文=武井風太/Avanti Press

『Love Letter』『リップヴァンウィンクルの花嫁』など、独特な映像美を展開する映画監督として、多くの支持を集める岩井俊二。そんな氏の代表作であり、今なお熱狂的なファンが存在するテレビドラマ「if もしも」(フジテレビ系)の一編として放送された「打ち上げ花火、下から見るか? 横から見るか?」(以下、「打ち上げ花火~」)が劇場アニメとして、8月18日(金)より公開される。

本作のアニメ化を担う総監督は「魔法少女まどか☆マギカ」「化物語」といった作品で耳目を集めた新房昭之。さらに脚本には『モテキ』『バクマン。』の大根仁監督、企画・プロデュースには『君の名は。』『バケモノの子』を手掛けた川村元気プロデューサーが顔をそろえるという豪華布陣。今回、新房総監督に本作の魅力について伺う機会を得た。

“アイドル映画”でないと「打ち上げ花火~」を継承したと言えなかった

―― 本作のオファーが来た時にはどのように感じられましたか?

新房 実写ドラマが原作でしたので、ピンとこなかったというのが正直なところです。当時、友達にビデオで録画したのを見せてもらったのですが、あまり覚えてはいませんでした。オファーを受けて改めて見て、とてもいい作品だとは思ったのですが、その時も「どうしてアニメなんだろう?」という疑問が残っていました。実写の原作に準じていくのか、アニメの特性を活かした新たな作品作りをするのか。そのあたりがはっきりしたのは、大根(仁)さんの脚本があがってきた時でした。そこでようやく原作に近いイメージなんだと理解したんです。

―― その原作らしさというのは、本作のどういったところに反映されているのでしょうか

新房 特に“アイドル映画”という部分ですね。自分は原作も(ヒロインのなずなを演じた奥菜恵の)アイドル映画だと思っているんですよ。だからそれを継承しないと、「打ち上げ花火~」にならないだろうと。その方向性が固まったのは、プロデューサーの川村(元気)さんから「渡辺明夫さんのキャラクターデザインでいけないか」という提示があった時でした。渡辺さんとは「物語」シリーズでご一緒しましたが、描き出すヒロインに存在感があるんです。そこで、なずなというキャラクターの存在感が第一の映画にしようと。ほとんどそこに尽きる作品になったと思いますね。

―― ご自身が考えるなずなの魅力はどこになりますか?

新房 よく分からないところです(笑)。もともと川村さんも「渡辺さんでいきたい」と提案された時、「化物語」のヒロインである戦場ヶ原ひたぎをイメージしていたようなんですよ。ひたぎは割と神秘的なキャラクターでしたので、私の考えていた方向性と一致していたのだと思います。ちょっと近寄りがたいような、そういうところが出ればいいのかなと。この歳の頃は女の子の方が大人びているから、男の子の立場からすると理解しがたい存在として映るんです。そのあたりを意識したつもりでした。今回、メインキャラクターの年齢を原作の小学6年生から中学1年生に変えているので、その影響から神秘的な面が助長されている部分も若干あるかもしれませんが、これぐらいならギリギリ原作とずれないだろうなと。結果、アニメとして演技をさせやすく、原作からそれほどずれないキャラクターとして成立し得たと思います。

―― なずな役の広瀬すずさんの演技はいかがでしたか?

新房 凄く良かったですね。自然な感じで、なずながその場にいるようでした。実在していないのに、キャラクターがそこに生まれた瞬間に立ち会えた気がしましたね。今回はアフレコを早くやったので、芝居は絵より声が先にあったんです。それを聞きながら作画しましたので、もしかすると絵の演技も芝居から影響を受けているかもしれません。そのあたりも、なずなの魅力につながっている気がします。

松田聖子「瑠璃色の地球」が採用されたワケ

(c)2017「打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?」製作委員会

―― アイドルと言えば、松田聖子の「瑠璃色の地球」をなずなが歌うシーンがありました。ファンタジー的な映像が展開されていて、見応えがありましたが、あのシーンはどういった意図で生まれたのでしょうか。

新房 映画の構成として「不思議な玉を投げるとifが起こる」という形式になっているのですが、もともとはifが起きるたびにキャラの絵柄を若干変えていこうというアイデアがあったんですよ。その名残として、あのようなシーンが残ったんですね。選曲については……なずなのお母さん世代が好きな歌手というところから始まったんです。もう少し若い子も候補に上がっていたのですが、川村さんが松田聖子を推されました。

―― まるで曲が先にあって、物語をあとから構成されたかのような作りでしたね。

新房 そういうわけではなかったのですが、上手くハマりました。川村さんはあの歌詞が凄く好きだったそうで、彼の中の引き出しにあったんですね。素晴らしいセンスだと思いました。なずなの心境や物語に則していて、深みのあるシーンになりました。ぜひご注目いただきたいです。

―― お話を伺っていると、やはりなずなを中心にしたアイドル映画であることを再認識させられます。

新房 もともと自分はNHKのジュブナイル作品である「少年ドラマシリーズ」が好きだったんです。このシリーズは“アイドルもの”としての要素を多分に含んでいましたが、作っているうちに、「打ち上げ花火~」にもそういった匂いを感じてきたんですね。そんな自分の想いも反映された映画になっていると思います。「時をかける少女」なんて、媒体や趣向を変えて何度も映像化されてきたじゃないですか。今後はこの作品も、また違うスタッフに作ってもらいたいですね。いろんな“if”の「打ち上げ花火~」が出てくるような、そんなきっかけに今回のアニメ版『打ち上げ花火~』がなれるといいなと思います。