ある殺人事件における加害者家族の次男が書いた獄中手記に、ジャーナリストの鈴木智彦が解説を加えた『我が一家全員死刑』。これを原作とする映画『全員死刑』が、11月18日に公開されます。

犯罪者の手記や告白本は、事件当時の心情描写などが社会を刺激し、たびたび映画化されています。『我が一家全員死刑』でも全員が死刑判決を受けたことで話題となった同事件について、その顛末が生々しくつづられていました。

今回は、そんな犯罪者の手記などを原作にした作品を紹介します。

殺人犯・市橋達也はなぜ逃亡したのか?…『I am ICHIHASHI 逮捕されるまで』(2013年)

『I am ICHIHASHI 逮捕されるまで』の原作本『逮捕されるまで 空白の2年7カ月の記録』は、英会話講師の英国人女性を殺害した市橋達也が、2年7ヶ月の逃亡生活を綴ったものです。連続テレビ小説「あさが来た」でブレイクしたディーン・フジオカが監督・主演を務めている本作では、原作のもつ生々しい逃亡生活と独白が、映像でしっかりと表現されています。

市橋達也が整形していたことは、大々的に報道されていたので、ご存知の方も多いと思います。しかし、逃亡初期はお金が無く、公衆便所でハサミを使い、自分の唇を切り落としていたことは衝撃的であり、映画でも、その描写は大きな見せ場となりました。ディーン・フジオカの美しい顔から放たれる痛々しい表情と絶叫は、他の作品の彼からは想像できない光景でしょう。

その後も四国に行ったり、沖縄に行ったり、そして資金を稼ぐために日雇い労働をしたり……。その様子がロードムービーのようにも見え、市橋達也の逃亡生活を追体験するような映画になっています。

死刑囚の告発を元に“先生”の悪事を解き明かす…『凶悪』(2013年)

獄中の死刑囚が別件の殺人を雑誌記者に告発。裏で自分を操っていた“先生”の悪事を暴いていく、実際に起こった「上申書殺人事件」を映画化した作品です。その雑誌記者こと、宮本太一が執筆した原作が『凶悪 -ある死刑囚の告発-』。警察すらも見過ごしていた事件を、死刑囚の記憶と共に暴いていく過程は、現実に起きたことなのに上質なミステリー小説に似た読後感があります。

信じていた“先生”に裏切られた獄中にいる死刑囚は、一心不乱に悪事を暴露していき、その狡猾なやり口には辟易とします。しかし、一方で二人は“知恵”と“力”を補完し合う無二の親友のような間柄でもあり、言葉の端々から蜜月の関係が垣間見えます。映画でも、リリー・フランキーとピエール瀧のコンビで表現されております。酒・暴力・性欲…という欲望のみで構成されている、自由な生き様は、ある意味見事なまででした。

本作のDVDとBlu-rayには、宮本太一と監督の白石和彌、当時の雑誌編集長であった中瀬ゆかりの音声解説が収録されていました。宮本太一は当初、死刑囚を怪物みたいにイメージしていたようですが、会いに行ったら柔和な表情で驚いたとか。

音声解説ではそんな彼との少し笑ってしまう手紙のやり取りが披露されています。さらに、映画の主人公が段々と狂気に取り憑かれていく顔も迫力があったが、事件と向き合っていた宮本太一の表情も同じぐらい怖かったなど……。映画でも原作でも語られない内容は、聞きごたえたっぷりです。

元マフィアが語るマフィアの世界…『グッドフェローズ』(1990年)

幼い頃から大統領になるよりマフィアに憧れ、強奪・賭博・麻薬売買などあらゆる悪事に手を染めた男、ヘンリー・ヒル。やがて彼は仲間の悪事を証言することで、政府から身柄を保護される“証人保護制度”を受け入れ、悪の道から足を洗うことになります。

そんな彼の豪快な生涯やマフィアの内情をヘンリー・ヒル自身や妻が、自分の口で語り、ニコラス・ピレッジがまとめた本が『Wiseguy』。『グッドフェローズ』は『Wiseguy』を映画化した作品となります。英エンパイア誌が2007年に発表した“史上最高の映画100本”でも6位に入るなど映画史に名を残すマフィア映画として、語り継がれている名作です。

犯罪者自らが語る原作では裏切りや粛清は当たり前のマフィアの現実が明かされています。しかし、ヘンリー・ヒルはこの世界に憧れて入っているので、引退したミュージシャンが栄光の現役時代を語るかのように嬉々として数多の犯罪を悪びれもなく語っていました。それは、映画でも表現されており、舞台となる1955年~1980年の各時代にヒットしたナンバーをBGMに採用。悲惨な殺人描写でも軽快でポップな印象を与える、ブッ飛んだ作品となっています。

そんな本作ですが、もっと豪快なのがDVD・Blu-rayの特典。なんと、ヘンリー・ヒル本人と彼を司法取引に応じるように説得したエドワード・マクドナルド検事の二人による音声解説付きです。

二人は昔ながらの友人のようにワイワイ楽しく本編を見ながら感想を語ります。時には言ってはいけない犯罪者の実名が出るので、“ピー音”が入ったり、盗品を売買する詳細なプロセスをサラッと紹介したり、主演のロバート・デ・ニーロへ演技指導をした思い出にご満悦だったり……と、本編に負けないブッ飛び具合で必見です。

話題性とともに問われる倫理観

犯罪者の手記や告発を元にした本は、話題性がある一方で、「神戸連続児童殺傷事件」の加害者・少年Aの手記『絶歌』のように、社会全体を巻き込んで、倫理観の面で問題になることもあります。そのため、アメリカでは「サムの息子法」が多くの州で制定されています。この法律は犯罪の加害者が自身の体験を出版・販売して利益を得ることを阻止する目的で制定されたものです。

この“サムの息子”とは1976年~1977年に、ニューヨークで無差別連続殺人事件を起こした“サムの息子”と名乗る犯人が、逮捕後に手記を出版しようとしたことが由来となっています。この事件に翻弄される人々を、スパイク・リー監督は『サマー・オブ・サム』(1999年)として映画にしています。

映画『全員死刑』は間宮祥太朗が演じる主人公のタカノリをはじめとする、借金に困った一家が、近所の資産家一家の金を強奪しようとする作品です。一体なぜ彼らは殺人するに至ってしまったのか? 事件の全貌を、次男タカノリの視点でぜひ確かめてみてください。

(文/塩谷友幸@H14)