国政や世論を意のままに操る“根回しの達人”こと、「ロビイスト」たちの攻防をスリリングに描いた『女神の見えざる手』(10月20日より公開中)。真っ赤な口紅と15センチヒールで完全武装し、戦略を押し通すためなら平気で仲間も欺く、「敏腕ロビイスト」の知られざる実態をご紹介します!

アメリカ大統領選やオリンピック招致を操る陰の支配者「ロビイスト」

政党や議員に積極的に働きかけ、特定の団体にとって有利な政策を実現させる「ロビイスト」という職業があるのをご存知でしょうか。日本ではあまり馴染みがありませんが、アメリカでは政界を牛耳る陰の支配者として知られ、トップクラスになると年収は億単位にのぼるそう。マスメディアに対しても戦略に有利な情報を流すことで世論も操るほどの影響力を持つことから、大統領選挙やオリンピック招致の立役者とも言われています。

本作は、そんなロビイストの中でも「やり手」として業界内にその名を轟かせる、エリザベス・スローンを主人公に、ロビイストの実態を描きます。大手ロビー会社に所属する彼女のもとに、ある日「女性の銃保持を推進し、銃規制法案を廃案に持ち込んでほしい」との依頼が舞いこみます。しかし、自らの信念と反するためその案件を断ったエリザベスは、賛同する仲間を引き連れ、別の小さなロビー会社に移籍します。銃規制法案に賛成する立場として、古巣が率いる陣営と真っ向から対決することになるのです。

勝利のためには手段を選ばず!えげつない足の引っ張り合いが目白押し

自ら打ち出した戦略を成功させるためなら、仲間すら「道具」扱いするエリザベスは、部下のエズメが銃乱射事件の起きた高校の出身者であると知るや、TVの討論番組でその事実を公表。悲劇のヒロインとしてエズメを表舞台に立たせて同情票を集め、相手陣営を出し抜きます。そんな中、予期せぬ事件が発生し、銃規制法案を巡る争いは大きな局面を迎えることに。ついにはエリザベスの過去の不正疑惑が取り沙汰され、聴聞会で真偽を問われる事態にまで追い込まれてしまうのです。

たたみかけるようなセリフの応酬もさることながら、相手の裏をかく奇策が次々と繰り出される攻防シーンは、手に汗を握る程スリリング。すべてがネタバレにつながるため詳細を明かすことは出来ないのですが、アメリカ社会の実態を見せつけられるリアルなエピソードの数々に、フィクションであることを忘れてすっかり引き込まれてしまいます。

仕事のために人生を捧げ、三大欲求もすべて自分でコントロール

仕事に人生のすべてを捧げるエリザベスにとって、真っ赤な口紅やハイヒールはまるで戦国時代の甲冑のよう。とにかく合理的であることを優先する彼女は、夕食はいつも中華のファストフードで済ませ、「寝る間を惜しんで」仕事をするため、超強力な眠気止めの薬を常用。プライベートを恋人や家族と過ごすこともなく、高級エスコートサービスを利用して性的な欲求もお金で解決する徹底ぶり。

どんな時でも臨戦態勢を崩さず、誰のことも信用できないエリザベスが抱える重圧たるや、凡人には計り知れません。ただ、どれほど孤独な実態をさらそうとも彼女が惨めに見えないのは、凛としたたたずまいを持つジェシカ・チャステインが演じているからこそ。もしもエリザベスほどの美貌と知性を持って生まれてしまったら、「そこそこの人生なんて何の意味も持たない」と感じてしまうかもしれないと思わせるほどの説得力を持った演技です。

きっと誰かから与えられるだけの人生には飽き足らず、自ら運命を切り拓いていくことを使命にせざるを得ないのかもしれない、と妙に納得させられます。

「勝つこと」に憑りつかれた人間にとっては、国家や世界情勢すら動かせる「ロビイスト」という仕事は、抗いがたい魔力を秘めた究極の職業といえるのかもしれません。「三度の飯より仕事が好き!」という人はもちろん、「そこまで頑張れないからマイペースで人生を謳歌したい」という人にとっても、まったく別の世界を垣間見せてくれる、刺激に満ちた1本です。

(文/渡部喜巴@アドバンスワークス)