文=新田理恵/Avanti Press

子どもの世界はピュアで、時に残酷だ。韓国映画『わたしたち』の主人公は10歳の女の子。映画は彼女の目を通して、学校内のヒエラルキーやいじめ、家庭環境が子どもにもたらす不安や嫉妬を映し出す。

『わたしたち』9月23日(土)より、YEBISU GARDEN CINEMA ほか全国順次ロードショー
(C)2015 CJ E&M CORPORATION and ATO Co., Ltd. ALL RIGHTS RESERVED

軽食屋を営む母と、工場勤務で多忙な父、幼い弟と暮らす10歳のソンは、忙しい両親に替わって弟の面倒をみる“いい子で優しいお姉ちゃん”だ。大人しくて友だち付き合いのヘタな彼女は、学校ではいつも独りぼっち。そんな寂しさを、誰にも打ち明けることができない。

終業式の日、ソンは転入生のジアと出会う。夏休みの間、友情を深めていく2人。互いの家を行き来したり、お泊まりするなどすっかり親友になるが、家庭環境に恵まれないジアは、ソンと彼女の母親の愛情にあふれた親子関係を目の当たりにして、複雑な感情を抱くようになる。

新学期、ジアはいつもソンを除け者にしているボラと仲良くなる。前の学校でいじめに遭っていたジアは、ボラやその仲間に加わってソンに冷たくあたるように……。

裕福な家庭に育ち、成績優秀でクラスの中心的存在のボラもまた、心に問題を抱えている。転入生のジアに成績トップの座を奪われると、彼女への態度を急変させていく。

監督の子ども時代の体験をもとに

人それぞれ心に残るフックは違っても、『わたしたち』に登場するエピソードは、誰もが少なからず経験してきたものばかり。日本の子どもの社会とあまりにも似ているため、自分ごとのように成り行きを見守っているうちに、作品に没入してしまう。まさに“わたしたち”の物語がこの映画にはある。

本作が長編映画デビューとなるユン・ガウン監督は、自分の子ども時代の体験をもとに、この映画を撮りあげた。

ユン・ガウン監督

日本公開を前に来日したユン監督は、こう振り返る。「小学校6年生のとき、大好きだった友だちとの関係が些細なことでこじれ、クラスで仲間はずれにされてしまいました」。心に大きな傷を負った監督は、長い間、子どもたちのことや、人との関係の結び方について考えを深めてきたという。「他人との関係の中であんな強烈な経験をしたのは人生で初めてでしたから、ずっと尾を引きました。解けていない宿題のように心に残っていたので、長編第1作目のテーマに選んだのです」。

韓国の小学生が“友だちに言われて一番傷つく言葉”とは?

ユン監督は1982年生まれ。監督の子ども時代と比べて、現在の韓国の子どもたちのいじめの状況に大きな変化はあるのだろうか?

『わたしたち』9月23日(土)より、YEBISU GARDEN CINEMA ほか全国順次ロードショー
(C)2015 CJ E&M CORPORATION and ATO Co., Ltd. ALL RIGHTS RESERVED

「もしも私が経験したものと、今の子どもたちが経験していることの間に違いがあったら脚本を修正しなければと思って、子どもたちを5人集めて“友だちに言われて一番傷つく言葉”を書いてもらいました。私や演出家ら大人5人も同様に書きました。すると、傷つく言葉の上位が2つの世代で同じだったのです。1位は『재수 없어』(チェスオプソ)といって、もともと『運が悪い』という意味の言葉なのですが、『ムカつく』のように使います。以前も今も同じことが繰り返されているんだなと思いました」。

ただし、いじめの本質は同じでも、ネット上でのいじめやヒエラルキーの明確化など、手口は巧妙になっている。「それから、経済力が低い家庭の子どもを無視するという傾向も見られます。これは私の子ども時代には、あまりなかったことです」と監督は指摘する。「もちろん、昔から家の経済力の差はみんな感じていたことです。でも、だからといって、それを露骨に攻撃したり、親のことを持ち出して相手の子を判断するようなことはあまりなかった。最近では、まだ小さい子どもなのに、経済的な価値観で相手の資質を評価するようになっています」と、大人社会の闇を受けて、子どもたちのいじめがより陰湿になっている現状を語った。

子どもたちは大人の世界から学び、
自分の価値観として受け入れる

『わたしたち』9月23日(土)より、YEBISU GARDEN CINEMA ほか全国順次ロードショー
(C)2015 CJ E&M CORPORATION and ATO Co., Ltd. ALL RIGHTS RESERVED

パク・クネ前大統領の逮捕や財政界の癒着など、近年、韓国の汚職やスキャンダルが日本でも大きく報道されてきた。「子どもたちは大人の世界を見て、学んだものを、自分の価値観として受け入れていくのだと思います。トランプが大統領になる時代です。今の資本主義社会の世の中では、豊かなことに価値があるとされていて、豊かなことが最優先されている。大人たちがそんな価値観で人と接するのを見て、子どもたちも同じ価値観を内面化してしまったのではないでしょうか。反対に、大人たちが礼儀を尊重したり、礼儀正しさは名誉だという姿勢になれば、子どもたちも、それを学んでいくことができます」。

韓国社会のひずみを反映し、子どもたちに試練を与えながらも、『わたしたち』のラストは光が差したように清々しい。「子どもたちが“こんな奇跡ならあるかもしれない”と信じられるものを見せたかった。見た人たちが癒しを感じてくれたら嬉しい」と言うユン監督。傷つきながら成長してきた監督の、大人としての優しさと責任感があふれた作品だ。