文=高村尚/Avanti Press

ドラマやCM、映画に引っ張りだこの芦田愛菜、鈴木梨央、寺田心、伊東蒼らが所属する子役タレント事務所ジョビィキッズ。こちらには現在、約1000名が所属しているのだそう。インタビューをオファーしたきっかけは、彼らが出演した映画やドラマのスタッフや共演者から、演技力だけでなく人間的魅力についても絶賛する声を聞いたから。この若さで人間的魅力って!? と驚き、どのように育てればそんな子になるのか? ぜひともうかがいたいと思った次第。

先陣を切ってその道を行くのは、仕事と学業を両立させ有名中学に合格し、出演した『映画 山田孝之3D』(2017年)では監督や山田孝之から“謝辞”を贈られた同事務所の先輩格・芦田愛菜。彼女は、役に対する徹底的な掘り下げと、大人顔負けの気配りで観客だけでなくスタッフをも魅了する一流の俳優だ。偶然にも同社は「わが子のやる気の育て方」という子育てメソッド本を上梓されたばかり。代表取締役の尾津喜美さん、専務取締役の尾津喜世さん、スクールゼネラルプロデューサーの大崎雅代さんに子役の育て方について聞く。 

芸能活動に見出した子どもたちの個性を伸ばす方法

――まずはジョビィキッズを立ち上げられたきっかけからうかがえますか?

ジョビィキッズ(以下JK) 創立は約20年前ですが、それ以前には幼児教室をやっていました。幼児教室は受験対策ではなく、子どもの個性を伸ばすことに重点を置き、その個性に合ったところを選べばいいのではないかという方針でした。個人レッスンだったので、子どもやお母さまともよくお話をさせていただきました。でも受験は年に一回。常に絶好調、最高潮な形で受験当日を迎えられるわけではない。そんな姿を見ているうちに子どもたちが持つ可能性を伸ばしていくにはどうしたらいいか。そう思うに至り、芸能活動というんでしょうか、それをやってみようと思ったのがきっかけです。

――著書「わが子のやる気の育て方」には、「わが子をよく見て、いい出会いを作ってあげれば個性は自然に磨かれていきます」と書かれていました。子役の育成法がベースかと思いますが、普遍的な子育てに通じる要素も多いと思いました。

JK 嬉しいです。ジョビィキッズには教育理念などというものはありません。ただ子どもの頃、やんちゃだった自分に照らし合わせて考えた時、私がこの子ならとか、この子たちは今なにを考えているんだろうとか、そのつど考えた結果がこうなっているわけです。大人とか子どもとか、教えるとか教わるとか、そういう感覚ではないですね。

親とのしっかりしたコミュニケーションで子どもは伸びる

――取材を申し込むきっかけは伊東蒼さんでした。『湯を沸かすほどの熱い愛』で高崎映画祭最優秀新人女優賞を受賞。演技での評価に加え、撮影現場でのコミュニケーション能力や台本修正の際の対応能力の高さに、大人の俳優さんも皆が驚いていました。

伊東蒼(右から2人目)『湯を沸かすほどの熱い愛 通常版 [DVD]』発売中 3,800 円(税抜)
(c)2016「湯を沸かすほどの熱い愛」製作委員会 発売元:クロックワークス 販売元:TCエンタテインメント

JK そんな(伊東)蒼も迷っていた時期があります。何度もオーディションに落ちれば、誰でも落ち込むし、一生懸命であればあるほど悩み苦しむわけです。乗り越えなければならない壁は、常にある。彼女はとてもはっきりしていますが、何でも口に出す子ではありません。だからこそ「オーディションを休みたい」と言われた時は休ませなければならないと思いました。彼女が自身を立て直すまでにはとても時間がかかりました。お母様も「こんなに悩んだり、考えたりする子だとは思わなかった。それほど頑張っていたのだと思う」とおっしゃっていましたね。お子さんは一人一人違います。わがままも、気まぐれもあると思いますが、この発言はどれなのか、日頃からお母さんがしっかりコミュニケーションされることで判断できると思うんです。そうすることで子どもってすごく伸びるんですよね。

――大人でも挫折から立ち直るのは大変なこと。すごいなと思います。

JK 子どもの場合は、サポートとコミュニケーションが大事ですね。中学生くらいになるとお芝居のほかにもやりたいことがいろいろ出てきます。そんな時には、「今一番やりたいことは何か?」と話し合って。そういうことを常に話し合って、優先順位を確認する。よく言うんですけど、その時は子どももお母さんも「言わなきゃいけないことをグッと収めて欲しくない」と。何かを感じたらしっかりと話をしていくことが大切なんです。

――伊東蒼さんが現在のように頭角を現してきたのはいつ頃ですか?

JK 芦田愛菜主演の『円卓 こっこ、ひと夏のイマジン』(2014年)の時、レッスン場で愛菜の代役をやった頃からですかね。愛菜は小学3年生、蒼は小学2年生。本当に集中して説明を聞き、役にのめり込んでいきました。それまでは照れや、自信の持てない部分もあったようでしたが、『円卓』で“キラッ”となりましたね。ずっと芦田と一緒にいたので「私もこうなりたい。もっと芝居がうまくなりたい」と思ったのかもしれません。でも芝居はダンスなどと違って、長くやっていればうまくなるわけではありません。恐いのは勘が鈍ってしまうこと。常に自分に課題を与えて、気持ちを作り、入れ込んで演じてみる。私たちも感覚を取り戻すエチュード(*)を常に行うことでサポートしています。

*エチュード:状況設定から役者自身が台詞や動きを考えて行う即興芝居

「まだまだ! 俺なんて100回以上落ちてるよ」

――頑張っているけど、芸能活動には向かないと思うお子さんもいらっしゃいますか?

JK 向かない子はいないと思います。ただ親が待てるかどうかですね。親が成長を待てない子どもは残念ですが向いてなかったということになります。大人はすぐに答えを出したがります。でも子どもの伸び方には個人差がありますので好きでいることを持続させられるかどうかということなんだと思います。最もダメなのは、子どもを見ていて、お母さんが苦しくなってしまうこと。可哀想、苦しそうだと感じるかもしれませんが、本人たちはダメだったものはダメと、割とシンプルなんです。ある子が3年生くらいの時にオーディションに落ちて、「もう向いてないんじゃないか」と泣き出したことがありました。周りにいた友達が「何回ぐらい落ちたの?」と聞くと、「50回くらい」と彼が答えたんです。そうしたら「まだまだ! 俺なんて100回以上落ちてるよ」とあっけらかんと励ますんですよ。そのあと彼は大役に決まったんですが、子ども同士ってすごいなと思いました。

――学校教育に演劇の時間をぜひ取り入れていただきたいとさえ思います。

JK レッスンの中で、いじめる役、いじめられる役のエチュードをやることがあります。時には「いじめられたことある?」なんて大人が聞きづらいことを質問しあったりすることもあります。いじめを思い出すのはつらいんですが、冷静に体験することで吐き出せたり、人はどんなことで傷つくのか知ることもできます。子どもたちに本音でしゃべらせることが大切なんです。

鈴木梨央、寺田心の成長に合わせた役作り

――レッスンは大きな役が付くようになっても続けるんですか?

JK はい。感性は常に磨き続けなければならないものだと思います。それに子どもたちは人生経験が豊富なわけではありませんから、役が難しいほど疑似体験でもいいから体や頭に叩き込んでおかないとその気持ちになるとこまで持っていけないんですね。

鈴木梨央は泣く演技が得意だと自分で思っていたんですが、この頃少し涙の質が変わってきたようです。小さい時はお母さんがいなくなると思うだけで涙が出たのに、最近はそれだけでは泣けないとすごく悩んでいましたね。成長につれて、泣きたくなる感情が変わってくる。それをエチュードで取り戻していくわけです。さらに大きくなると泣くだけでなく、カメラワークも考えるようになります。今、瞬きしたら見ている人の気を反らしてしまうから、目を開けたまま涙を出したいとか。集中して感情を作った上で見せ方も考える。だんだん難しい技術が必要になるし、気持ちの作り方も複雑。幼い頃の涙とは違ってくるわけです。

――「おんな城主 直虎」で寺田心くんが泣くシーンも素晴らしかったですね。虎松は、一国の城主になる道が閉ざされたことで泣くわけですが、心くんはいま何を思って泣いているんだろう? そう思いながらもグッときました。あれはどう役作りされたのでしょう?

JK 「お母さんを守れるのか」「弱いとお母さんを守れないんじゃないか」と、感情にのめり込める様に彼が理解しやすいところから気持ちをとことん追及していきます。その際の親御さんの協力はすごいなと思います。「直虎」で寺田心は、おばあちゃんとお母さんと一緒に虎松が育った場所に行って、長い石段を虎松がどんな気持ちで上がっていったか、実際に歩いて考えたそうなんです。

芦田家の黒板:その日の不安はその日に解消

――自分だけで抱えきれないことをレッスンの先生や事務所の皆さんに聞いてもらい、もう一度自分自身で考えて、表現してみる。聞いてくれる存在って大きいなと思いました。

JK うちは3カ月に一度、お母さんのための特別講座をやっているんです。子どもにとって一番大きいのが親御さんの存在です。だから子どもとの関係を一番しっかり築いて欲しいのもご両親。お母さんが少し不安定だったりすると子どもの集中力もおぼつきません。目の動きだって全然違います。

以前、愛菜の家に行ったら黒板があったんです。その黒板に毎日の習慣として、分からなかった字や問題を書くんだそうです。それをお母さんと一緒に分かるようになるまで練習する。お母さんは子どもが分からなかったものや学校で不安に思ったことを知ることが出来るし、愛菜も今日の不安を解消できる。そして理解したらその黒板を全部きれいにする。これを毎日、何年も地道にやってきたんだなと思うと、やっぱり親御さんてすごいなと思いますね。結果はすぐに出ないけれど、地道に地道にやることがとても大事だと教えてもらいました。

――特別講座に参加することで親御さんも変わりますか?

JK はい。子どもとはレッスンで会えますが、お母さんたちにはなかなか会う機会がありません。でも私たちと、お母さんが全然違うところを目指してしまうと、子どもは戸惑い、伸びづらくなるんです。だから3カ月に一度でも、お母さん自身の悩みでもいいので話すことは大事なんです。

――お母さんも子育てについて、あまり相談できる人はいないのではないでしょうか。

JK うちにはレッスン・カリキュラムがありません。その時々で子どもたちにとって重要なもの、必要だと思うことを行います。その日の子どもたちの様子を見て内容を変えていくわけです。そして先生方には必ず報告書を提出してもらい、子どもさんの状態をスタッフが共有しているので、お母さんから質問があった時も通り一遍な答えではなく常に具体的なお話をさせていただいています。

――オーディションを受けるかどうかはどのように決めるんですか?

JK マネージャーは全部把握していますが、その報告書を読んで、大丈夫そうな子を出来る限り多くピックアップして、お母様に打診します。お母様からNGがあった場合には出しません。子どもさんがやりたがらない場合も無理はしません。でもみんなテレビに出たいので頑張ってやっています。

「努力は必ず報われる。
もし報われない努力があるのならば、それはまだ努力と呼べない」

――芦田さんは仕事をセーブしながら受験を成功させました。芦田さんが合格後に出演された早稲田アカデミーの「夏をなめるな」のポスターは、本当に説得力がありましたね。

JK 子どもって面白いもので、「成績が悪くなったらジョビィキッズを辞めさせるよ」と言うと辞めたくないので勉強を頑張るそうなんです。好きなものを続けるって大事だなと思います。愛菜が受験を頑張ると言った時、私たちに出来ることは、集中できるようにそっとしてあげることだけでしたので、「受かった」と聞いた時は嬉しかったですね。やるからにはやっぱり一生懸命。子どもたちが別の道を選んだとしても、ここで学んだ“頑張る”力を発揮してくれたら嬉しいですね。彼女が合格した時、王貞治さんの言葉を座右の銘にしたと言っていましたよね。「努力は必ず報われる。もし報われない努力があるのならば、それはまだ努力と呼べない」。彼女は努力の人。才能は持って生まれたものだけではなく、ほとんどが努力の積み重ねだと思います。ジョビィキッズの20年を振り返ってみると、やぱり努力している子に勝るものはない。そう思います。

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「わが子のやる気の育て方」は、子どもだけでなく、大人にとっても大切なことが書かれている本。それに“子ども”という字を“自分”に置き換えてもしっくりくる内容でした。お話はさらに面白く、あとウン十年若かったら、ジョビィキッズのオーディションを受けていたんじゃないかと思います。オーディションは年に2回とのこと。お子さんがいらっしゃる方はぜひ! ちなみに9月30日(土)16時30分から、ららぽーと豊洲で鈴木梨央さん、寺田心くんが出演してのスペシャルライブが開催されるそう。こちらもとても楽しそうです。