文=紀平照幸/Avanti Press

ある映画の一場面となる上記の写真。日の丸が掲揚された建物の前で二人の剣士が対峙しています。映像を見ると剣道の試合のようですが、面や胴に防具を付けていないその太刀筋や体さばきは緊張感にあふれた素早いもので、ナレーションで語られるように黒澤明の映画を彷彿とさせます。『日本の剣士』と題したこの映像は、なんと今から120年も前の1897年に撮影されたフランス映画なのです。なぜ、こんなものが残っているのか? それは映画の歴史と大きな関係があるのです。まずは、その起源に迫ってみたいと思います。

映画を発明したのは誰?

映画を発明したのは誰か? に関しては諸説あり、トーマス・エジソンと言われたこともありましたが、彼が発明した「キネトスコープ」は覗き穴式で一人の観客しか見ることができないもの。現在では、映写式にして観客を集め、興行として成立させた「シネマトグラフ」こそが最初の映画として認識されています。それを生み出したのがルイとオーギュストのリュミエール兄弟なのです。

リュミエール兄弟
『リュミエール!』10 月28 日(土)より東京都写真美術館ホール他全国順次公開
(c)2017 - Sorties d’usine productions - Institut Lumière, Lyon

世界初の映画はこれ!

時に1895年。最初の作品は『リュミエール工場の出口』という、単に工場から従業員たちが出てくる姿を延々と映し出しただけの50秒の(当時はフィルムの長さゆえ、これが限界でした)映像でしたが、なにせ“動く写真”を人々が見るのはこれが初めてのこと。

世界最初の映画『リュミエール工場の出口』
『リュミエール!』10 月28 日(土)より東京都写真美術館ホール他全国順次公開
(c)2017 - Sorties d’usine productions - Institut Lumière, Lyon

『ラ・シオタ駅の列車の到着』では、駅に向かって列車がやって来る姿に、観客が驚いて大騒ぎになった事件もあったといいます。

『ラ・シオタ駅の列車の到着』
『リュミエール!』10 月28 日(土))より東京都写真美術館ホール他全国順次公開
(c)2017 - Sorties d’usine productions - Institut Lumière, Lyon

やがて映画は世界へ!

当初は『赤ん坊の食事』『子供のダンス』といった素朴な日常描写が中心だった映画は、やがて世界に飛び出していきます。

『赤ん坊の食事』
『リュミエール!』10 月28 日(土)より東京都写真美術館ホール他全国順次公開
(c)2017 - Sorties d’usine productions - Institut Lumière, Lyon

リュミエール兄弟は何人ものカメラマンを世界中に派遣、各地の風物を撮影させました。ベネチアの街をゴンドラにカメラを乗せて移動撮影する映像、アルプスのモンブラン、エジプトのピラミッドやスフィンクス、ロシアやアメリカ、ベトナムなどアジア各地の様子は、簡単に海外旅行などできない当時の人々にとってはエキゾチックな映像であり、今では19世紀末の様子を収めた歴史的・民俗的に貴重な資料となっています。冒頭で語った『日本の剣士』もその一環として日本の京都で撮影されたものなのです。

『ピラミッドとスフィンクス』
『リュミエール!』10 月28 日(土)より東京都写真美術館ホール他全国順次公開
(c)2017 - Sorties d’usine productions - Institut Lumière, Lyon

リュミエール兄弟が1895年から1905年までの10年間に残したシネマトグラフの総数は1422本。その中から厳選された108本が4Kデジタルで修復され、一本の映画としてまとめられたものが、10月28日から公開される『リュミエール!』です。カンヌ映画祭総代表であり、リュミエール研究所のディレクターでもあるティエリー・フレモー氏が監督・編集を手がけ、自らナレーターもつとめています(日本語版ナレーションは、映画を落語に翻案して語る「シネマ落語」でおなじみの立川志らく師匠が担当)。

コメディとリメイク映画の元祖は?

さて、この映画には、単なる“映画史のお勉強”にとどまらない興味深いポイントがいっぱい。たとえば、『水を撒かれた水撒き人』という映像は、水を撒いている人のホースを踏んづけるイタズラをした少年を描くもので、“映画史上初のコメディ”と言えます。あまりの人気にフィルムが劣化したため、別の役者で撮り直しをした“リメイクの元祖”でもあるのです。単に珍しいものを撮っただけでなく、“やらせ”“トリック撮影”“再現ドラマ”も彼らが元祖。そうそう、最初の映画である『リュミエール工場の出口』にしても彼らの工場PRのために撮られたものなのでした。

コメディとリメイクの元祖『水を撒かれた水撒き人』
『リュミエール!』10 月28 日(土)より東京都写真美術館ホール他全国順次公開
(c)2017 - Sorties d’usine productions - Institut Lumière, Lyon

船の進水式の様子や、船を漕ぐ船員たちを追った映像の迫力は現代の映画にも通ずるものがあり、その先鋭性には驚くばかり。進水式の映像などは、そのままジェームズ・キャメロン監督の『タイタニック』(1997年)に使われていても驚かないほどのクオリティです。

何よりもリュミエール兄弟が優れていたのは、その構図の普遍性です。彼らが残した映像には、画面構成や被写体の捉え方の角度に至るまで、現在、映画理論上正しいと言われている構図がすべて含まれていました。映画は誕生した時からすでに完成していたともいえるでしょう。19世紀末に想いを馳せながら、そんな奇跡の映像が楽しめる90分なのです。