いまからさかのぼること35年以上前になる1980年に公開された映画『エレファント・マン』。鬼才、デヴィッド・リンチ監督が手掛けた同作は、生まれつきの奇形でその外見から“エレファント・マン”と呼ばれた青年の半生を描き、世界中で大ヒットを記録しました。スウェーデンから届いた映画『いつも心はジャイアント』(8月19日公開)は、その名作『エレファント・マン』を彷彿とさせるような感動作です。

主人公は難病を患い、顔が大きく変形した青年

『エレファント・マン』は実話を元にした映画。現在ではプロテウス症候群と推測される難病により顔や体が大きく変形した実在の人物、ジョゼフ・メリックの半生が描かれます。一方、『いつも心はジャイアント』は実話でこそありませんが、主人公のリカルドは頭骨が大きく変形する狭頭症という難病にかかった青年。ジョゼフと同じように顔が大きく膨れ上がり、変形しています。さらに、病気は違いますが、ともに顔が変形していることからうまく言葉が喋れず、体の歪みから歩行にも少し支障があります。そしてなにより二人とも周囲から差別を受けながら、卑屈にならない、純真な心の持ち主。似た者同士と言っていいぐらい両者とも心優しい人物です。

そのほかにも、いわれなき差別にさらされる点、見世物のようにされ人間扱いされない点(特殊な能力をもった者、異形の姿をした者の登場する作品でほとんど起きうる状況ではありますが)、ひとりだけ自分を信頼して理解してくれる人がいる点など、類似点は多々あります。共に難病の青年が主人公なだけに、『いつも心はジャイアント』と『エレファント・マン』を比較してしまうのも仕方がないのかもしれません。

排他的な世界の動きや情勢に一石を投じる

しかし、『エレファント・マン』と似た設定ながら、『いつも心はジャイアント』はそこからひとつ飛躍している点があります。そのポイントがあるゆえに、大ヒット作ながらどこかカルト的な印象の強い『エレファント・マン』より、もっと幅広い人の心にうったえかける開かれた作品になっています。

そのポイントは、主人公リカルドの心の中の世界が豊かな表現力で丹念に描かれている点です。周囲から辛い目にあわされたとき、リカルドはしばしば空想の世界へと入り込みます。そこでは彼は身長60mもある巨人に大変身!森の木々やビルなどよりもゆうに高い上空に近いところからこの世界を眺めると、なんだか人間などちっぽけな存在でリカルドは自分が受けた嫌なことなどもどうでもよくなります。 また、リカルドは空想の中では周囲の目を気にせず、すべてから解放されて、自分の感じていることや夢などを、心の声で大いに語ります。それは紛れもなく彼の本心や本音の言葉にほかなりません。そのとき、痛感することでしょう。“彼も我々となんらかわらない生身の人間なのだ”と。それはまた、たとえば『シザーハンズ』といった異形の人造人間やロボットを主人公にした作品ともひと味違い、血の通った人間、生身の人間が主人公だからこそ、こちらにその心の痛みや苦悩が切実に真実味をもって迫ってくるはず。同時にリカルドが体験する差別は多かれ少なかれ社会の中で多くの人間が体験していること。ゆえにリカルドには、世代や性別も関係なく幅広い人々が共感を寄せることでしょう。

また、リカルドの視線を通して見えてくるのは、寛容さを失ったいまの社会と人間たちの姿。それはトランプ政権誕生後、より蔓延しつつある排他的な世界の動きや情勢に大きな問いを投げかけているようにも見えます。単なる感動作にとどまらない社会派の側面をもった奥深いドラマとして見応え十分です。

本国スウェーデンのアカデミー賞に当たる「ゴールデン・ビートル賞」では、見事に作品賞を含む主要3部門を受賞。そのほかにも、サンセバスチャン国際映画祭など世界各国の映画祭でも受賞を重ね賞賛された感動作に注目を!

(文/水上賢治@アドバンスワークス)