ヒロインのなずなの“声”を担当した広瀬すず 撮影:端裕人

「身長差」を声で表現! 広瀬すずの声優としての可能性が示された『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』

コラム

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昨今では珍しいことではなくなったが、アニメーション映画で俳優がボイスアクトすることには、いまでも賛否両論ある。現在公開中のアニメーション映画『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』でも、メインキャラクターの声を、二人の若手俳優が演じている。ヒロインのなずなを担当しているのは広瀬すず、なずなに思いを寄せるクラスメイト・典道役は菅田将暉だ。

俳優がボイスアクトをすることの意義

たとえばスタジオジブリはあるときから積極的にその方向を打ち出し、宮崎駿監督の映画『ハウルの動く城』(2004年)では、大胆にも木村拓哉をキャスティングするアクロバティックな技を見せた。「キムタクは何をやってもキムタク」と強弁するひとも多いが、この作品を観れば、私たちの脳裏に浮かぶ木村拓哉とはまったく違う「声の芝居」に直面することになるだろう。まるで別人。姿かたちが見えないからこその挑戦と達成がそこにはあった。また、昨年多くの賞に輝いた映画『この世界の片隅に』。同作で主人公を演じたのんの立体感あふれるボイスアクティングは、声優にはない奥行きとリアリティがみなぎっており、観客をヒロインの精神世界に引き込む力強さがあった。

もちろん、実写俳優は、その技術においては本職の声優に劣るかもしれない。だが、技術を超える「声の芝居」というものもある。実写映画を例にすれば、ミュージシャンや芸人といった、役者業が本職ではないひとが、初挑戦でいきなり専業俳優たちを凌ぐ存在感を発揮することはよくある。演技という場は、彼ら彼女らにとってアウェー。だが、ミュージシャンも芸人も、声を軸にするパフォーマンスを続けてきた人たちだ。たとえ芝居経験がなくても、自身の声の取り扱いには長けている。

それと同じことが、ボイスアクトに関しても言えるかもしれない。俳優たちは、普段全身で芝居をしているが、その全身には間違いなく「声」も含まれる。声だけの芝居はしたことがなくても、「声の芝居」はできるものなのだ。そして、それが新鮮な息吹をアニメ本編に与えることだってある。

(C)2017「打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?」製作委員会

細田守監督が感嘆した「声の芝居」

映画『バケモノの子』(2015年)のアフレコ現場に密着取材したことがある。この作品では、役所広司、宮﨑あおい、染谷将太、大泉洋、リリー・フランキー、津川雅彦ら、錚々たる芸達者たちが細田守監督の下に集結したが、監督が現場で最も喜んでいたのが、広瀬すずの演技に対してだった。「なんで、あんなふうにできるんだろう!」と監督は感嘆の声をあげていた。広瀬演じるヒロインは、主人公の内面に語りかける役どころで、説明的な台詞も多い。だが、エモーション豊かで、言葉が説明的になることが一切なかった。これが初めての声優挑戦。見事に難役を演じ切った。

その広瀬すずがアニメで初めて主演を張る映画『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』。かつて岩井俊二監督の名を一躍高めた伝説の単発ドラマをアレンジした作品である。岩井作品では小学生だった設定を中学生にしているが、ポイントは主人公の男女の「身長差」であり、この「身長差」に留意した広瀬の「声の芝居」にうならされる。

少女と少年は、人生のある一時期だけ、少女のほうが身長が高いときがある。そして、女性はほぼ間違いなく男性より精神年齢が高い。だから、少女が少年を駆け落ちに誘うという、本作のひと夏の物語も成立することになる。「身長差」は、憧れとせつなさを包む重要なタームである。

実写ではできないことがアニメはできる

広瀬の相手役を務めた菅田もこの「身長差」を意識していたのだろう。少年期特有の低空飛行の発声で、終始受け身の男の子が女の子を「見上げる」ようなニュアンスで言葉を発していた。

これに対して広瀬すずは、安易な上から目線の発語を選ぶのではなく、ゆらゆらと艶かしく浮遊するボイスアクトを繰り広げ、男の子にとって「手の届かない」女の子の、陽炎のようなフォルムをキープした。いわゆる可愛い声でヒロイン然と振る舞うのではなく、少年が自らドツボにはまって翻弄される道に迷い込んでいくような、どこかとりとめのない少女の声は、漠然とアイドル志望でもあるという設定とも相まって、確かな説得力がある。

重要な点は、この「声の芝居」は、広瀬すずがこれまで演じたどの実写の役よりも色っぽく、また、最も精神年齢が高い「お姉さん」なキャラクターをクリエイトしていたということ。つまり、実写ではできない演技を彼女は披露した。そして、この女の子像は、岩井監督のオリジナル作品にはなかった造形であるということ。

『バケモノの子』からさらなる飛躍を見せた声優としての広瀬すず。その「声の芝居」は一聴に値する。彼女が菅田将暉と共に作り上げた「身長差」のボイスアクトは、アニメーションだから初めて成し得たことであり、スクリーンでこそ映える表現なのである。

(文/相田冬二@アドバンスワークス)

記事制作 : アドバンスワークス

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