取材・構成=平辻哲也/Avanti Press

アイドル映画の巨匠、金子修介監督の最新作『リンキング・ラブ』(10月28日公開)が面白い!! 女子大生・美唯がバブル末期の1991年にタイムスリップして、両親の離婚危機を阻止するために、AKB48ならぬASG16を結成するという奇想天外な青春SFコメディだ。AKB48チームKの田野優花、石橋杏奈が主演した。その91年に大学3年だった “映画は一人で見る派”のライター・平辻哲也が、金子監督、脚本の長谷川隆さんを迎えて、アイドルとは? を聞いた。そこで明らかになった“アイドル冬の時代”とは?

タイムスリップして“AKB”みたいなグループを作る!?

『リンキング・ラブ』2017年10月28日(土)より丸の内TOEI2ほか全国ロードショー!
(C)2017 AiiA Corporation

平辻哲也(以下、平辻) アイドル好きのお父さんを振り向かせるために、ヒロインがお母さんをアイドルグループの一員にするというすごい話。いい意味で力の抜けた“力作”で、楽しく拝見しました。原作の萩島宏さんはアパレルとメディア事業を行うAiiA Corporationの社長さんなんですね。

金子修介(以下、金子) 美唯(田野優花)がお父さんとけんかして、25年前にタイムスリップして、お母さん(石橋杏奈)とAKBみたいなグループを作る……。なぜ、タイムスリップするか、いずれ答えはあるだろうと思ったけども、原作にはそれが一切書かれていない。ただ、そのアイデアは面白かった。

金子修介監督

長谷川隆(以下、長谷川) 金子監督とは、脚本家としては『香港パラダイス』(1990年、出演・斉藤由貴、小林薫、伊原剛志)から四半世紀の付き合い。去年8月の終わりに話を頂きました。こういう話は好きだし、面白くなるな、と。9月いっぱいかけて、ハコ(脚本の構成案)を作りました。助監督をやった『どっちにするの。』(1989年)は赤川次郎さんの原作でしたが、原作は骨格しか残らなかった。そういう監督だったので、今度の原作もいろんなところが変わるだろうな、と思いました。

平辻 私、『どっちにするの。』はエキストラ出演しました。これもアイドル映画ですね。

金子 『どっちにするの。』は一見、アイドル映画のフォルムなんだけども、『ワーキング・ガール』(1988年)を参考にして作ったから、少し外れるんです。中山美穂、宮沢りえの2大アイドルに、真田広之、風間トオルが絡む。僕の映画ではないけども、次の『君は僕をスキになる』(1989年、出演・山田邦子、斉藤由貴、加藤雅也、大江千里)でも、2つのカップルを登場させている。

平辻 なんで91年という時代設定なんですか?

金子 原作が書かれた時点の25年前だから。

平辻 映画では、アッシー、メッシーとか、懐かしい風俗がいっぱい出てきますね。

長谷川 原作には、ボディコンとか、いかにもバブルなものは入っていたけども、それほど突っ込んでいなくて、ホンダビート(当時、人気だったオープンカーの軽自動車)とかバブル期を表現する具体を増やしていったのは監督です。

金子 その91年は“アイドル冬の時代”、自分は(バブル期の就活模様を描いた)『就職戦線異状なし』(1991年)を撮ったなぁと思い、撮るべき映画だと。

“アイドル冬の時代”となったわけ

左から脚本家・長谷川隆、監督・金子修介、ライター・平辻哲也

平辻 “アイドル冬の時代”って?

金子 87年に「おニャン子クラブ」が解散して、97年に「モーニング娘。」が発足するまでの10年を、「アイドル冬の時代」という人がいます。

平辻 91年という時代は、その“アイドル冬の時代”のど真ん中だった、というわけですね。

金子 99年に発刊した『失われた歌謡曲』では、歌謡曲の魅力は、芸術ではない、自発的なものじゃない、と書いた。歌謡曲は己の魂を抑えて、周りから歌わされるというところが、原点なんです。ピンク・レディーは、「なんでこんなに人気があるんですか?」という質問に対して、「周りの人が偉かったからじゃないですか?」と言った。歌わされるというところに身を置いて、そこで一生懸命やる。アイドル歌謡とは、歌わされる美学なんです。

平辻 そのバブル当時、若者はアイドルに注目しなかった、と。

金子 そりゃ、そうだよね。段取りで生きているアイドルたちよりも、自分たちの生活の方が充実しているんだから。アイドルへの需要がなかった。そういう構造だったというのが、ハコ作りの中でわかってきた。この“学説”は、あんまり言われてないと思うけども(笑)。そんな中、森高千里が単独でやっていたんだけど、言ってみれば、“表現の仕方としてアイドルをやります”、“アイドルみたいなことをロックのようにやります”という感じだった。

平辻 特に、グループは不毛の時代だった。

金子 (劇中に登場する架空のアイドルグループの)「ココリボーン」は原作にはなくて、映画で作りました。大きく付け加えたことのひとつです。

長谷川 元ネタはCoCo(1989~94年、羽田惠理香、三浦理恵子ら)とribon(1989~94年、永作博美ら)。監督いわく、冬の時代を象徴するアイドルグループ。いつの間にか、決まっていて、「ところで、ココリボーンはさあ」っていう会話が飛び交っていた(笑)。ribonはプロっぽかったけど、キャンディーズまでにはならなかった。

脚本家の長谷川隆

金子 「モーニング娘。」からはグループが巨大化するという流れになっていく。その萌芽は冬の時代にあったのではないかな。

平辻 田野さんはどういう経緯で決まったのですか?

金子 AKB側からの推薦で、何人かいる中で、動画を見て、「この子ならいける」と思った。AKBで6年やっているんだけど、15年に宮本亜門演出のミュージカル『ウィズ~オズの魔法使い~』の主役に抜擢され、お芝居に目覚めた。元々、お芝居には興味がなくて、ダンサーになりたかったそうなんだけども、芝居を覚えたこともあり、ほかの女優さんとは育ち方が違う。

アイドル論の研究の成果! これからもアイドルを追いかける

『リンキング・ラブ』2017年10月28日(土)より丸の内TOEI2ほか全国ロードショー!
(C)2017 AiiA Corporation

平辻 監督自身はAKBをどう見ていましたか?

金子 AKBの始まりの頃は、「少女時代」に目が行っていた。韓国で『ガメラ』が初上映される時に、映画館前の看板で見かけたのがきっかけ。9人の女の子を見て、なにこれ? と思って、韓国の人に聞いたんです。まだ日本に来る1年くらい前の頃で、彼女たちを知ってからは日本で「宣伝隊長」のように触れ回っていました。

平辻 なるほど。『少女は異世界で戦った』(2014年)は、スラリとしたヒロインが集団で活躍する話ですけども、これは「少女時代」からの流れですか?

金子 そうです。少女時代がアイドルの進化系だと思っていた。

平辻 長谷川さんはAKBをどう見ていましたか?

長谷川 町で流れているのを聴くくらいでした。なので、最初はPVをウェブで見ることから始めました。でも、曲を聴くと、テンションが上がるんで、脚本を書いていて、楽しくて仕方ない。で、原作にない曲も使っています。

平辻 AKBの楽曲が4曲使われていますが、ASGのメンバーが初めて「制服が邪魔をする」をお披露目するシーンはテンション上がりました。

ライターの平辻哲也

長谷川 自分でもびっくりしました。なんて、カッコイイんだ、と。シーンを書いてはいたけど、自分の中ではどんなものになるかは、分からなかったから。あのシーンは最初なかったんです。最後の最後にグループの完成形ができる、という話の流れでした。

金子 マイナー・コードのビート曲なんですが、これは盛り上がるというのは研究成果。ASGのメンバーには、(AKBメンバーが在籍する事務所の)AKS所属の元アイドルの子も入っているけど、ダンスシーンは目立っている。編集で、かわいいなと思うところを拾っていくと、そうなるんです。それは秒数の和とかじゃない。石橋杏奈もアイドルやった方がいいよ。プロデュースするよ。

平辻 この映画はアイドル論の研究の成果ですね。これからも、アイドル映画を撮っていきますか?

金子 こんな楽しいことはないからね(笑)。