9月16日(土)より、ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿シネマカリテほか全国順次ロードショー!
(C) 2016 Lago Film GmbH. Studiocanal Film GmbH

盗んだボロ車で走りだせ!かつて14歳だった大人へ贈るキュートな少年たちとの“映画旅”

コラム

  • twitter
  • facebook
  • はてなブログ
  • google+
  • LINEで送る

文=新田理恵/Avanti Press

誰もが経験したことのある感情の記憶

「大人になったら、またここに来よう」。映画『50年後のボクたちは』を見て、子ども時代にそんなことを友だちと言いあった記憶がよみがえった。13歳か14歳の頃だったと思う。目の前にあった夏休みの景色はうっすらと残っているが、横にいた友だちの顔はもう思い出せない。その時、なんとなく子ども時代の終わりと来たるべき大人の世界の入り口が迫ってきたことを感じ取って、幸福だが少しほろ苦い気持ちになったことは覚えている。この映画が描く少年たちの冒険や成長は、誰もが経験したことのある感情の記憶を呼び起こしてくれる。

トリスタン・ゲーベル演じるマイク(手前)とアナンド・バトビレグ・チョローンバータル演じるチック(奥)
9月16日(土)より、ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿シネマカリテほか全国順次ロードショー!
(C) 2016 Lago Film GmbH. Studiocanal Film GmbH

主人公のマイクは、いつもオドオドしている地味で小柄な14歳。イヤな言い方をすると、いわゆるスクールカーストの最底辺にいる。クラス一の美少女タチアナに片想いしているが、彼女の眼中にマイクはいない。 終業式が終わったら、タチアナの誕生日パーティーが開かれる。プレゼントにしようと、彼女の似顔絵を描くマイクだったが、タチアナから招待状が届くことはなかった。クラスで誕生日パーティーに招待されなかった生徒は、マイクとロシアから転校してきたばかりのチックの2人だけだ。

夏休み。マイクの父親は若い愛人と“出張”という名の旅行に出かけ、アル中の母親は施設に入院してしまう。ひとりでゲームをしていると、突然チックがボロ車に乗ってやってきた(当然無免許)。マイクとチック、クラスの「はみ出し者」2人は、ボロ車に乗って旅に出る。目的地は、チックの祖父がいるという「ワラキア」。ルーマニアに実際にある地名だが、ドイツ語では「地図にのっていない未開の地」という意味を持つ。2人は何の道しるべもなく、ただひたすら車を南へ走らせるのだが……。

我が道を行く、規格外の転校生チック

旅の途中でケガをするチック
9月16日(土)より、ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿シネマカリテほか全国順次ロードショー!
(C) 2016 Lago Film GmbH. Studiocanal Film GmbH

チックはとにかく規格外の男の子だ。「子連れ狼」の大五郎(若者はネットで検索)を彷彿させる奇妙なヘアスタイルに、焦点の定まらない目。14歳のくせにいつも酒臭い(「カクヤス」に置いていそうな透明の液体が入ったビンを所持)。マイクの家に乗り込んできた日の晩は、ちょうどタチアナの誕生日パーティー。「存在感が大事」とマイクにはっぱをかけ、呼ばれていないパーティーにボロ車で乗り込む鋼のメンタルを披露する。

自分のルーツは「ヴォルガ・ドイツ人」だと言うチック。18世紀にロシアに移住したドイツ人の子孫で、スターリン時代には中央アジアなどに追放された歴史がある。ドイツでも、ロシアでも、差別され、マイノリティーに属してきた人々だ。 映画が進むにつれて、チックはあらゆる面でマイノリティーとして生きてきた男の子であることがわかってくる。それゆえに傷も負ってきたであろう彼は、生きたいように生き、やりたいようにやることで、必死で自分の居場所を見つけようと闘っているように見える。

ゴミ山で出会った少女イザ
9月16日(土)より、ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿シネマカリテほか全国順次ロードショー!
(C) 2016 Lago Film GmbH. Studiocanal Film GmbH

人と比べて卑屈になる、孤独な少年マイク

かたやマイクは、いつもクラスメイトの目を気にしている男の子だ。「みんなに比べて僕はイケてない」という意識が彼をオドオドさせ、卑屈にしている。マイクにとっては、両親が不仲の家庭と学校だけが世界のすべて。その中で必死に自分を守ってきた。 そんな彼が、異端児チックとの無謀な旅で、見たことのない景色を見て、感じたことのない刺激に触れ、世界の大きさ、複雑さを知る。学校のヒエラルキーなんてちっぽけで、アル中の母親も浮気性の父親も、ただの人間だと知る。自分が生きていく世界は、家と学校だけではない。それに気づくことが、この年頃の少年少女にとって、この先どれだけ大きな支えになるか、大人になった私たちは何となく知っている。

9月16日(土)より、ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿シネマカリテほか全国順次ロードショー!
(C) 2016 Lago Film GmbH. Studiocanal Film GmbH

*      *        *

ロードムービーという形で描かれる少年たちのひと夏の冒険を見守りながら、観客が目撃するのは、ひとりの少年が子ども時代の終わりを迎え、大人の入り口に立つ姿だ。そして心に残るのは、彼らと一緒に“生きたいように生きる”旅を終えた気持ち。自分の価値観で自分の居場所を発見した新学期のマイクの顔を見れば、もう大人になった私たちも、フレッシュな気持ちで明日へ踏み出せそうな気がする。

記事制作 : Avanti Press(外部サイト)

関連映画

マイシアターとは?
お気に入りの映画館を「マイシアター」に設定しておくと、上映中の作品やスケジュールがかんたんに確認できるようになります。
マイシアターは2つまで設定できます。