燃え上がるような独創的な筆致で、死から120年以上が経った今もなお人々を魅了し続ける巨匠、フィンセント・ファン・ゴッホ。その作品は世界中で展示され、彼の生涯が映画化されるなどの著名な画家である一方、耳たぶ切断事件をはじめとする驚愕のエピソードも多く、「狂人」「好色家」「怠け者」といったレッテルを貼られているのも事実です。

複雑怪奇に思えるゴッホとは、どのような人物だったのでしょうか。わずか37歳で幕を閉じた人生を探り、その実像に迫ります。

進路も恋愛も…挫折が多すぎる壮絶な人生

ゴッホの人生を振り返ってみると、とにかく苦難が多いことが印象的です。
幼い頃から問題児で、中学を退学し就職するも、周囲との折り合いがつかず解雇されてしまいます。その後は伝道師(牧師とは異なる立場から宣教活動を行う教職者)を目指すものの、思うように成果が出せないと自分の背中を杖で打つなどの自罰的な行為を繰り返したことから、その道を諦めざるを得なくなりました。

数々の挫折を乗り越えて画家になった後も自活には至らず、生涯弟の仕送りで生活することとなるゴッホ。アルコール依存症に陥ったり家を追い出されたりと、波乱の日々が続きます。そして、画家仲間のゴーギャンと共同生活を開始。しかしその後、自画像でも有名な「耳たぶ事件」を起こします。彼は、切り落とした耳たぶを娼婦に渡したことで“狂人”としてその名を知られることとなってしまうのです。

また、ゴッホは“恋多き男”でもありましたが、恋愛においても挫折続きでした。20歳の時に好意を抱いた女性は別の男性と婚約し恋破れたと言われており、28歳の時は未亡人に恋をするも「絶対にだめ」と頑なに拒否されてしまいます。その後、やっと別の女性と恋仲になりますが、両家の親から反対され、彼女が自殺未遂を起こして破断。生涯独身を貫くこととなりました。

精神を患っていたゴッホは、家族や仲間と関係を築くことができず、挫折続きの人生を歩みました。しかし彼自身は画家との共同生活に憧れを抱き、結婚もしたがっていたと言われています。心の中では温かな人間関係を切望し、悲しみ、もがき続けていたのかもしれません。

実は親日家!?独特な筆致の秘密

画家になったのが27歳の時だったため、ゴッホの画家人生はわずか10年程度でした。残した作品は、1,000点以上確認されています。

順を追って見ていくと、初期の作品「ジャガイモを食べる人々」のような暗い色調から、次第に明るい色調に変化していく様子が見て取れます。またゴッホは、浮世絵を収集し、それらから色と線を単純化させる手法などを学びました。背景いっぱいに浮世絵が描かれた「タンギー爺さん」という作品からは、ゴッホがジャポニズムに心酔していたことがうかがえます。その後も補色や色彩が与えるイメージの研究を重ね、画家としての個性を強めていきました。

晩年は、自画像などに見られる「うねり」が多用されるようになります。これはゴッホ自身の不安定な精神の様子と言われており、波乱が続いた彼の人生を表す代名詞的な技法として知られるようになりました。

ゴッホの絵画は、生前1枚しか売れなかったと言われています。売れずとも情熱を絶やすことのなかったゴッホは、まぎれもなく「天才」であり「狂人」だったのでしょう。

孤独なゴッホを支え続けた弟・テオ

周囲の理解を得られず孤独を募らせていたゴッホ。そんな彼を支え続けたのが、4歳下の弟・テオでした。テオはゴッホが仕事を辞めて画家になってから亡くなるまで支援を続け、彼の最大の理解者となります。テオはゴッホに色彩のアドバイスをしたり、妹がゴッホへの支援を打ち切るように忠告した際は「いつか売れる日が来よう」と庇ったりと、常に寄り添い続けました。

また、ゴッホが残した800通以上の手紙は、彼を調べる上でもっとも有力な史料となっていますが、そのほとんどを保管していたのもテオでした。今日のゴッホの知名度は、テオなしでは語れないと言っても過言ではありません。

2人の絆は深く、ゴッホが逝去すると、テオはその死を深く嘆き衰弱し始め、半年後に後を追うようにして34歳で亡くなってしまいます。テオにとってもゴッホは、兄弟の域を超えた片割れのような存在だったのかもしれません。

これまで何度も映画化されてきたゴッホ

ゴッホにしか歩むことのできなかった数奇な人生と、彼を取り巻く人間模様、そしてそれを絵画に落とし込んだ圧倒的な画才……。ゴッホの唯一無二の魅力は人々を惹きつけ、彼をモチーフにした映画が多数制作されています。

ゴッホの伝記映画の中でもっとも有名な『炎の人ゴッホ』(1955年)は、周囲の無理解にも関わらず、情熱を持って自身の芸術を追求する「天才」「狂人」としてのゴッホを描き、今日の彼のイメージをつくり上げた作品と言われています。

また、ゴッホとテオ兄弟にスポットを当てた作品が『ゴッホ』(1990年)です。ロバート・アルトマンが監督を務めた本作では、なかなか時代に認められず追い詰められていくゴッホと、兄の才能を認め励まし続けるテオとの絆や、2人の内面の揺らぎが丁寧に描かれています。

日本では、かつて画家を志していた黒澤明が監督を務めた『夢』(1990年)で、ゴッホの絵画世界に入り込んでしまうという夢物語が描かれています。ゴッホとの対話を通して、芸術とは何かという根源的なテーマに切り込むつくりになっており、自身も波乱の人生を送った黒澤とゴッホが重なって見えてくる一作です。

動く油絵で死の謎に迫る『ゴッホ〜最期の手紙〜』

(C) Loving Vincent Sp. z o.o/ Loving Vincent ltd.

わずか37歳で生涯を閉じたゴッホ。死因は拳銃自殺とされていますが、目撃者がいないなどの不可解な点も指摘されています。彼の死の謎は、数あるゴッホの伝説のひとつとなっているのです。

そしてこの秋、新たなアプローチでゴッホの死に迫る映画が登場しました。『ゴッホ〜最期の手紙〜』(2017年)です。本作はまず、ゴッホの絵画をモチーフに、俳優たちが演じる実写映画として撮影されました。その後、世界各国の画家たちの手によって62,500枚の油絵へと生まれ変わり、全編が世界初の“動く油絵”によって構成される圧巻の体験型アート・サスペンスとなりました。

(C) Loving Vincent Sp. z o.o/ Loving Vincent ltd.

ゴッホがテオに宛てた一通の手紙をきっかけに、主人公がその死の謎に入り込んでいく本作。彼の魂を宿した絵画たちが100年の時を超えて動き出す様子は、ゴッホ好きならずとも心を揺さぶられることでしょう。

(C) Loving Vincent Sp. z o.o/ Loving Vincent ltd.

『ゴッホ〜最期の手紙〜』(2017年)は、11月3日(金)よりTOHOシネマズ六本木ヒルズほか全国順次ロードショーです。

(鈴木春菜@YOSCA)