2003年から7年間にわたり米・カリフォルニア州知事を務め、近年は政治家としても活動していたシュワちゃんこと、アーノルド・シュワルツェネッガー。2011年に任期を終え、再び俳優として精力的に活動しているシュワちゃんですが、やはり、『ターミネーター』シリーズや『コマンドー』(1985)ほか、数々のアクション映画で見せた、肉体派俳優としてのイメージが今でも強く残っています。

そんなアクションスターとして、世界中の人々から愛されるシュワちゃんですが、肝心の演技の方はというと、出身地のオーストリア訛りの発音が災いしてか、“演技派”とは程遠い評価に……。しかし9月16日(土)より公開される『アフターマス』では、そんなマッチョなイメージを覆す、重厚で地に足の着いた演技で魅せてくれています。

事故で家族を亡くした寡黙な男でイメージを一新!

(c) 2016 GEORGIA FILM FUND 43, LLC

『アフターマス』は2002年にドイツ南部で実際に起こった航空事故「ユーバリンゲン空中衝突事故」をベースにつむがれた悲劇の人間ドラマ。管制塔での人的ミスの経緯や、事故で被害を被った人々の悲劇をつぶさに描いた本作で、シュワちゃんは事故により、妻と妊娠中だった娘を失った男・ローマンを演じています。

これまでも『コラテラル・ダメージ』(2002年)や『エンド・オブ・デイズ』(1999年)などで家族を失った役を演じてきたシュワちゃん。しかしそれらの作品で演じたのは、悲しみを怒りのパワーへと変え、悪の根源へ徒手空拳で立ち向かう――というアドレナリン全開のマッチョな役柄でした。しかし本作で演じたローマンは、白髭をあごに蓄え、いくぶん年齢も感じさせる寡黙な男。これまで演じてきた快活なヒーロー的役回りとは一味違うんです!

孤独な男の悲しみを、言葉を発せずに体現!

ローマンは腕の立つ建築系の現場監督で、同僚からも慕われている穏やかな男性です。空港でも淡々と事故を伝える担当者の言葉に、動揺を示しつつも、大げさに取り乱したりはしません。その一方で、航空会社の職員すら、いなくなった夜の空港で一人、肩を落としてトボトボと歩いていく横顔の哀しさ……。帰ろうとして車に乗り込んだものの、発車する気力もなく、大きな体を丸めて、下を向く切ない表情には、シュワちゃんのこれまでの快活な面影は微塵もありません。

シュワちゃんは全編を通じて、多くを語らないローマンの苦しい心の内を、ギュギュっと真ん中に寄せた眉毛で表現。愛する家族の突然の死に、打ちひしがれた男の心情を、セリフに頼ることなく、顔や体の演技のみで見事に表しています。元々は世界最高峰のボディビル大会「ミスター・オリンピア」で何度も優勝経験を持つボディ・ビルダーのシュワちゃん。御年70歳を迎えて衰えたその体も、役に説得力を与えているんです。

嗚咽、叫び…感情を爆発させた心を揺さぶる演技!

(c) 2016 GEORGIA FILM FUND 43, LLC

そんなあまり言葉を発しなかったローマンが感情を爆発させたのは、愛する者の変わり果てた姿を目の当たりにした時です。彼は事故現場にボランティアとしてもぐり込むと、汚れた思い出のネックレスと娘の遺体を発見してしまいます。それまでの自制心が吹っ飛び、絞り出されるように発せられた、娘の名を、叫ぶ悲痛な声と嗚咽……。いまだかつて見たことのないシュワちゃんの、この迫真の演技には、誰しも涙腺が緩むことでしょう。

また、埋葬されたばかりの家族が眠る墓石から離れられずに、寝落ちするローマンの姿や、暗闇の中で、肩を落として座り込む姿など。シュワちゃんから繰り出される、恥も外聞もなく、弱さをさらけ出した体当たりの演技で、より悲しみが鮮明に。「こんなシュワちゃん出会ったことなかった……。」と思わずつぶやいてしまうほどの名演は一見の価値ありです。

シュワちゃんの大きな体を活かした、悲しみを引き立てる巧みな演出で、全てを失った男の孤独と心の機微をスクリーンに浮き彫りにし、エリオット・レスター監督は、「本作はシュワルツェネッガーの俳優人生における第2幕だ」と、シュワちゃんの名演に自信をのぞかせています。

重厚かつ丁寧な演技で、人間の弱さと悲しみを見事に体現したシュワちゃん。70歳を迎えてもなお、進化し続ける男の、“演技派”としての第一歩をスクリーンで確認すれば、筋肉だけの男と彼を侮ることはできなくなるはずです。

(文/足立美由紀・サンクレイオ翼)