キューバ革命の英雄チェ・ゲバラが1967年10月9日にボリビア戦線にて39歳の若さで命を落としてから、間もなく半世紀の時が経つ。没後50年のメモリアルイヤーである今年、チェ・ゲバラから彼自身のファーストネーム“エルネスト”を与えられ、ともに戦った日系人・フレディ前村を描いた日本とキューバの合作映画『エルネスト』が日本公開される。

“もうひとりのゲバラ”とも言えるフレディ前村の知られざる生涯を紡ぎ出すのは、日の当たらない人々や題材に映画ならではの光を当てることを得意とする名匠・阪本順治。主演は、映画『マイウェイ12,000キロの真実』(2012年)、『FOUJITA』(2015年)など、世界規模で活躍する国際派俳優オダギリジョー。今回で『この世の外へ クラブ進駐軍』(2004年)、『人類資金』(2013年)に続き、3度目のコラボレーションが実現したオダギリジョーと阪本順治監督が、本作にかける思いを語ってくれた。

フレディ前村があきらめず、努力を続ける姿に共感

Q:阪本監督が、フレディ前村を映画の題材に選んだ理由を教えてください。

阪本順治(以下、阪本):僕は、日の当たらない人々や題材に映画ならではの光を当てることが映画の使命だと思っているんです。常日頃、そういう題材を探す中で、フレディ前村を見つけて。ご家族が執筆された書籍『革命の侍~チェ・ゲバラの下で戦った日系2世フレディ前村の生涯』を手に入れ、当時のフレディやゲバラを知る関係者を訪ね歩き、取材を重ねることで、少しづつ形にしていきました。

Q:オダギリさんは、フレディ前村にどのような印象を抱きましたか?

オダギリジョー(以下、オダギリ):阪本監督からフレディ前村の話を聞いて、初めて存在を知り、驚きました。あの時代に、日本人の血を引く方が革命運動に関わっていたというのは、とても衝撃的でした。

Q:オダギリさんが、フレディ前村に共感したところは?

オダギリ:たくさんあります。ひとつ選ぶとしたら、自分がこれと思ったことについてあきらめず、努力を続けるところ。自分にもそういうところがあると思っています。

Q:阪本監督がフレディ前村役をオダギリさんにオファーした理由は?

阪本:オダギリくんは目標を見つけた時、そこへ向かってブレずに仕事をするタイプ。フレディ前村の取材をする過程で、オダギリくんの顔が浮かび、ふたりは気質が似ているなと感じました。それと、3度目に彼と一緒に仕事をするときは、より困難な企画にしたいという想いもあって。オダギリくんであれば、スペイン語や減量の困難、髪の毛を伸ばし続けたままの生活を苦にせず、当たり前のように演じてくれると確信し、脚本が出来ていない段階でオファーをしました。

Q:オダギリさんがオファーを受けた時の気持ちを教えてください。

オダギリ:阪本監督から企画を聞いた時、いまの日本映画界ではかなり難しい挑戦になると思いました。だからこそ、この作品に参加したいという気持ちが強くなりました。

キューバ・ロケでは、想定外のトラブルが頻発

 

Q:キューバ・ロケでは、毎日のようにトラブルが起こったそうですね。オダギリさんが印象に残っている出来事は?

オダギリ:撮影当日の朝、メイク室へ入った時に衣装担当の方がいらっしゃらなくて。遅刻するような方ではなく、ホテルの部屋へ電話しても応答がないので、何かがあったんだ!と思い、ホテル中を探し回ったら……エレベーターから“助けてくれ”という声が聞こえてきて。その方は、エレベーターに1時間以上閉じ込められていたんですよ。

Q:それは大変なトラブルですね! 阪本監督が印象に残っている出来事は?

阪本:僕の部屋の電気スタンドのランプが1個づつ、消えていくんです。それは停電が理由ではなく、ランプの替えがない。物資もエネルギーも足りないため、キューバの方々は車が壊れたら自分で部品を作って修理するんです。そういう事情があるので、エレベーターだって止まる。僕らは不測の事態を想定してキューバ入りし、トラブルが起こった時は立ち止まらずに回復を目指そうという気持ちで、日々を過ごしました。いま、振り返ると楽しい想い出ばかりですよ。

Q:オダギリさんは今回、約半年間でスペイン語(フレディの生まれ育ったボリビアのベニ州の方言)を完璧にマスターし、体重を12キロ絞って、役作りに挑まれたそうですね。本作に出演したことで、俳優として得たものは?

オダギリ:僕は、阪本監督が理想とする演技のレベルを超えたままで撮影を終えることを目標にしていました。その目標を達成出来たことは、自信になりました。

Q:阪本監督が本作の撮影を通じて感じた、オダギリさんの変化は?

阪本:本作で、ゲリラのシーンを演じるオダギリくんの姿を初めて観た時、“僕にとってのフレディがいる”と感じました。それと同時に、彼が周到な準備を行い、役を作り上げてきたことをとても嬉しく思いました。彼が次にどのような高いハードルに挑むのか、楽しみにしています。

映画『エルネスト』
10月6日(金) よりTOHOシネマズ新宿ほか全国公開
配給:キノフィルムズ / 木下グループ
公式サイト:http://www.ernesto.jp/
(C) 2017 "ERNESTO" FILM PARTNERS.

取材・文/田嶋真理 写真/横村 彰