1960年代から80年代の初頭にかけて、南北アメリカ大陸には麻薬ビジネスのネットワークが確立され、警察もグルになって大規模な麻薬犯罪の温床を構築していました。米国では、ジョージ・ユングなどに代表される麻薬密売のレジェンドや、バリー・シールといった敏腕の運び屋が裏社会で名を馳せ、巨万の富を得ていたのです。

驚愕な規模の麻薬取引により桁違いの大金を手にした犯罪者の人生は、やはり映画にしても大変興味深いものです。かつてのアメリカ社会で麻薬ビジネスの中核にいた実在の犯罪者が主人公の傑作映画3作品を、実際の事件・人物像と照らし合わせながら紹介したいと思います。

尋常ならざるバイタリティと不屈のメンタルで1億ドルを手にしたレジェンド

1970年代から80年代初頭にかけて、アメリカで“伝説のドラッグ・ディーラー”として悪名を轟かせた人物がいました。ジョージ・ユングという男です。
ユングが最初にビジネスを当てたのは20代の頃。メキシコからカリフォルニアへ麻薬を空輸し、月に10万ドルを稼ぐ大金持ちになりました。仲間の密告によりシカゴで逮捕されますが、収監先の刑務所でコカイン取引の専門家カルロスと知り合い、釈放後は彼と結託してコロンビアからコカインを密輸し、再び大金を手にするようになります。

やがてカルロスとは縁が切れますが、コロンビアの麻薬カルテルの親玉パブロ・エスコバルと個人的に結びつきを強め、ビジネスを拡大。1億ドル以上を稼ぎ出します! その後、マサチューセッツ州での囮捜査により300キロのコカイン所持で再逮捕されますが、禁錮60年の求刑を受けながら、敏腕弁護士のお陰で刑期を15年にまで減らされるなど悪運の強さを発揮。以降は幾つか真っ当な仕事を経験しますが、結局マリファナに関わる事業に手を染め、逮捕と釈放を繰り返して現在に至ります。

波乱万丈なユングの半生は、2001年、『ブロウ』というタイトルで映画化されました。ブロウ(blow)とは英語でコカインを意味する俗語です。主演はジョニー・デップ。デップは本作を介して、ユングと親しい関係となり、彼が出所したときにはデップ側からの申し出で面会が実現しました。

本作は、麻薬ビジネスと出会って波乱に満ちた人生を歩むことになる一人の青年の人生を繊細かつ丁寧に描いており、未知の世界に対する視野を広げてくれる作品です。主人公ユングは褒め称えられるような人物ではありませんが、行動力や精神力には学ぶべきところがあり、また彼が恋人や友人との関係の中で見せるナイーブな一面には共感できる部分がたくさんあります。

革新的なビジネスセンスで麻薬王国を築き上げたハーレムの帝王

1960年代後半から1970年代前半にかけてハーレムを中心に暗躍したヘロイン密売人、フランク・ルーカスもまた、映画の主人公となった実在のドラッグ・ディーラーの一人です。ベトナム戦争のどさくさにまぎれてヘロインの入手ルートを確保し、中間業者を介さずに質の高い麻薬「ブルーマジック」を安価で売りさばいて、一大勢力を築きました。特に死亡したアメリカ兵の棺に大量のヘロインを隠して、これらを密輸していたエピソードは有名です。

最盛期にはなんと、たった1日で100万ドルを稼いだとか! 莫大な資産と一緒に名声も得て、芸能界、政界、そして犯罪界のエリートたちと親密な関係を構築し、あるときにはハーレムの超高級クラブでハワード・ヒューズにも会ったといいます。逮捕され、すべての資産を差し押さえられ、実刑に服しても、出所後に再び麻薬ビジネスを立ち上げる肝の座り方は、ジョージ・ユングに負けず劣らず、といったところ。のちに「New York Magazine」誌のインタビューに答えたルーカスは、自身の信念と野心について、「ドナルド・トランプのような金持ちになりたくて、そして神に誓って、やり遂げた」と語りました。

フランク・ルーカスが作り上げた麻薬王国の興亡と、彼を追う刑事リッチー・ロバーツの執念の捜査を描いた映画に、『アメリカン・ギャングスター』(2008年)という作品があります。『ブレードランナー』(1982年)や『グラディエーター』(2000年)などの有名作で知られる巨匠リドリー・スコット監督がメガホンをとった実録犯罪ドラマです。

供給地直送の上質なヘロインを革新的なスタイルで売って巨益を手にした男、その男を金のなる木として飼いならし賄賂を要求する腐った汚職警察官、そして麻薬に汚染された社会と汚職にまみれた警察機構に立ち向かう勇敢な刑事……複雑に絡み合う三者の思念から1970年前後のアメリカ社会の闇を垣間見ることができます。

主人公のルーカスにデンゼル・ワシントン、正義を貫く刑事リッチー・ロバーツにラッセル・クロウ、共演にキウェテル・イジョフォー、ジョシュ・ブローリンら豪華俳優陣が一堂に会した点にも注目です。

天才パイロット、CIAエージェント、そしてコカインの運び屋

(C)Universal Pictures
『バリー・シール/アメリカをはめた男』は、10月21日(土)公開。
配給:東宝東和

フランク・ルーカスが初めての逮捕を経験し、ジョージ・ユングがカルロスと別れてエスコバルと急接近し始めた1970年代後半、エースパイロットからCIAエージェントに転身し、南北アメリカ大陸を飛び回っていた謎の男がいました。バリー・シールという人物です。

シールは10代の頃から飛行機の操縦に特別の才覚を発揮し、20代半ばでボーイング707の最年少コマンドパイロットに就任するなど、「天才飛行家」として将来を嘱望された存在でした。しかしCIAに能力を買われて極秘の偵察作戦に参加するうち、コロンビアの麻薬王エスコバルと出会い、なんとコカインの運び屋としても才能を開花させてしまいます。

この秋、彼を主人公としたコメディ要素満載のクライムアクション『バリー・シール/アメリカをはめた男』がいよいよ日本でも公開されました。シールを熱演するのは、トム・クルーズ。監督は『オール・ユー・ニード・イズ・キル』(2014年)ぶりにクルーズとタッグを組むダグ・リーマンです。

優秀なエージェントとしてCIAからのミッションを遂行する裏で、違法な麻薬密輸ビジネスで数十億円を荒稼ぎした破天荒男の役どころは、トムにとって新たなハマり役となることでしょう。数奇な運命の果てに迎える衝撃のラストも必見です!

(C)Universal Pictures
『バリー・シール/アメリカをはめた男』は、10月21日(土)公開。
配給:東宝東和

嘘みたいな衝撃の実話を軽妙に描いた『バリー・シール/アメリカをはめた男』は、10月21日(土)、全国公開。

(桃源ももこ@YOSCA)