1950年代から60年代にかけてのキューバにおいて、アメリカの利権支配から独立を勝ち取ろうと奮起したチェ・ゲバラというカリスマ的英雄がいました。彼の思想や人生哲学は、これまで多くの文献・映像作品に刻まれてきました。

閉塞感の充満した不寛容社会、ほのかな絶望と不信に満ちた毎日、不安でいっぱいの未来……。そんな混迷の現代においてこそ、信念にしたがって生き抜くことの喜びや運命を変える勇気を革命戦士・ゲバラは与えてくれるように思います。彼を題材とした映画はいくつか存在しています。彼の生き様はどのような形でフィルムに焼きつけられてきたのでしょうか。

ゲバラ映画の歴史はここから始まった―『ゲバラ!』

ゲバラの処刑後まもなく制作が開始され、当時の革命の空気感を最も新鮮な状態で保存した作品に、『ゲバラ!』(1969年)があります。
著名なゲバラ映画のなかでは最も古い作品です。ゲバラがキューバに初上陸した1956年から、ボリビアで銃殺刑に処された1967年までを、ストレートな伝記映画として描いています。

監督は、ディズニー映画『海底二万哩』(1954年)を監督したことで知られるリチャード・フライシャー。時代スペクタクルからSFまで、大型エンターテイメントを得意とするフライシャー監督ならではの、臨場感に満ちた演出が光っています。

ゲバラ愛に満ちた究極のドキュメンタリー―『チェ・ゲバラ―人々のために』

1999年には、ゲバラの出身国であるアルゼンチンが、貴重な資料をふんだんに用いてゲバラ愛に満ちたドキュメンタリーを制作しました。『チェ・ゲバラ―人々のために』という映画です。
革命の象徴とされたゲバラの生き様を、価値ある写真や映像・エピソードと共に、親しみを込めて記録しています。

本作の最大の特徴は、ゲバラの功績や人生を単なる伝記として紹介するのではなく、ゲバラと親しかった存命の人物から彼に関する様々なエピソードを引き出し、彼の人間的実像に迫ろうと試みていることです。シエラ・マエストラで共闘した同志によって語られるゲリラ戦でのドラマチックな記憶や、娘アレイダらによって綴られる家庭生活の思い出は、ゲバラをよく知らない人々でも心に強く響くことでしょう。

ゲバラの人格形成に影響をもたらした南米旅行の軌跡―『モーターサイクル・ダイアリーズ』

チェ・ゲバラの本名は、エルネスト・ラファエル・ゲバラ・デ・ラ・セルナといいます。革命家として目覚める前はブエノスアイレス大学に通う医大生でした。彼は大学在学中の1951年に友人と南米放浪旅行に出掛け、その過程で見聞したことを一冊の紀行文にまとめました。その紀行文を映像化したのが、『モーターサイクル・ダイアリーズ』です。

本作はロバート・レッドフォードとヴァルテル・サレスらによって2004年に映画化され、主題歌「河を渡って木立の中へ(Al Otro Lado del Río)」は、スペイン語の楽曲として初のアカデミー歌曲賞を受賞し話題となりました。

『ゲバラ!』で描かれなかった革命家を志す前のゲバラ、すなわち医大生エルネストの姿を描いた映画として、重要な意味をもつ作品であるばかりか、1950年代の南米社会や文化を知るにもよい資料といえます。「革命」、「ゲリラ」、「銃撃戦」など、物騒な描写を好まない方におすすめの青春ロードムービーです。

総上映時間4時間半の超大作―『チェ 28歳の革命』と『39歳 別れの手紙』

ゲバラ映画史上最も壮大に、最も克明に、革命家チェ・ゲバラの精神と勇姿を刻んだ映画といえば、『チェ 28歳の革命』と『39歳 別れの手紙』(いずれも2008年)を挙げることができるでしょう。

全編の上映時間が4時間30分に及ぶ超大作のため、バティスタ独裁政権をフィデル・カストロと共に倒すキューバ革命までを描いた『チェ 28歳の革命』と、ボリビアでの敗北と処刑までを描いた『チェ 39歳 別れの手紙』の二部構成という形をとります。1964年から1967年にかけてのゲバラ最後の3年間を中心に描きつつ、その合間に彼が革命家を志して間もない1950年代のエピソードを差し挟むところに、本作の面白さがあります。

ゲバラとカストロ兄弟の絆、キューバ革命の真実、ボリビアへの渡航など……ゲバラの最期にまつわるエピソードをあますところなく詰め込んだ傑作です。

ゲバラと日本のあいだに結ばれた知られざる絆の物語―『エルネスト』

(c)2017 "ERNESTO" FILM PARTNERS.

ゲバラの革命精神に心を打たれて、反政府ゲリラ活動に参戦した革命戦士の中に、フレディ・マエムラという日系2世の若者がいました。
その存在はこれまであまり知られてきませんでしたが、今年、フレディを主人公とした日本・キューバ合作の青春活劇が誕生しました。その名は『エルネスト』(2017年)。フレディの姉マリー・マエムラ・ウルタードと、フレディの甥エクトル・ソラーレス・マエムラの共著、『革命の侍』を原作として制作されました。

フレディ・マエムラを演じるのは実力派俳優として名高いオダギリジョー。永山絢人も記者役で共演しています。本作においてゲバラは主人公ではなく脇役ですが、チェ・ゲバラという偉大な革命家が若き志士たちにどれほどの勇気と希望を与えたかを、周辺人物の視点から窺い知れる新しい切り口のゲバラ映画であると高く評価できます。

(c)2017 "ERNESTO" FILM PARTNERS.

戦士名としてゲバラのファーストネームである“エルネスト”の名を与えられ、ゲバラに特別の愛情を注がれた青年に日本人の血が流れていたとは、何とも興味深いことです。フレディ・マエムラを介して、ゲバラと日本の距離が、ひいては南米諸国と日本の距離がぐっと縮まるような不思議な親近感を覚えます。

チェ・ゲバラとフレディ・マエムラ。“エルネスト”の名が繋ぐ二人の革命戦士の絆を描いた『エルネスト』は、10月6日(金)、全国ロードショー。

(桃源ももこ@YOSCA)