文=高村尚/Avanti Press

主演女優賞・蒼井優、主演男優賞・菅田将暉――第91回キネマ旬報ベスト・テンが発表された! キネマ旬報ベスト・テンとは、1924年度(大正13年)に始まった世界一長い歴史を持つ、権威ある映画賞のこと。90回目となるアメリカのアカデミー賞よりも1回多いのだ。評論家やジャーナリストの投票によって選ばれ、その結果は、誰が誰に、またはどの作品に投票しているか、「キネマ旬報2月下旬キネマ旬報ベスト・テン発表特別号」(2月5日発売)につまびらかに掲載されるので、公平性も高いといわれている。発表された今年の結果から、賞がどんなきっかけで決定していくのか、また受賞者はこの賞をどう感じているのかなど、その裏側を紹介してみたい(受賞結果は巻末に)。

映画の公開時期が受賞の追い風に?

映画『花筐/HANAGATAMI』のクランクイン直前の一昨年夏、大林宣彦監督が肺がんで余命3カ月という宣告を受けたというのは既報のこと。それから約1年半。去る1月11日にもたらされたニュースは、監督賞受賞、日本映画ベスト・テン第2位の吉報だった。

『花筐/HANAGATAMI』(C)唐津映画製作委員会/PSC 2017

受賞理由はもちろん、批評家が「見るだけでヒーリング効果がある、病をも吹き飛ばすエネルギーのある作品」と評した力強い演出力ゆえなのだろうが、その追い風となったものに、映画の公開日もあると思う。実は年の前半に公開された作品は映画賞に不利だと言われている。『花筐~』は年も押し詰まった12月16日に公開された。私たちの記憶は時間が経つほど薄れる。投票時期に公開を設定したのには、もしかすると作品関係者の、大林監督に“絶対”受賞してほしいという願いが込められていたのかもしれない。

“For Your Consideration(決める際のご参考に)”

ハリウッドの映画業界紙に掲載された“For Your Consideration(決める際のご参考に)”広告

ところ変わってハリウッドでは、映画賞のシーズンになると、どこの映画会社も投票権を持つ人々相手に、「うちの会社が作った映画を思い出して!」というアピール活動を繰り広げる。“For Your Consideration(決める際のご参考に)”と記した広告を出稿し、作品の出来の良さや、演技や演出の素晴らしさをアピールするのだ。それに比べると、日本のロビー活動はおとなしい。いや、もしかするとほとんどしていないのではないか。ただ近年は稀に“どうしても賞を取らせたい”と熱を帯びた作品関係者が、「見ていないならば」と投票者に作品のDVDを貸してくれることもあると聞く。見ていない作品に投票はできないので、鑑賞の機会が作られるのはどちらにとってもプラス。ちなみにアメリカのアカデミー賞では、希望すれば投票権を持つ全員が対象作品のDVDを見られるよう、事務局が手配しているという。

受賞をきっかけに第2のロードショーが始まる!?

『映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ』
(C)2017「映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ」製作委員会

手配されたわけではないが、11月15日に発売された『映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ』のDVDの存在も、投票者に作品を思い出させるいい機会となった。DVDが発売されたことで改めて見た投票者も多い。結果は、日本映画ベスト・テン第1位、監督も務めた石井裕也の脚本賞、そして石橋静河(上記の写真右)の新人女優賞。最果タヒの詩集を紡いだ石井裕也監督の脚本は、孤独な若者たちの夜に、あるムードをもたらすことに成功している。20代の吐息がリアルだ。新人とは思えない石橋静河の存在感も、キネマ旬報の主演女優賞を3度受賞した母・原田美枝子に拮抗する。2月12日(月・祝)、受賞者が一堂に会して表彰式が行われる。そこでは登壇した石橋から、女優の先輩である母についての話も聞けるかもしれない。

映画の年末公開やDVDの発売は映画賞への投票を意識させることにひと役買うが、映画賞の受賞も映画のロングランやDVDの販売促進というプラスを生み出す。現在もロングラン中のアニメ『この世界の片隅に』は昨年のキネマ旬報ベスト・テン第1位作品だ。昨年5月、少ない映画館数からスタートした『映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ』も、この受賞をきっかけに第2弾のロードショーをスタートさせるかもしれない。

受賞で俳優が気づく映画製作の中の立ち位置

主演女優賞を受賞した蒼井優

主演女優賞に選ばれたのは、イヤミスの女王・沼田まほかる原作の『彼女がその名を知らない鳥たち』の蒼井優。蒼井優が演じることで、あと味の悪さを別なものに昇華させた。蒼井はこの受賞を受けて、「今回の受賞を、私の周りの方々がとても喜んでくれて、ああ、多くの人にお世話になって、いただけた賞なんだなと、改めて思いました」とコメントしている。受賞をその映画のスタッフや関係者が喜んでくれたことで、映画の中での自分の立ち位置に気づいたという受賞者の話をよく聞く。監督の白石和彌は、「20代の間に経験を積んで、演技幅のコントロールが出来る様になっていると思うのですが、時々入り込み過ぎて破りさる瞬間がある。でもびっくりするぐらい手がかからない女優さん」と彼女を評す。きっとスタッフは、撮影現場を震撼させる“破りさる”演技を見せた蒼井を、どんな瞬間も支え、映画のクオリティに変えたのだろう。コメントはそれに対する感謝の言葉なのだ。

毎年出てくる突出した存在感を持つ俳優

主演男優賞を受賞した菅田将暉

『あゝ、荒野』『火花』『帝一の國』『キセキ-あの日のソビト-』で主演男優賞を受賞した菅田将暉は、今年多くの評論家が「受賞するだろう」と噂し合った俳優のひとり。「実力があり、色気がある」とはある評論家の弁。時々“今年はこの人!”と突出した俳優が出てくるのだが、菅田将暉はまさにそんな存在だった。受賞を受けて、「真ん中に立つことがひとつの目標だったので、こんな大きな賞をいただいたことに対して、気が引き締まります。これからもワンカットワンカット、真摯にやっていきます」とコメントしたが、助演した『銀魂』などでの彼の演技も魅力的だった。彼の存在感が薄れないのは、“真ん中”以外もイケる演技の幅広さゆえなのだろうと思う。

2月5日発売の「キネマ旬報ベスト・テン発表特別号」には、受賞者らのインタビューが掲載される。そして2月12日(月・祝)の表彰式には、 『幼な子われらに生まれ』で助演女優賞を受賞した田中麗奈、『あゝ、荒野』で助演男優賞を受賞したヤン・イクチュン、 『ナミヤ雑貨店の奇蹟』『鋼の錬金術師』で新人男優賞を受賞した山田涼介(欠席が伝えられている)らも一堂に会する。

毎年、表彰式の会場には、1年間の映画界を凝縮させたような熱気がこもる。映画を見る行為は、映画と自分とのクールで刺激的な対話だが、映画を見た後、生の映画人を前にすると、それとは異なる高揚感を味わうことができる。そう。キネマ旬報ベスト・テンの表彰式は、文化映画『人生フルーツ』、外国映画『わたしは、ダニエル・ブレイク』、日本映画『映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ』といった各賞の第1位作品が上映された後に開催される。映画を見て、その作り手たちを前にする。この刺激、味合わない手はない!

【2017年 第91回キネマ旬報ベスト・テン 個人賞一覧】
日本映画監督賞 大林宣彦 『花筐/HANAGATAMI』
日本映画脚本賞 石井裕也 『映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ』
外国映画監督賞 ケン・ローチ 『わたしは、ダニエル・ブレイク』
主演女優賞 蒼井優 『彼女がその名を知らない鳥たち』
主演男優賞 菅田将暉 『あゝ、荒野』『火花』『帝一の國』『キセキ-あの日のソビト-』
助演女優賞 田中麗奈 『幼な子われらに生まれ』
助演男優賞 ヤン・イクチュン 『あゝ、荒野』
新人女優賞 石橋静河 『映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ』『PARKS パークス』『密使と番人 』
新人男優賞 山田涼介 『ナミヤ雑貨店の奇蹟』『鋼の錬金術師』

【2017年 第 91回日本映画ベスト・テン】
1位 映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ
2位 花筐/HANAGATAMI 
3位 あゝ、荒野
4位 幼な子われらに生まれ
5位 散歩する侵略者
6位 バンコクナイツ
7位 彼女の人生は間違いじゃない
8位 三度目の殺人
9位 彼女がその名を知らない鳥たち
10位 彼らが本気で編むときは、

【2017年 第 91回外国映画ベスト・テン】
1位 わたしは、ダニエル・ブレイク
2位 パターソン
3位 マンチェスター・バイ・ザ・シー
4位 ダンケルク
5位 立ち去った女
6位 沈黙-サイレンス-
7位 希望のかなた
8位 ドリーム
9位 ムーンライト
10位 ラ・ラ・ランド

【2017年 第91回文化映画ベスト・テン】
1位 人生フルーツ
2位 標的の島 風(かじ)かたか
3位 やさしくなあに~奈緒ちゃんと家族の 35 年~
4位 ウォーナーの謎のリスト
5位 谺雄二 ハンセン病とともに生きる 熊笹の尾根の生涯
6位 沈黙―立ち上がる慰安婦
7位 米軍(アメリカ)が最も恐れた男 その名は、カメジロー
8位 笑う 101 歳×2 笹本恒子 むのたけじ
9位 まなぶ 通信制中学 60 年の空白を越えて
10位 廻り神楽(かぐら)