文=猫カツヲ/Avanti Press

似て非なる世界、あり得たかもしれない可能性――、アニメ映画『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』という映画を一言で述べるならこうなるだろう。本作の原作はテレビドラマ「if もしも」(フジテレビ系)の一編として放送された「打ち上げ花火、下から見るか? 横から見るか?」。『Love Letter』や『スワロウテイル』を手掛けた岩井俊二による監督・脚本作品で、いまなおファンが多い。この実写版は「マルチエンディング」であり得たかもしれない可能性を見せたが、アニメ版は「ループもの」を採用し、実写版とは似て非なる可能性を示した。このふたつの違いはなにか。それを知れば本作はさらに輝きを増すだろう。

花火大会を前に「打ち上げ花火は横から見たら丸いのか? それとも平べったいのか?」で盛り上がる典道ら中学生男子たち。そんななか、典道が思いを寄せる同じクラスのなずなは母親の再婚のため、転校することに。なずなは転校に反対し典道を「かけおち」に誘うが、親に捕まりあえなく失敗。しかし、その状況を悔やむ典道は時間を遡る不思議な経験をすることに……。

実写版のファンにとっては、今回のアニメ版はかなりの驚きがあるはずだ。主人公・典道の朝の風景、教室での男子たちの会話、そしてヒロイン・なずなへの告白をめぐってのプールでの競争――。「こんなセリフまでそのまま使っちゃうの?」と思ってしまうほど、映画の前半は予想以上に忠実な実写ドラマ版のリフレインだ。その一方で、海岸に林立する風力発電のプロペラや円形教室が印象的な学校といったビジュアル要素や、原作の小学生から本作では中学生となっている主人公たちの年齢設定など、変わっている点もある。

結末を観客に託す「マルチエンディング方式」

そもそも原作となった実写ドラマシリーズ「if もしも」は「特定のポイントでふたつの物語に枝分かれして異なる結末を迎える=マルチエンディング」を採用しているのが特徴だ。実写版「打ち上げ花火~」も「主人公がプールの競争で勝った場合と負けた場合のふたつの可能性」がパラレルに提示されている。

マルチエンディングは、「パラレルワールド=平行世界」というジャンルの1種と考えると良いだろう。平行世界とは、今いる現実とは別の現実が複数存在するという考え方。そのため平行世界ものでは、主人公が複数の世界を行き来する。一方でマルチエンディングは、いったん分岐した世界は交わることがない。平行したままふたつの結末を迎えるのである。こうなると当然ながら、マルチエンディングは「どちらの結末が良いかは観客に任せる」ことになる。

すべての可能性がひとつの現実に収束する「ループもの」

(c)2017「打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?」製作委員会

今回のアニメ版『打ち上げ花火~』が原作と大きく異なるのは、原作のマルチエンディングから離れたこと。時間を遡り、何度も同じ時間に戻ってくる、いわゆる「ループもの」になっていることだろう。ハリウッドのアクション大作からジュヴナイルSFの小品まで「ループもの」映画はすでに一大ジャンルだ。

特にこのジャンルはジュヴナイルストーリーととても相性が良い。「あの時こうしておけば、違った人生があったのでは?」とか「一番楽しかった日々が、ずっと続けばいいのに」といった誰もが持ちうる心理は、これまでも若者向けアニメ作品のなかで巧みに表現されてきた。1980年代の名作「うる星やつら ビューティフル・ドリーマー」から21世紀のアニメ版「時をかける少女」に至るまで、日本のアニメで「ある一日の繰り返し」は王道であり鉄板なのだ。

「ループもの」はなぜ面白いのか。そのひとつとして考えられるのは、まるでゲームのようにミッションをコンプリートすることによって得る達成感ではないだろうか。例えばトム・クルーズ主演でヒットした『オール・ユー・ニード・イズ・キル』(2014年)は、ミッションコンプリートものの分かりやすい例だろう。主人公は熾烈な戦闘の中、エイリアンから人類を救うというミッションに立ち向かうべく、「死ぬ度に無限コンティニュー」=ループを繰り返してどんどん賢くなっていく。どの分岐は行き止まりなのか、どの分岐をまだ攻略していないのか、主人公はそれを意識しながら困難なミッションをクリアする。アニメ版『打ち上げ花火~』では、「望まぬ転校からなずなを救う」というミッションのために典道が何度もループすることになる。

これらの「ループもの」に共通しているのは、物語のある瞬間に到来する「ポイント・オブ・ノーリターン」。つまり、死んでも何度も甦り、無限に出来ていたコンティニューができなくなる瞬間だ。この過去に戻ってやり直しのきかなくなる「不可逆になる瞬間」が訪れるとループは終わり、すべての可能性はひとつの現実に収束する。「ループもの」で楽しむべきポイントはここともいえる。

アニメ版『打ち上げ花火~』でも「ループもの」の定石を踏んでいる。実写版のマルチエンディングとは異なり、あり得たかもしれない可能性がひとつの結末に向う。それは単なる「主人公の子ども時代の終わり」なのか。結末はひとつに収束するが、解釈は開かれている。ぜひ劇場で確かめてもらいたい。