(C) 2012 角田光代/中央公論新社 (C) 2017 「月と雷」製作委員会

草刈民代、ほぼ“すっぴん”で酒焼け声…男に寄生する女を熱演した『月と雷』

コラム

  • twitter
  • facebook
  • はてなブログ
  • google+
  • LINEで送る

倉本聰が脚本を手掛ける話題のドラマ「やすらぎの郷」(テレビ朝日系)に、名優たちが入居する高級老人ホームを取り仕切る総務理事役で出演している草刈民代。同ドラマで見せる凛としたイメージから一転、10月7日(土)から公開となる映画『月と雷』では、昼間から酒をあおり、気だるく煙草を吹かす、荒れ果てた母親・直子を熱演。ほぼすっぴん、並々ならぬ覚悟を持って草刈の新境地に迫る!

“夫”の作品にしか出演しなかった

草刈は、小学2年からバレエを始め、日本を代表するバレリーナとして活躍しながら、1996年、周防正行監督に大抜擢され、映画『Shall we ダンス?』に主演。数々の賞に輝き、一躍、有名女優の仲間入りを果たした。

今年6月、テレビ朝日の「徹子の部屋」に周防正行監督と夫婦そろって出演し、互いを「正ちゃん」「民ちゃん」と呼び合っていることを明かすなど、結婚21年目を迎えてもなお仲睦まじい、絵に描いたようなオシドリ夫婦ぶりを披露していた。

映画では、夫の監督作品にしか出演してこなかった草刈だが、安藤尋監督たっての希望で映画『月と雷』への出演を決意。これまでの草刈のイメージを大きく覆すような強烈な役柄を演じている。そう耳にしたうえで、映画の場面写真を見たのだが、あまりの変わり様に、正直最初はどこに草刈民代が写っているのか見つけられなかった。

え!? これが草刈民代?と思わず二度見

草刈が扮しているのは、高良健吾演じる智の母親・直子役。世話をしてくれそうなターゲットを見つけては、男から男へと各地を転々とする。虚無感をまとい、深い孤独を漂わせ、相手が結婚を匂わした途端、ふっと姿を消すという謎めいた女だ。

ブリーチのしすぎで髪はパサつき、酒焼けした低い声でボソボソ話す直子は、“場末の女”感が満載で、思わず「え!? これが、あの『やすらぎの郷』の理事長?」と二度見してしまうほど。草刈自ら「なぜ、直子役に私を選んだのですか?」と安藤監督に尋ねたというのも無理はない。

直子役のイメージについて、「映画『パリ、テキサス』のハリー・ディーン・スタントン」と答えたという安藤監督。金髪美女のナスターシャ・キンスキーではなく、妻子を捨てて失踪し、砂漠で行き倒れていた髭面のむさ苦しい男を草刈民代に重ね合わせ、「風景を背負ってスクリーンの中を歩ける女優は草刈さんだけ!」と口説き落としたというから驚く。

草刈の徹底した役作りは、映画『モンスター』のシャーリーズ・セロン超え!?

直子を演じるにあたり、草刈は、メイク(ほぼすっぴん)や衣装をはじめ、声のトーンや歩き方まで、徹底的に監督と話し合い、「スクリーンで直子がどう見えるか」ということを第一に、元・バレリーナの草刈ならではの身体性を重視した表現を追求していったという。

その結果、映画『モンスター』(2003年)で連続殺人犯を熱演したシャーリーズ・セロン超えか!? というほどの説得力で、これまでの草刈民代というキャラクターを完璧に封印し、直子という人物に息を吹き込むことに成功したのだ。しかも、直子はスレッカラシの仏頂面だけでなく、時には酔っ払った勢いで、スナックで不確かな音程で「風来坊」を歌う、実に人間味あふれる可愛らしい一面も持ち合わせている。

草刈演じる直子は、まさに安藤監督の狙い通り、テキサスの荒野ならぬ、日本の田園風景を背負い、スクリーンのなかを悠然と通り過ぎていく。監督と女優は、たとえ夫婦でなくとも、ある種の“共犯関係”にあるというのは本当だ。そんなことを、映画『月と雷』を観終わった後に、一人でじっくりと嚙みしめた。

(文/渡部喜巴@アドバンスワークス)

記事制作 : アドバンスワークス

関連映画

マイシアターとは?
お気に入りの映画館を「マイシアター」に設定しておくと、上映中の作品やスケジュールがかんたんに確認できるようになります。
マイシアターは2つまで設定できます。