文=石津文子/Avanti Press

今年のアカデミー賞で話題となり、アメリカでは『ラ・ラ・ランド』を超えるヒットとなった『ドリーム』。日本では邦題変更で話題になったものの、シンプルすぎる題名でどんな映画かわからない人も多いのでは?

しかし、見逃しては大損。人知れず努力しているすべての人に観てほしい、爽やかでかっこいい女性たちのサクセスストーリーなのだ。そこで『ドリーム』を見るべき5つの理由をあげてみた。

その1.NASA草創期を支えた女性たちの実話がかっこいい!

『ドリーム』9月29日(金)全国ロードショー
(c)2017 Twentieth Century Fox Film Corporation

当初『ドリーム わたしたちのアポロ計画』という邦題だった『ドリーム』。実際には映画にアポロ計画は出てこないという指摘を受けて副題がなくなったのだが、『ドリーム』ではシンプルすぎてなんの映画かわからなくなってしまった感もある。原題は、“Hidden Figures”。Hiddenには隠されたとか、秘密のなど、Figureには数字、人物、形といった意味があり、「隠された数字」と「知られざる人物」をかけたダブルミーニングなのだ。

これは、NASAの宇宙開発の影に隠れていた、優秀な黒人女性計算手たちのことを指している。1961年、ソ連のガガーリン飛行士(「地球は青かった」ですね)が人類初の宇宙飛行に成功し、先を越されたアメリカは、マーキュリー計画(有人宇宙飛行計画)を実現すべくあせっていた。この計画に選ばれたアメリカ初の宇宙飛行士たちの映画が名作『ライトスタッフ』(1983年)なのだが、『ドリーム』はその陰にいた、知られざるヒロインたちの物語なのだ。この時代、人を乗せてロケットを飛ばすための複雑で膨大な計算をすべて人力でしており、映画はその中でも特に優秀だった実在の女性計算手3人にスポットを当てる。ジェットエンジンの推進力から、着水地点の計算などすべてを導き出す、まさに人力コンピュータ。というか、当時コンピュータとは彼女たちのような計算手を指す言葉で、機械のコンピュータの方が後発だったのでした。

主人公は、計算手の中でも特に優秀だったキャサリン(タラジ・P・ヘンソン)を中心に、リーダー格で後にNASA初のプログラマーとなるドロシー(オクタヴィア・スペンサー)、エンジニアを目指すメアリー(ジャネール・ネモイ)の3人。知られざるヒロインたちが、類いまれな能力と明るさで、差別の壁をたたき壊していく姿は、とにかく爽やかで、かっこいい!

その2.人種差別、女性差別の二重の壁を壊した3人がかっこいい!

『ドリーム』9月29日(金)全国ロードショー
(c)2017 Twentieth Century Fox Film Corporation

映画の冒頭、10歳のキャサリンの姿が映る。数学の天才である彼女は飛び級で高校に通っているのだが、教師はさらに大学への進学を薦める。しかし、彼女の住む町には黒人が通える大学はなく、故郷を離れ、新天地を目指すキャサリンと両親。もう、これだけで泣きそうになってしまう。女の子、がんばれ!

それから30年後。NASAのラングレー研究所のある南部バージニア州はいまだ人種差別が激しく、さらに女性であるキャサリンたちは「人間コンピュータ」として黒人専用の西館に閉じ込められていた。だが、どんな難問も解決してしまう優秀な数学者であるキャサリンは、ハリソン部長に能力を認められ、花形部署である宇宙特別研究本部へ出向する。しかし、そこは白人だらけ。女性トイレも白人専用で、トイレのたびに1キロ近く離れた西館へ走っていくことに。さらに同僚男性は、キャサリンの作ったレポートに彼女の名前を入れず、会議への出席も拒む。そこには人種だけでなく、女性はあくまで助手という差別意識があった。キャサリンも負けずに何度も何度もレポートに名前を入れて提出する。ここはコミカルに描かれているが、またも泣きそうになってしまったー。

一方、ドロシーは管理職と同じ仕事をしているにも関わらず昇進が認められずにいたが、導入されたばかりのIBMコンピュータのプログラミングを独学で学び、責任者の地位を勝ち取る。エンジニアを目指すメアリーも、白人専用の学校にしか設置されていない養成プログラムを受講できるよう、裁判所で闘うことに。彼女たちは家庭生活でも壁にぶつかるが、そこでもあきらめない。

ケビン・コスナー演じるハリソン部長がキャサリンの窮状に気付き、トイレの人種差別的な看板を壊す場面は痛快だ。部長にとって女性トイレは盲点だったのだが、後にキャサリンの恋人になる軍人のジョンソンも、うっかり「女性にしては優秀だ」と口にして、ぴしゃりとやられる。わかりやすい差別ではなく、彼らのように「無自覚な差別」をしてしまう人々というのは今もたくさんいる。私にもそうした部分があるだろう、と反省してしまった。こうした相手に対して、3人は決してひるまないし、常に明るく、自分たちを鼓舞するのだ。優秀な女性とは、自分で自分を励ます術を知っている女性のことかもしれない。なんてかっこいい!

その3.60年代のファッションがかっこいい!

『ドリーム』9月29日(金)全国ロードショー
(c)2017 Twentieth Century Fox Film Corporation

60年代はじめのカラフルなファッションも見物。スーツまたはワンピースにパンプスでの出勤が基本なのだが、原色をいかしたその色遣いがとにかくお洒落。ヴィンテージカーもかっこよく、アメリカがもっとも輝いていた時代かもしれない。

その4.宇宙飛行士ジョン・グレンがかっこよすぎる!

キャサリンが大仕事に抜擢されるきっかけを作るのが、宇宙飛行士のジョン・グレン。『ライトスタッフ』ではエド・ハリスが演じたグレンは、おそらくアメリカで最も有名な宇宙飛行士であり、尊敬される人物の一人。政治家に転身後は大統領候補にもなったほどで、アメリカでは教科書にも載っている、誰もが知るヒーローなのだ。77歳のときには向井千秋さんらと共に再び宇宙へ挑戦し、史上最高齢の宇宙飛行士になった。

ジョン・グレンとコンピューターズ 『ドリーム』9月29日(金)全国ロードショー
(c)2017 Twentieth Century Fox Film Corporation

人種、性別にこだわらないグレンはキャサリンの優秀さを知るや、自分が乗る宇宙船の軌道計算を彼女にさせてほしいと上部へ進言する。彼女が検算しなければ乗らない、と言うのだ。才能は才能を知る、というべきか。何度かキャサリンを助ける場面があるのだが、まるで“紫のバラの人”(『ガラスの仮面』の!)のようなさりげなさで、とにかくかっこいい。演じるグレン・パウエルは『エクスペンダブルズ3』などで活躍する、注目の若手イケメン。また、3人の子どもを持つシングルマザーのキャサリンに恋するジョンソン中佐(『ムーンライト』のマハーシャラ・アリ)も、かっこいい。かっこい女性には、かっこいい男性がついてくるのね。

その5.映画業界で数少ない女性シネマトグラファーが撮影

『ドリーム』の撮影監督はマンディ・ウォーカー。ハリウッドでも近年、女性の映画監督は増えつつあるが、映画業界の中でもシネマトグラファー(撮影監督)は特に女性が少ない職種で、アメリカではなんと全体の2パーセントに過ぎないという。一方、女性監督の占める割合は6パーセント。カメラの構図、動き、どんな場所で撮るかなど撮影のすべての責任をもつシネマトグラファーは、いまだ女性にとっては狭き門。マンディはオーストラリア出身で、ニコール・キッドマンとヒュー・ジャックマンが主演した超大作『オーストラリア』や『奇跡の2000マイル』など多くの作品で撮影監督を務めている。男性上位社会の映画界で、大作を手がけるまでにいたったマンディ自身も、Hidden Figuresの一人と言えるだろう。

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最後に。キャサリンのモデルである、キャサリン・G・ジョンソンさんは現在99歳でご健在。2015年には合衆国最高の名誉とされる、大統領自由勲章を受けた。今年3月のアカデミー賞授賞式に主演の3人と共にステージに上がり、大喝采を受けたのをご覧になった人も多いだろう。ドロシーとメアリーもNASAに功績を残し、数年前に亡くなった。ジョン・グレンはこの映画の公開直後、98歳で逝去。

彼女たちには特別な才能があったが、それだけでなく圧力に屈しないたくましさがあり、道が開けた。特別じゃなくても、たくましくなることはできる。女性よ、たくましくあれ。もちろん、男性たちもね。