文=高村尚/Avanti Press

9月5日、大勢の観衆が声援を送り、メディアがフラッシュを焚く中、福山雅治、役所広司、広瀬すず、是枝裕和監督、イタリア人音楽家ルドヴィコ・エイナウディら『三度目の殺人』のスタッフ、キャストが、第74回ヴェネチア国際映画祭のレッドカーペットを歩いた。コンペティション部門での参加。受賞の際は、9日に授賞式が行われる。

福山にエスコートされた白いドレスの広瀬が、「ベリッシマ(可愛い)!」の声におずおずと手を振る。夕方の光に包まれ、見たこともないほど美しい。それは広瀬だけではなかった。是枝監督はじめ、レッドカーペットを歩く皆が光の中にいた。なぜそう見えるのか? やれるだけのことをやったという自信が、天の光を味方につけたのだとしか言いようがない。この後すぐメイン会場サラ・グランデで行われた正式上映では、1030人収容の会場が満席。そして上映終了後のスタンディングオベーションは6分間にもおよんだ。福山は、カンヌに続き、2度目の国際映画祭への参加だったが、それでも「観客の反応が見える国際映画祭はライブの生本番みたい」と緊張していたという。

この後、総立ちになった観客に6分間の拍手を受けた『三度目の殺人』チーム

『三度目の殺人』は、ある殺人事件の犯人・三隅(役所広司)と、彼を担当する弁護士・重盛(福山雅治)の、たった一つの真実をめぐる攻防を描いた静かな法廷サスペンス。是枝監督は、デビュー作『幻の光』で金のオゼッラ賞を受賞して以来、22年ぶりのヴェネチア国際映画祭。「あまり好きな言葉じゃないですけど、(ヴェネチアは)僕を発見してくれた映画祭。ここでの経験がなかったら、たぶんこんなふうに映画を撮れていないと思います。少し成長した姿をまたここで見せることが出来たかなと思っています」と監督。

是枝監督のチャレンジに皆で挑んだ結果は?

『三度目の殺人』9月9日全国にてロードショー
(c)2017『三度目の殺人』製作委員会

福山が、是枝監督と初めてタッグを組んだ『そして父になる』でカンヌ映画祭に参加したのは2013年。この時、彼は上映終了後のスタンディングオベーションで涙を見せたが、今回は笑顔。それを指摘された福山は、「なんで今回は泣かないんだといいたいんですよね(笑)?」とおどけながら、「前回(カンヌ)は、是枝さんおめでとうございますという気持ちがこみあげてきての男泣き。今回は、制作過程を知っている人間として監督のチャレンジがどんな反応を呼ぶのか緊張感をもって見守ろうと思っていたのに、ヴェネチアに来ているのを忘れるくらい集中して作品に惹き込まれてしまった。そういうすごく贅沢な楽しみ方をしてしまったから」だと話す。

今回、スタンディングオベーションは、「思ったより早い段階から始まった」と福山。「すごくいい形で届いたんだと思います。その時、隣に座っていた監督が僕の膝に手を置いてくださったんですよ。監督のチャレンジを傍で見ていた者として、監督の緊張感、そして上映が終わった後の安堵感……、やっと深い呼吸が出来た感じを、この国際映画祭で一緒に体験させていただけたのはすごく嬉しかったですね」と語る。通常のサスペンスはまず謎があり、それが徐々に解けて犯人に辿りつく。それが王道だが、是枝監督は物語を逆に展開させた。福山がいうチャレンジとは、難しいことを知りつつそれを実行した監督の試みを参加した全員が受け止め、成立させようした挑戦のことだ。スタンディングオベーションはその結果と考えたわけだ。

想像以上のパートナーであった福山雅治と是枝監督

『三度目の殺人』の公式記者会見 (c)zetaimage

公式記者会見では司会者から、「日本のロックスターとして有名な存在なのに、是枝作品の常連になりつつある」と指摘を受けた。福山はその理由を「僕が、是枝監督自身と監督の作品のファンだから」だと語った。「原案、脚本、監督、編集を手掛ける是枝監督の現場に俳優として参加しながら、一番近くで全行程を見られるのは、シンガーソングライターである僕にとって贅沢な経験であり、すごく刺激を受ける場でした。是枝監督がどういう目線でこの社会を、人間を見つめているのかを知る機会をいただいたこと、そして自分の活動や表現をフィードバックできる現場に参加させてもらったことに感謝しています」と。

『そして父になる』の国内外でのヒットは、実は『誰も知らない』以来のこと。音楽というジャンルの“トップアーティスト”福山雅治とのコラボは、是枝監督が想像していた以上の相乗効果となった。福山の音楽活動でのライブ感と、その場の空気のリアルさを大切にする是枝監督の演出がぴたりとフィットしたことを証明した。

福山と役所の迫力のセッション

本作の見どころは、法廷で有利な証言を三隅から取ろうと弁護士の重盛が悪戦苦闘するところ。7シーンあるこの掛け合いは圧巻だ。役所と福山は座ったまま留置所の接見室で向き合い、強烈なセッションを展開した。このシーンが映画祭の観客にも響いたことは、広瀬が証言している。「三隅さんの目だったり、重盛さんの言葉や表情が語ることが、言語を超えて伝わるのを目の当たりにしました」と。この場面、三隅と重盛と同様、役所のリードで進行し、福山が受ける形。福山は、役所が繰り出す台詞や表情に素直にリアクションをすることを心掛けたと語っている。是枝監督も脚本は書いたものの、自然なリアクションにならないものは後で切ろうと思っていたという。二人の掛け合いから立ち上がってくるものを信頼していたようだ。

『三度目の殺人』9月9日全国にてロードショー
(c)2017『三度目の殺人』製作委員会

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ヴェネチアで是枝監督は、約40媒体、俳優陣3人はラウンドテーブルで約25媒体の海外取材を受けたという。これは異例の露出量だ。高評価を得た公式上映の後、映画祭に参加したスタッフ、キャスト一同で打ち上げを行ったのだそう。晴れ晴れとした表情で、おいしいイタリア料理を堪能したのだという。「さっき移動の車で広瀬さんと話していたんですけど、是枝監督はやっぱりすごく可愛いですよね」。上映後の拍手喝采に安堵し、思わず監督が福山の膝の上に手を置いたことを受けての話。受賞結果よりも、話題はそちら。信頼を“行動”で示されたことが、よほど嬉しかったようだ。福山雅治という“同士”を得て2作。どんどんチャレンジする是枝監督の映画作りに楽しみは広がる。『三度目の殺人』は9日より全国にてロードショーされ、ヴェネチアの受賞結果は翌10日午前1時~(現地時間9日午後6時~)に発表される。