映画『散歩する侵略者』は9月9日より公開

『散歩する侵略者』長澤まさみ インタビュー

インタビュー

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すべてを受け入れ、支え合うのが夫婦

行方不明だった夫が別人となって帰宅し、「地球を侵略しに来た」と告白。同じころ、町で不可解な現象が続発していく。劇団「イキウメ」の人気舞台を黒沢清監督が映画化した本作で、夫の変ぼうぶりに戸惑う妻を演じた長澤まさみが、夫婦愛や人生について語った。

ヒロインの怒りは女性としての強さ

Q:突飛な設定ながら愛をテーマにした異色の物語。オファーを受けたときのお気持ちは?

“現実味のあるファンタジックなストーリー”という好きなタイプの作品だったので、世界観にハマってしまいました。黒沢監督の作品らしく、非現実的なことが起こっているのだけど、その中にいる人たちの感情や行動がリアルだから、より物語の世界に引っ張られていくんです。ユーモアの要素もあって、撮影するのが楽しみでした。

Q:今回演じた鳴海を、どんな女性だと解釈しましたか?

鳴海は終始怒っているんですけど、それが夫への怒りだけだとしたら、すごく薄っぺらいなと思ったんです。つかめない部分があって監督に聞いたら、「もっと大きなもの、世の中に対して怒っているのだ」とおっしゃって、腑に落ちました。怒るという行為はすごくエネルギーを使うんですよね。どうでもいい人には怒らないし、怒りの中には“苦しさ、つらさ、愛”など、いろんな感情が含まれているから、それが人間としての深みにもなっていく。女性としての強さを表している気もします。怒るときの温度が鳴海の愛情の深さに関わってくるのですごく難しくて、監督に細かく演出してもらいました。

Q:監督と相談しながら演じられたのですね。

監督には言葉にしてほしいとお願いしました。自分の解釈と監督の表現したいものは合っていたいし、誤解から生まれるズレはもったいないですから。わたし自身も、言われたほうが伸びるタイプだと思っています。理解が他の人よりも遅いのかもしれないけど(笑)。

夫の裏切り、夫婦間の愛情

Q:夫・真治役の松田龍平さんの印象は?

松田さんはすごくご一緒したい俳優さんだったんです。夫婦役でよかったなと思いました。夫婦って一緒に日々を過ごしている人たちだから、わたしたちも役者として向き合おうとする努力ができたし、お互いが寄り添い合って夫婦の空気感を作っていけた気がしました。松田さんから「遠慮なくやってほしい」と言われたのもありがたくて、居心地がよかったです。

Q:真治の浮気で冷えた夫婦関係が、侵略者によって軟化していきます。そんな鳴海の心境には寄り添えましたか?

鳴海は本当に真治が大好きで、振り向いてもらえなかった自分にも非があるってわかっていたんです。自分は淡々とデザイナーの仕事をしていて、夫に何もしてあげられていなかったのかな、と。相手に女を捨てて見せていた部分があったから、こういう事態を招いたんだって自覚しているんです。関係性の悪化って、どちらかだけが悪いってことはないと思うんですね。相手に何かしてもらおうって考えることだって、本当は間違っているのかもしれない。その甘えにお互いが気づいて、受け入れて支え合っていけるのがパートナーだと思います。

Q:そんな風に思えたら、人間関係で悩むことも少なくなりそうですね。

だけど、感情的に動くことは間違っていないと思います。すべては、そこから招く何かだから、自分の意志を貫くのであれば、結果はどうであれそれでいい。とても人間らしいことですよね。今回の映画は、そこまで深く考えさせられる作品でした。わたし、人間らしさが細やかに描かれている作品が好きなんです。鳴海と真治とのケンカとか、夫婦のたわいもないシーンがすごく好きでした。

概念を奪われた人間は幸せ

Q:「家族」「所有」「自分」など、侵略者が人の概念を奪う、という設定が非常にユニークでした。

わたしは概念を奪われたとしても、その人は幸せなのだろうと思ってしまいます。だって、その概念を持っていたこと自体を忘れちゃうわけですから。それを不幸ととらえるのは周りにいる人の価値観であって、本人の価値観ではない、という部分が不思議だし面白いですよね。わたしだったら「奪われてもいいかな」って思いそう。根が楽観的なので(笑)。

Q:鳴海と真治の日常と、町で起きる不可解な現象を取材するジャーナリスト(長谷川博己)とのパートが交互に描かれます。完成版を観たときの感想は?

撮影中は長谷川さんのパートがどうなっているのか全然わからなくて、松田さんとも「どうなるんだろうね」って話していたんです。試写を観たときはアクションや爆破シーンが想像以上にハードだったので驚きました。わたしと松田さんの淡々と流れている時間との空気があまりにも違うから、どのシーンにも釘づけで、まるで違う映画を同時に観ているような感覚でしたね。長谷川さんのどこか頼りないんだけど、人間力があるキャラも魅力的で、その時々の異常な状況を切実に教えてくれる感じがリアルで面白かったです。

Q:夫婦や家族の関係性、人間の生き方など、いろんな気づきがありそうな作品ですよね。

「自分には何もないのではないか」と迷っている人たちに、「迷っていることは当たり前」だと感じてもらえそうな作品だと思いました。鳴海は仕事の挫折感も味わっている人だから、同世代の女性には鳴海を自分に投影して観てもらえたらうれしいです。こんな不思議な映画は今までないような気がするので、ぜひ楽しんでほしいです。

取材・文:斉藤由紀子

写真:尾藤能暢

記事制作 : シネマトゥデイ(外部サイト)

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