は、自然の中で子どもを育てる重要性に加え、クララのおばあさまがハイジに文字を覚える重要性を説き、本を読むことで世界を広げる術を教える。実は教育の大切さも描いている作品なのだ。吹替版ではハイジの声を人気声優、花澤香菜が、おんじの声を茶風林が担当していることも話題になっている。

歴史好きや知的好奇心の強いお子さんには
『ブレンダンとケルズの秘密』

『ブレンダンとケルズの秘密』
7月29日(土)からYEBISU GARDEN CINEMAほかで全国順次ロードショー
(c)Les Amateurs, Vivi Film, Cartoon Saloon

最後に紹介するのは、アイルランドの国宝で、世界で最も美しい本と呼ばれる「ケルズの書」の誕生秘話をアニメーションにしたもの。

舞台は9世紀のアイルランド。当時のアイルランドは北欧のバイキングの襲来に悩まされていて、主人公のブレンダンも幼い時に親を亡くしている。12歳となったブレンダンは叔父が院長を務めるケルズ修道院で修道士として働いている。アイルランドの修道院は学問が盛んで、ケルト文化やキリスト教だけでなく、異教徒の古い伝承や詩までを文字にして残しており、“聖者の時代”と呼ばれる文化を育んだ。だが、バイキングの襲来で、徐々に研究どころでなくなっていく。ブレンダンの叔父は、バイキングから身を守るのは“高い壁”だと信じ、修道士たちに壁を作るよう命じる。そんな時、ケルズに逃れてきた名高いエイダン修道士が、聖書の書き写しを継ぐ者としてブレンダンに白羽の矢を立てる……。

映画が語るのは、少年が大人となる通過儀礼だが、そこにケルトの精霊やケルト文様が色鮮やかに入り込んでくる。光を生かした映像も印象的。幻想的な物語だが、史実の裏付けはしっかりなされていて、映画を見たあと、親子で「ケルズの書」や「ケルズ修道院」について調べてみるのも楽しいはず。

人々を守るために要塞のような壁が第一と考える叔父(実在の人物をモデルにしている)と、心を豊かにする本が第一と考えるエイダン修道士(こちらも実在の人物)。どちらの考えを支持するか親子で話し合えば、忘れられない夏休みの体験になるかも!?