文=金田裕美子/Avanti Press

秋! たくさんの海の幸、山の幸が旬を迎える季節です。なかでもこれから冬にかけて、おいしくなる海の幸といえば牡蠣。日本はもちろん、その他のアジアの国々、ヨーロッパ、南北アメリカ、アフリカまで、世界中で食され愛されている牡蠣は、もちろん映画にも数多く登場します。というわけで今回は牡蠣を楽しんじゃおうと思います。

映画でよく見かける牡蠣のメニューといえば、やっぱり生牡蠣。魚介類をあまり生で食べない欧米でも、生牡蠣だけは、ニッポンのスシやサシミが市民権を得るずっと以前から食されていたようです。生牡蠣と聞いて私がイメージする国はフランス。ラッセル・クロウ主演の『ロビン・フッド』(2010年)では、フランス王フィリップ(ジョナサン・ザッカイ)がイングランド侵攻の戦略を練りながらセーヌ川沿いで食べていたし、『Mr.ビーン/カンヌで大迷惑!?』(2007年)では、Mr.ビーン(ローワン・アトキンソン)がカンヌに向かう途中、パリ・リヨン駅のレストランで食べていました。ただし、フィリップ王の場合は牡蠣を開ける際にナイフで手を切って不吉なムードになるし、言葉が分からないままオーダーしてしまったMr.ビーンの場合は口に合わなかったらしく、食べるふりして牡蠣をナプキンに落とし、捨て場に困って隣席の女性のバッグににゅるっと流し込む、というトホホなシーンでしたが。

『Mr.ビーン/カンヌで大迷惑!?』
(c)Universal Pictures/Entertainment Pictures/ZUMAPRESS.com

『アデル、ブルーは熱い色』の生牡蠣とスパゲッティ・ボロネーゼ

生牡蠣をストーリーにうまく生かしていたのはフランス映画の『アデル、ブルーは熱い色』(2013)。文学好きの女子高校生のアデル(アデル・エグザルホプロス)は、道ですれ違った青い髪の女性エマ(レア・セドゥ)に一目で心を奪われます。その後、バーで偶然見かけて初めて言葉を交わし、美術学校に通うエマとアデルはやがて恋人同士に。ふたりはお互いの家に招かれ、それぞれの両親と会うことになります。

『アデル、ブルーは熱い色 スペシャル・エディション』発売中 4,700円+税 発売元:コムストック
(C) 2013- WILD BUNCH - QUAT’ SOUS FILMS - FRANCE 2 CINEMA - SCOPE PICTURES - RTBF(T?l?vision belge) - VERTIGO FILMS
ジャケット写真は予告なく変更となる場合がございますのでご了承ください。

エマの家は町なかのアパルトマン。部屋には現代風の絵画が飾られていて、何やら芸術一家っぽい。エマの義理のお父さんは「君たちのためにわざわざ店で選んで買ってきた」という生牡蠣と、選び抜いた白ワインをふるまってくれます。実はアデルは海鮮が苦手なのですが、せっかく用意してもらったので、おそらく初めての生牡蠣を食べてみます。同性のアデルをごく自然にエマの恋人として扱ってくれる両親も、食卓での「安定より夢を追うべきだ」という会話も、アデルには戸惑いを感じると同時に新鮮です。

アデルの家は郊外の古い家。彼女の両親は一家の定番メニュー、スパゲッティ・ボロネーゼと赤ワインを用意してエマを迎えてくれます。アデルはエマを恋人だとは言えず、お母さんはエマを「娘の勉強を見てくれる変わった髪の美大生」だと思っているし、お父さんは画家志望のエマに「絵描きで生活するのは難しい。堅実な仕事が一番だ。彼氏の職業は?」などと現実的な話ばかりしています。それでもにこやかにスパゲティをほめながら話を合わせるエマ。

家庭ではそんなにしょっちゅうは食べないであろう、ちょっとよそいきの生牡蠣と、お腹にどっしりくる飾らない家庭料理のスパゲッティ・ボロネーゼ。ふたりの育ってきた環境の違いが、このふたつのメニューからも伝わってきます。

アデル&エマのお呼ばれメニューに挑戦!

というわけで、アデル&エマのお呼ばれメニューを作ってみたいと思います。まずは生牡蠣。調理法といえば殻つきの牡蠣を買ってきて開けるだけ、なのですが、これが慣れないととんでもなくハードルが高い。近所のスーパーで殻つき牡蠣なんて売ってないし、牡蠣むきナイフが必要だし、フィリップ王みたいに手を切りそうだし。

フランスのミッテラン大統領の料理人だった女性をモデルにした『大統領の料理人』(2012年)では、生牡蠣が食べたいという大統領の急な要請を受けた料理人オルタンス(カトリーヌ・フロ)は、すでに殻を開けて氷の上に並べられた状態でレストランから取り寄せていました。ほら、一流シェフだって自分で開けてない!

東京・築地場外にある「築地魚河岸」1階の生鮮市場

でも私はオルタンスに対抗し、牡蠣開けに挑戦してみます。まずは殻付きの牡蠣を調達するため、築地場外の貝類専門店へ。お店で薦められたのは、今まさに旬だという北海道は昆布森産の真牡蠣。でかっ。映画に出てくるフランスの牡蠣と比べるとかなり大きい。でも身がこんもりしていておいしそうだからこれに決定。

牡蠣、でかいです

お店では「自分で開けるの?」とおじさんに心配されながら、牡蠣むきナイフも購入しました。売られているナイフは、大きな彫刻刀のようないかにも刃物っぽいもの、先端がまるいものなどさまざまです。あんまり切れ味のいいものは手をグッサリやりそうで怖いので(おじさんにも止められた)、刃もグリップもまるい優しそうなものを選びました。

牡蠣むきナイフ。これは鍔(つば)がついているので手が滑ってもちょっと安心

さらに。店頭に並んだあさりやはまぐり、ミル貝などさまざまな貝をながめていたら、黒くつやつや輝くムール貝を発見。こちらもおいしそう! ムール貝といえば、これまたフランス映画の『地下鉄のザジ』で、田舎からパリにやって来た少女ザジ(カトリーヌ・ドモンジョ)がお皿に山盛り食べていたのが印象的でした。ムール貝のワイン蒸しはお隣の国ベルギーの名物料理として有名ですが、フランス映画つながりということで、ついでにザジのムール貝もメニューに加えちゃいます。

いざ、牡蠣開け!

それではいざ、牡蠣開けに挑戦。まず殻の表面をたわしで洗います。牡蠣は殻で手を切りやすいので、軍手を使用しました。牡蠣のちょうつがいを手前に、平らな側を上にして持ち、右側上部(時計で言うと1時か2時あたり)から上下の殻の間にナイフを差し込みます。しかーし。言うのは簡単ですが、殻はぴったり閉じているし、薄い殻が何層にも重なっていて、そもそもどこが境なのかすらわからない。ナイフが入らないのであります。ここかな? と思ってちょっとナイフを強く押してみると、ガッと滑って「ギャー危ない!」ということに。おじさんが心配していたのはこれですね。そんなときには、殻の右側上部をナイフまたはハンマーなどでカンカン叩くと、殻が欠けて上下の殻の間に少し隙間ができます。

蝶つがいを手前に持って、右側上部からナイフを入れます

ここにナイフを水平に差し込み、上の殻にくっついている貝柱を切り離します。貝柱が離れれば、あとはテコの原理で殻が簡単に開きます。右からナイフを入れるのは、貝柱が右側についているからなんですね。最後に上の殻をめりっと外せば瑞々しい身が姿を現します。

最初は貝柱の位置も力の加減もよくわからず、ナイフをぐさぐさ動かしているうちに身がボロボロになってしまったりしますが、いったんコツがつかめると、貝柱を切り離した瞬間にあれだけ頑固だった牡蠣が素直にパカっと開くようになるのが、カイ…カン!(わからない人は『セーラー服と機関銃』参照)。「もうひとつ開けたい! 何個でも開けたい!」という気分になるから不思議です。

開けた牡蠣は氷の上に並べ、エマの家にならってレモンを添えました。もちろんお好みで、和風にポン酢でいただくのもよし、アメリカ風にカクテルソースやタバスコを垂らすのもよし。スコッチウイスキーの産地のひとつ、アイラ島では、生牡蠣にアイラモルトをどぼどぼ注いで食べるんだとか。

ゴロっと挽き肉、スパゲティ・ボロネーゼ

次はアデルの家のスパゲティ・ボロネーゼ。同じ挽き肉を使ったパスタソースでも、トマト味のイメージが強いいわゆる「ミートソース」に対して、「ボロネーゼ」はもっとお肉そのものを味わう料理です。玉ねぎ、にんじん、セロリ、にんにくをみじん切りにして、多めのオリーブオイルで30分から1時間ほどじーっくり炒めます。野菜から引き出した旨味と甘味を料理の基礎に使う「ソフリット」というヤツですね。牛ひき肉は、おおざっぱに平らにまとめ、テフロンなら油をひかずにそのまま熱いフライパンにぺたっと入れます。茶色い焼き目がついたらひっくり返しますが、この時崩れてもOK。最終的には全体的に粗くぽろぽろに、焼き目がつくよう炒め、出てきた油が多すぎるようならキッチンペーパーで吸わせて油を除きます。

ひき肉はざっとまとめた状態で投入。全体に焼き目をつけます

炒めたひき肉とソフリットを鍋に入れ、赤ワインを注ぎます。沸騰させてアルコールを飛ばしたら粗ごしたトマト缶を投入。ブイヨン、ローリエ、オレガノも加えて1時間ほどコトコト煮込みます。最後に塩こしょうで味を整えればソースの出来上がり。これを一度冷ましてから食べるときに温めると、ひき肉がさらにジューシーに仕上がります。

粗めなひき肉がゴロっと入っているところがミソです

本場イタリアでは、ボロネーゼといえば幅広麵のタリアテッレ、と相場が決まっているようですが、アデルの家にならってここはスパゲティを使用。茹でたスパゲティとボロネーゼ・ソースを和え、器に盛っておろしたパルメザンチーズをかければ完成です!

ザジのムール貝は殻をはさみ代わりに!

オマケのザジのムール貝もいきましょう。ムール貝はたわしで表面をよく洗い、殻の間から出ているヒゲのような足糸(そくし)を引っ張って外します。これは貝の一部なので、貝が弱らないよう調理する直前に外すのがベスト。鍋にバターを溶かし、玉ねぎとセロリのスライスを入れて炒め、香りを出します。ここにムール貝と白ワインを加え、ふたをして強火で3~5分。ムール貝の口が開けば出来上がりです。加熱し過ぎると身が縮んで固くなる上に貧相になるので、くれぐれも火は通しすぎないように。

ヒゲみたいに殻の間から出ているのが足糸(そくし)です

ザジの入った店のウィンドーに「ムール貝とフリット」と書いてあったように、このふたつのベルギー名物は切り離せないものなので、付け合わせにフリット(ポテトフライ)も揚げました。ケチャップではなくマヨネーズをつけて食べるのが本場ベルギー流です。また、空になったムール貝の殻をはさみ代わりにして、次の身をつまんで食べるのも本場流。ザジもそうやって食べていました。

『地下鉄のザジ』
(c)New Yorker Films/Photofest

アデル&エマ・ミーツ・ザジ・メニューの完成! 合わせる白ワインは、生牡蠣には定番とされているシャブリではなく、ワイン屋さんで勧められたお手頃価格のミュスカデを用意しました。そいえば『地下鉄のザジ』で、ザジを蚤の市に案内し、ムール貝をごちそうしてくれる謎のおじさんもミュスカデを飲んでいましたっけ。それも角砂糖を二つ入れて……。これはちょっと真似しませんでしたが。

ではサンテ(乾杯)! 牡蠣、濃厚でうんまーっ。スパゲティ・ボロネーゼ、素朴でお肉の味がしっかりしてうんまーっ。ムール貝、磯の香りたっぷりでうんまーっ。ミュスカデ、うんまーっ。自画自賛しながらぺろっと平らげてしまいました。生牡蠣は、殻付き牡蠣が手に入りさえすれば開け方はすぐに習得できるし、見た目もゴージャスだし、おいしいし、これからの季節、とってもお勧めです。一見ハレの日の豪華な食べ物に見えますが、エマの家でも「意外にお手軽でお客様にも喜ばれるメニュー」だったのかもしれません。

【材料】
《生牡蠣》殻付き牡蠣、レモン(牡蠣むきナイフ、軍手、氷)
《スパゲティ・ボロネーゼ》牛ひき肉、玉ねぎ、にんじん、セロリ、にんにく、トマト缶、ブイヨン、ローリエ、オレガノ、赤ワイン、オリーブオイル、塩、こしょう、スパゲティ、パルミジャーノ
《ムール貝の白いワイン蒸し》ムール貝、玉ねぎ、セロリ、バター、白ワイン
【映画っぽい気分を盛り上げるための小道具】
青い髪、絵画、スケッチブック