文=ロサンゼルス在住ライター 鈴木淨/Avanti Press

公開当時は爆発的なヒットとならなかったにも関わらず、後々まで語り継がれる映画がある。1982年公開のリドリー・スコット監督『ブレードランナー』は、SFのジャンルにおけるその代表的な、まさに「カルト的」という言葉がしっくりくる人気を誇り続ける作品だ。

その人気の理由は何か? そして同作は後世に何を残したのか? 35年間を経てお披露目された待望の続編『ブレードランナー 2049』に続く、オリジナル作品がもたらした影響力を探っていこう。

『ブレードランナー』が影響を受けた映画は?

米国を代表する映画評論家のロジャー・イーバートは、「後世に大きな影響力を及ぼした映画。『メトロポリス』(1926年)や『来るべき世界』(1936年)といった古典作品を下敷きにしながら、未来社会のスタンダードなイメージを確立し、その後のSF映画の流れを変えた」と『ブレードランナー』に賛辞を贈っている。

『ブレードランナー ファイナル・カット』
日本語吹替音声追加収録版 ブルーレイ(3枚組) ¥5,990+税
ワーナー・ブラザース ホームエンターテイメント
TM & (c)2017 The Blade Runner Partnership. All Rights Reserved.

ともにSF映画すべてのお手本となった古典中の古典、フリッツ・ラング監督『メトロポリス』とウィリアム・キャメロン・メンジース監督『来るべき世界』を引き合いに出して讃えているのは、スコット監督の卓越したヴィジュアル・センスだ。

同作で最も印象的なのは、陰鬱で退廃的な未来都市の映像。酸性雨が降り続き、巨大な着物姿の女性の映像ビルボードや日本語の看板などオリエンタルな要素に溢れた街の光景は、『スター・ウォーズ』(1977年)、『スター・トレック』(1979年)など、それまで主流だったクリーンな宇宙冒険劇で描かれた景観とは、大きく異なっていた。

この未来都市のイメージは、スコット監督が東京を訪れた際に見た、猥雑で煌びやかな夜の新宿歌舞伎町を基にしたと言われている。ちなみに、スコット監督は後に大阪で撮影を行なった『ブラック・レイン』(1989年)でも、当初はロケ地として歌舞伎町を希望していた。

『ブレードランナー』が影響を与えた映画とは?

『ブレードランナー』は1982年夏の米公開当時、大ヒットSF作『E.T.』(1982年)などに押し出され、興行成績はまったく振るわなかった。にも関わらず、そのダークでカオス的な映像は、その後に作られた多くのSF映画(1985年公開のテリー・ギリアム監督『未来世紀ブラジル』、1998年のポール・アンダーソン監督『ソルジャー』、2002年のスティーヴン・スピルバーグ監督『マイノリティ・リポート』、最近では今年公開された『ゴースト・イン・ザ・シェル』に至るまで)に大きな影響を与え、1993年には国が文化的、歴史的、芸術的に重要な映像作品を永久保存する制度であるアメリカ国立フィルム登録簿に登録されるまでになった。

映像面で重要と評価されたのは、都市部の景観だけではない。「リドリーの地獄絵図」と呼ばれるオープニングの、噴き出す炎が見通せるロサンゼルスの広漠たる眺めもそう。そして、実は模型制作主任のマーク・ステットソンが手がけた模型であるエジプト風の巨大な光の神殿も色褪せない魅力を放っている。

『ブレードランナー ファイナル・カット』より
TM & (c)2017 The Blade Runner Partnership. All Rights Reserved.

そのほか全編を通して、一度見たら忘れられないような虚無的で美しいシーンが続く。街頭シーンの撮影の間、スコット監督はゆっくりとした薄気味の悪い音楽を頭上のスピーカーから流し、主演のハリソン・フォードらキャストを含む現場の全員の気分を乗せようとしたという。そんな工夫の積み重ねもあって、『ブレードランナー』は映画史上最もヴィジュアルの見事な作品と呼ばれる映画となった。

そもそも『ブレードランナー』とはどんな映画か?

『ブレードランナー ファイナル・カット』より
TM & (c)2017 The Blade Runner Partnership. All Rights Reserved.

『ブレードランナー』で描かれているのは、2019年のロサンゼルス。環境破壊が進んだ地球では宇宙への移住が一般化し、酸性雨に晒された都市部ではわずかな人々がひしめき合って暮らしている。遺伝子工学の発展により誕生した人造人間「レプリカント」たちが人間の代わりに危険な作業、過酷な労働を任されているのだが……。

公開当時の米ワシントン・ポスト紙は、「永遠の命を求める人間の不毛な努力をテーマとした心を打つシナリオから、素晴らしく超モダンなセットに至るまで、あらゆる面で偉大な作品」と同作を評している。革新的な映像のみならず、ストーリーの力強さも『ブレードランナー』の人気を支えているという意見だ。

物語の年代とほぼ同じである2017年の今、環境破壊や人工知能(AI)といった要素はとても今日的に感じられ、35年前に製作されたとは思えないほど未来を予見していたと言える。

同作の原作はSF作家フィリップ・K・ディックの「アンドロイドは電気羊の夢を見るか?」。この小説を基に、主人公にレイモンド・チャンドラーのハードボイルド小説のような硬派(タフ)さを加え、感情を持ち始めるものの人間に定められた寿命のために長く生きられないレプリカントたちの悲哀、反乱、諦観、愛情などがクールに描かれている。レプリカントのひとりに扮したルトガー・ハウアーの終盤の“怪演”に涙した観客も少なくないはずだ。

ロイ・バッティ役のルトガー・ハウアー
『ブレードランナー ファイナル・カット』より
TM & (c)2017 The Blade Runner Partnership. All Rights Reserved.

レプリカントたちの処分を任務とする“ブレードランナー”のデッカードを演じたフォードをはじめ、個性的なキャストも同作に不変の輝きを与えている。前出のハウアーや、ダリル・ハンナ、ショーン・ヤングは公開時にはほぼ無名だったが、同作で注目された後に人気俳優への道を進む事になった。

そしてやはり、当時すでに人気があったフォードが、その危険な雰囲気を醸す演技で同作に最も貢献した俳優と言えるだろう。実はデッカード役がフォードに決まるまでは、トミー・リー・ジョーンズ、クリストファー・ウォーケン、ダスティン・ホフマンらが候補に挙がっていたという。これらの顔ぶれを見ると、もし主演がフォードでなかったら作品の色合いはまったく違うものになっていたと思われる。

五つの異なるバージョンが存在

そのカルト的人気ゆえ、これまで五つの異なるバージョンが製作、公開された。このこともまた、『ブレードランナー』という作品の存在を特異なものにしている。最初の公開から10年後の1992年にはスコット監督の意図が最も反映されたディレクターズカット(最終版)が、公開25周年の2007年には再び監督の総指揮によって編集され、高画質の特撮シーンが使用されたファイナル・カットがリリースされている。これらのことだけでも、どれだけ長年に渡り、同作が支持されているかがわかるだろう。

新たなバージョンが公開されるたびに話題を呼ぶものの、作品の基本的な部分に大きな変化はない。映画評まとめサイトRotten Tomatoesは、映画評論家たちによる同作への107の批評(すべてが2000年代に入ってからのもの)を紹介しているが、その実に90%がポジティヴに評価(2017年10月15日現在)している。さらに同サイトによれば、33万4000人以上の一般観客のうち、ポジティヴな評価は91%をマーク。この非常に高い数字こそ、同作のファンの多さを証明している。

オリジナルから30年後の世界を描く『ブレードランナー 2049』
10月27日(金)丸の内ピカデリーほか全国ロードショー

オリジナルから30年後の世界を描く続編『ブレードランナー 2049』は、スコットが製作総指揮を務め、『メッセージ』(2016年)のドゥニ・ヴィルヌーヴがメガホンを取った。デッカードを再びフォードが演じ、ライアン・ゴズリングが共演しているこの作品は、日本などアジア市場以外では今月はじめに公開されており、Rotten Tomatoesでは映画評論家による282の批評の89%が、また3万9千人以上の一般観客の82%がポジティヴに評価している。世界中の『ブレードランナー』ファン待望の続編は、日本では10月27日(金)に公開される。

【特集記事】映画『ブレードランナー』が“わかった気になる”解説

来年はついに『ブレードランナー』の舞台となった2019年。2017年には続編が公開されたが、難解なストーリーからハードルが高い印象を持たれることも少なくない。今回は、“わかった気になる”をテーマに、『ブレードランナー』とは何なのか、何が観るものを魅了したのかを解説!