昨年、活動50周年を迎えた声優界のレジェンド、古谷徹。2013年に還暦を迎えましたが、60代であることがにわかに信じられないほど若々しくはつらつとした雰囲気で、現在も精力的に、声優、ナレーターとして活躍しています。

役柄によって声色を変えることは少ないですが、細かいニュアンスを変化させながら多様なキャラクターを演じ分けるところが古谷の特徴です。一度聞いたら忘れられないその印象的な声で、ヒーロー役をつとめることが多く、代表的な役に「機動戦士ガンダム」のアムロ・レイ役、「巨人の星」の星飛雄馬役、「美少女戦士セーラームーン」の地場衛/タキシード仮面役などがあります。

主役から単発出演の脇役まで、ありとあらゆるキャラクターに命を与えてきた古谷の歴史を振り返ってみると、あの人気キャラクターの声も古谷徹だったの!? という新鮮な驚きがあるかもしれません。

弱冠15歳で熱演したあの国民的英雄

声優・古谷徹の名を一躍全国に知らしめたキャラクターといえば、日本テレビ系列の人気アニメ「巨人の星」の主人公・星飛雄馬でしょう。古谷が飛雄馬の声に抜擢されたのは、なんと中学校在籍時の15歳のときのこと! 飛雄馬と年齢の近い古谷は、野球に青春を捧げる少年の修練の日々を情熱たっぷりに演じ、大きな反響を呼びました。古谷は子役時代から原作のファンで、本作がアニメ化されるのを楽しみにしていたそうですが、飛雄馬役のオファーがあったときには「まさか自分が星飛雄馬を演るとは思わなかった」と驚いたとのこと。

大学在学中は、学業に専念するため仕事をセーブしていた古谷ですが、卒業後に「新・巨人の星」が製作されると、同シリーズで青年へと成長した飛雄馬役を演じ、ファンを熱狂させました。古谷は、経年による声質の変化がほとんど見られないという強みを活かし、今世紀に入ってからも、NTT「タウンページ」のCMなどで飛雄馬役を凛々しく演じています。

熱血ヒーローの集大成はペガサス星矢

自身にとって、熱血ヒーローの集大成は「聖闘士星矢」の主人公・ペガサス星矢だと語る古谷。本作に対する思い入れは相当なもので、オーディションの際、古谷は、星矢をイメージしたスリムなジーンズ、袖をまくった赤いTシャツ、赤いリストバンドでアフレコに臨み、役を射止めました。古谷は本シリーズ劇場版の舞台挨拶にも、この出で立ちで登壇しています。

古谷は自身の役作りについて、何よりまず大切にしているのは情報収集であると語りました。キャラクターについて手に入れられる情報はすべて頭にインプットし、キャラクターと同じポーズやアクションをとってみることで、体内にキャラクターのイメージをコピーしていくのだといいます。きっと古谷が星矢と同じ装束に身を包み、星矢と一体となるのも、そのような彼の哲学に起因しているのかもしれません。

ブルマとの破局にショックを受け、鳥山明に猛抗議

今や世界的人気アニメとなった「ドラゴンボール」シリーズでも、古谷の声を聞くことができます。古谷の担当は、悟空の武道家仲間で、作中では珍しい美形キャラクターのヤムチャ。

本シリーズにおいて、ヤムチャにはブルマという恋人ができますが、物語が進行していくうち、ブルマはヤムチャと破局し、高潔な精神をもった自信家のサイヤ人王子ベジータと結婚してしまいます。古谷はヤムチャと心境を同じくするほど強いシンパシーを感じていたのか、この展開にショックを受け、「週刊少年ジャンプ」誌(集英社)のパーティーで作者の鳥山明をつかまえ、この悲恋について抗議したそうですが、鳥山からはあっさり、「だってヤムチャは浮気者だから仕方ないでしょ!」と一蹴されてしまったそう。なんとも切ないですが、古谷のまっすぐな性格がうかがわれるエピソードです。

「美少女戦士セーラームーン」シリーズで演じた“おいしい役”

テレビ朝日系列の人気テレビアニメ「美少女戦士セーラームーン」シリーズでの地場衛役およびタキシード仮面役は、古谷本人曰く、「今までになかったおいしい役」とのこと。 毎度のアフレコにもノリノリで挑んでいたようで、シリーズ2作目である「セーラームーンR」に登場する地場衛の別人格「月影の騎士(つきかげのナイト)」が去り際に残す俳句や川柳などは、驚いたことに台本にはないアドリブでした。古谷自身のアイディアにより、随所に織り込まれていったのだとか。

丁度その頃、古谷に長女が誕生しました。これをお祝いするかたちで、テレビアニメ第53話(「セーラームーンR 第7話」)では、「衛とうさぎのベビーシッター騒動」と題し、古谷演じる地場衛と主人公の月野うさぎが一時的に赤ちゃんを預かり保育に奮闘するという、原作には存在しない微笑ましいストーリーが展開されました。

古谷の代名詞! 「機動戦士ガンダム」の主人公・アムロ・レイ

古谷のキャリアを語る上で忘れてはならないのが、「機動戦士ガンダム」の主人公アムロ・レイではないでしょうか。古谷はこの役を、オーディションで勝ち取ったそうです。飛雄馬役で熱血ヒーローのイメージが定着してしまったことを悩んでいた古谷は、戦うことを好まないナイーブな少年アムロ・レイの役を演じられることになったとき、歓喜したといいます。

そんなアムロ・レイは、古谷が演じる数多くのキャラクターの中でも、特に代表的な役となりました。コントや演劇で、「殴ったね」、「2度もぶった。親父にもぶたれたことないのに」などの名台詞がパロディとして使用されることはしばしばで、若井おさむをはじめ、アムロのモノマネを得意とするタレントも現れました。

のちに古谷がテレビアニメ版「GTO」でガンダムオタクの白井木馬役を演じたことは、「ガンダムといえば古谷徹」という印象がアニメ業界に浸透していたことをよく物語っています。また、テレビアニメ版「名探偵コナン」で古谷が声を担当している安室透(あむろとおる)の名は、アムロ・レイの上の名と、古谷の下の名である徹(とおる)に因んで名づけられました。

古谷がアムロを演じるにあたって乗り越えてきた様々な経験や、古谷にしか語れないファン垂涎の秘話などは、古谷の著書『ヒーローの声 飛雄馬とアムロと僕の声優人生』(角川書店、2009年)に詳しくまとめられています。

そんな古谷は今もなお、現在進行形でアムロ・レイに命と魂を吹き込みつづけています。「機動戦士ガンダム」でキャラクターデザインやアニメーションディレクターを務めた安彦良和が、同作のコミカライズ版「機動戦士ガンダム THE ORIGIN」を総監督の立場で劇場版アニメ化した『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』シリーズにおいて、アムロを熱演しているのは他の誰でもなく古谷本人。

2015~16年にかけて、4話にわたり「シャア・セイラ編」を描いてきた本シリーズは、第5話となる今作でついに「ルウム編」に突入します。「機動戦士ガンダム」で描かれた一年戦争の幕開けとなるルウム戦役の真実が、今、明らかにされるのです。世界人口の半数を死に至らしめたコロニー落としを敢行したジオン公国軍と、劣勢を挽回しようと圧倒的な戦力で挑む地球連邦軍……そのような不穏な情勢の中、アムロの平和な暮らしにも暗い影が忍び寄ります。彼の行く末はどうなってしまうのでしょうか。

公開初日となる9月2日(土)に丸の内ピカデリーで開催される舞台挨拶には、シャア役の池田秀一や、ザビ役の銀河万丈らと共に、古谷も登壇するとのこと。およそ40年前のシリーズ第1作にまつわる懐かしの思い出話から、本作に関する最新エピソードまで、様々な逸話が伺えそうです。『機動戦士ガンダム THE ORIGIN 激突 ルウム会戦』(2017年)は、9月2日(土)、全国35館にて劇場上映。

(桃源ももこ@YOSCA )