文=ロサンゼルス在住ライター 鈴木淨/Avanti Press

「オスカー候補となるべき今年No.1の映画だ」――ヴァラエティ誌

「これぞ理屈抜きの、芸術と呼べる大作映画であり、間違いなく今年これまでで最高の1本」――エンタテインメント・ウィークリー誌

「この映画でアカデミー賞作品賞レースが始まった。最初のフレームから最後までが歴史的な達成であり、心臓を撃ち抜かれるような圧倒的、視覚的スペクタクル」――ローリング・ストーン誌

『ダンケルク』9月9日より丸の内ピカデリー、新宿ピカデリーほか全国ロードショー
(C) 2017 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. ALL RIGHTS RESERVED

今や押しも押されもせぬ大監督となったクリストファー・ノーランの最新作『ダンケルク』を、ハリウッドの権威ある有名誌がこぞって絶賛している。

すでに世界の大部分で7月下旬から公開済みの同作は、ノーラン監督が製作、脚本も手がけ、史実に基づいて描いた戦争大作。9月9日(土)の日本公開を前に、各メディアによる評価から、その内容に迫っていこう。

「戦争映画史の新たな扉を開いた」と言われる理由

『ダンケルク』9月9日より丸の内ピカデリー、新宿ピカデリーほか全国ロードショー
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「クリストファー・ノーランが戦争映画史の新たな扉を開いた。細部までこだわり抜いた傑作」――ウォールストリート・ジャーナル紙

「戦争映画史上最高の1本。それは映像、作品へのアプローチ、観客への影響力すべてにおいて明らかだ」――サンフランシスコ・クロニクル紙

このように、一流紙の映画評も同作を褒め称えている。映画評まとめサイトRotten Tomatoesによれば、映画評論家による批評の実に93%がポジティヴに評価(8月27日現在)。これは非常に高い数字で、対象となっている批評の総数が332と、ほかの映画と比べ格段に多いことを考えても驚異的と言える。さらに、このうち「トップ・クリティクス」と呼ばれる一線級の評論家による50の批評に限って見れば、ポジティヴな評価は94%。否定的なものはわずかに三つしかない。

肯定的な意見はタイプ別に分類でき、そこから「戦争映画史の新たな扉を開いた」と言われる所以も見えてくる。まず一つは、その画期的な演出手法だ。

「時間とアクションが波のように盛り上がっては沈む」

『ダンケルク』9月9日より丸の内ピカデリー、新宿ピカデリーほか全国ロードショー
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描かれているのは、第二次世界大戦の初期に起きた「ダンケルクの奇跡」。ヒトラー率いるドイツ軍によってフランスの港町ダンケルクに追い詰められたイギリス、フランス連合軍の兵士40万人の大規模な撤退作戦である。

ノーラン監督は、西欧ではとても有名なこの出来事を、それぞれ時間軸の異なる陸、海、空の三つの視点で撮影し、巧みな編集で組み合わせることによってスリリングなタイムサスペンスに仕立て上げた。下記のような批評は、その革新的なスタイルに贈られたものだ。

「演出が効果的。時間とアクションが波のように盛り上がっては沈み、時に顔をぴしゃりと叩いてくるようだ」――ニューヨーカー誌

「パズルのように構築された、スリル満点の映画」――シカゴ・トリビューン紙

「映画的な手法と技術の力をツアーで見てまわるような作品」――ニューヨーク・タイムズ紙

「腹の底からこみ上げるような無防備の恐怖を描き出した」

『ダンケルク』9月9日より丸の内ピカデリー、新宿ピカデリーほか全国ロードショー
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また、限りなくリアリティにこだわった映像とアクションを讃える声も多い。『ダークナイト』(2008年)『インセプション』(2010年)『インターステラー』(2014年)といった空想世界を描いた作品でもCGに頼らないアクションシーンで圧倒的な迫力を演出してきたノーラン監督が、初めて実話の映画化に挑んだ同作で、現実の戦争の恐怖を生み出すことに注力した。見たことのないような映像の連続が、見る側を映画の世界に没入させる。

「大きなスクリーンで見れば圧倒的な映画体験となる。特に登場人物が飛行機に狙われたり包囲された船に閉じ込められたりするシーン。腹の底からこみ上げるような無防備の恐怖をこれだけ描き出した戦争映画はほとんどない」――シカゴ・リーダー紙

「可能な限り大きなスクリーンで見るべき映画。IMAXシアターに住んでいる人以外は家で見ちゃダメ!」――フォートワース・スター・テレグラム紙

「CGなど作り物のアクションはほかの監督に任せておけ。これぞ一流、王道のフィルムメイキング」――ニューヨーク・デイリーニュース紙

臨場感を高めるために全編をIMAXフィルムと65ミリフィルムの組み合わせで撮影したノーランは「ダンケルクで起きたことは、生きるか死ぬか、時間との究極の戦いでした。ものすごく緊迫した状況だったわけで、私たちが目指したのは、その現実を観客に味わってもらうということでした」と語る。プロデューサーのエマ・トーマスも「監督は、観客を登場人物たちと一緒にあの体験の真ん中に放りこみたかったんですよ」と話している。

「勇気ある英国の情熱が描かれている」

『ダンケルク』9月9日より丸の内ピカデリー、新宿ピカデリーほか全国ロードショー
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そして、人間ドラマとしての物語に共感する声も目立つ。戦争映画でありながら、同作で描かれているのは“戦い”ではなく“撤退”だ。だがそれだけに、「生き抜いて家に帰る」という若い兵士たちの本能的な執念がストレートに伝わってくる。

「ダンケルクの奇跡」は、イギリス人にとって最も重要な意味を持つ出来事。下記に紹介するイギリスのメディアによる映画評には特に、物語そのものに敬意を払う心情がにじんでいる。

「勇敢な行為が称えられ、スピットファイア(英軍の戦闘機)が飛び、チャーチルの言葉が恭しく引用され、そして勇気ある英国の情熱が描かれている」――サンデー・タイムズ紙

「野心的で、感動的で、印象深く、美しく、恐ろしい映画。近代の戦争において最も注目すべき出来事を描くにふさわしい作品」――サンデー・インディペンデント紙

「1940年の英国が大きな犠牲を払った撤退と、反作用的な勝利が、クリストファー・ノーランの手によって恐ろしく強烈なスペクタクルとしてスクリーン上によみがえった」――ガーディアン紙

『ダンケルク』9月9日より丸の内ピカデリー、新宿ピカデリーほか全国ロードショー
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ダンケルクでイギリス軍が行ったのは“敵から逃げる”という行為だったが、この作戦こそがその後、連合軍が第二次大戦に勝利できた要因の一つだったとされている。そして、なぜその作戦が「勇敢な行為」として語り継がれるのかは、映画のラストを見ればよく理解できる。物語はノンストップで駆け抜けるが、その最後で敗北と勝利が交差するのだ。

イギリス人のノーラン監督もこう語る。「長い間、映画化したいと思っていたストーリーなんです。ほとんどのイギリス人がそうですが、私もダンケルクの撤退という伝説的な窮地からつかみ取った勝利について聞いて育ちました。それは私たちの文化の大きな一部であり、体に染み込んでいるのです」。

「わかりづらい」「退屈」など一般観客からは冷ややかな反応も

『ダンケルク』9月9日より丸の内ピカデリー、新宿ピカデリーほか全国ロードショー
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同作で映画デビューとなる主演のフィン・ホワイトヘッド、ワンダイレクションのハリー・スタイルズらキャストの演技や、ハンス・ジマーの音楽を高く評価する意見も多い。ここまで評判がいい要素が多いと一見、弱点のないような作品に見えるが、実はそうでもない。

Rotten Tomatoesによると、一般観客からの好意的な感想は82%と、やはり高いながらも映画評論家たちによる評価からはかなり数字が下がるのだ。ノーラン監督の斬新なアイデアや凝った演出が“通好み”過ぎて、ついていけない観客も少なくないのかもしれない。

実際、「(視点ごとに)時間軸が変わるので、物語がわかりづらい。退屈で、すぐに飽きた」「物語というよりドキュメンタリーのよう。実験的な構成のせいで混乱し、何度か寝そうになった」といった反応も寄せられている。またトップ・クリティクスの批評の中にも、下記のようなものがある。

「作品の構成が明らかになり、それがきちんと整理された勇敢な個人的選択の数学的なショーだとわかるにつれ、観客は騙されていたことを理解する」――ニューヨーク・マガジン

すべてが計算され、作りこまれ過ぎているという批判のようだ。今年一番の傑作か、退屈な難しい作品か。あなたの目で、劇場で確かめてみてはいかが? イギリス、オランダ、フランス、アメリカによる合作映画『ダンケルク』は、9月9日(土)から日本公開。

『ダンケルク』9月9日より丸の内ピカデリー、新宿ピカデリーほか全国ロードショー
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