成功者の帰省は危険!? “ねたみ”が剥き出しになった、悪魔のようなストーリー『笑う故郷』

コラム

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ノーベル文学賞を受賞した作家が、40年ぶりに帰郷するも、因縁や嫉妬が渦巻く田舎ならではの濃ゆーい人間関係に翻弄される様を辛辣に描いた映画『笑う故郷』(9月16日よりロードショー)。成功者がノスタルジーに駆られて一度捨てた故郷に帰ると、いったいどんな悲惨なことが待ち受けているのか……。妬み、嫉み、欲望が剥き出しになった、悪夢のような“とっておきの”ストーリーをご紹介します。

ヴェネツィア映画祭で主演男優賞に輝いたO・マルティネスの演技力

主人公は、スペインの大豪邸で隠遁生活を送る、世界的作家ダニエル・マントバーニ。ノーベル文学賞受賞後、世界中から寄せられる講演会や取材のオファーをことごとく断ってきました。しかし、なぜか故郷であるアルゼンチンの小さな町サラスから届いた「名誉市民の称号を授与したい」という申し出に心を動かされ、よせばいいのに、秘書も連れずにお忍びで40年ぶりの帰郷を思い立ちます。20代で逃げるように地元を離れて以来、親の葬式にも帰らなかったというのに、歓待ムードに押され、消防車で寂れた街を凱旋パレードしたり、地元テレビ局が作ったメモリアルムービーにホロリとしたり……。

主人公ダニエルを演じているのは、昨年のヴェネツィア国際映画祭で最優秀主演男優賞に輝いたオスカル・マルティネス。この作品、脚本の面白さもさることながら、主演のマルティネスの演技がとにかく素晴らしいんです。地位も名誉も手に入れた男が、故郷からの誘いに心動かされていく様が、手に取るように伝わってきます。「眉毛や口角の上げ下げ一つで、こんなにも登場人物の心情を巧みに表現できる俳優がいるなんて!」と、映画の開始早々、驚かされること間違いありません。

個性溢れる住民たちの本性に翻弄され、落ち込むダニエル

たとえ覚悟はしていても、昔の恋人が結婚して幸せそうにしている姿を目の当たりにするのは辛いもの。ダニエルも例にもれず、自身の元カノを、幼馴染みのアントニオから妻として自慢されるという洗礼を浴び、しかも自宅で一緒に食事をしようと誘われ、悪夢のようなひとときを過ごす羽目に。

このアントニオのキャラクターがまた強烈なんです。お調子者だけど、ライバル心剥き出しでダニエルと張り合おうとしてくるアントニオの姿には、思わず「あ~、こういうヤツいるいる!」と声が出そうになるほど。個性溢れる住民たちに、いいように翻弄されるダニエルがだんだん哀れに思えてきます。小さなコミュニティで成り立っている田舎町では、愛と憎しみはまさに表裏一体。隠されていた人間の本性が、次々と剥き出しになってゆくのです。

本音炸裂の大バトルの果てに迎える、ある意味戦慄の結末

有名になった人が、名ばかりの審査員を依頼されるというのは、現実世界でもしばしば耳にするお話。でも、一筋縄ではいかないダニエルは、出来レースには乗らず、地元の権力者たちの怒りを買い、本音炸裂の大バトルが勃発。なかでも、ダニエルが書いた小説が、「地元で実際に起きた事件をモデルにしているのでは?」という疑惑が立ち上り、町中の人たちから袋叩きにされるシーンは、創作の世界に身を置く人なら、多かれ少なかれ胸に去来する何かがあって、いたたまれない気持ちになるに違いありません。

まさに「ふるさとは遠きにありて思ふもの そして悲しくうたふもの」という室生犀星の詩を贈りたくなるほど、故郷の人々から強烈なしっぺ返しを食らいつづけるダニエルですが、これだけで終わらないのが、この物語の凄いところ。果たして最後に「笑う」のは誰なのか。酷暑の折、いろんな意味で背筋がゾッとする結末を、ぜひ涼しい映画館でご堪能あれ!

(文/渡部喜巴@アドバンスワークス)

記事制作 : アドバンスワークス

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