パイロットあるいはパイロットを名乗っていた人物の実話をもとにした映画には、稀代の犯罪をやってのけたり、無理難題をクリアしたりと、いずれも格の違う豪快な人物が多く見受けられます。彼らを詳しく探ると、いずれも致命的な欠陥を抱えているものの“周囲から好かれていた”という共通点が見えてきました。

問題だらけなのに、なぜ彼らは人々を惹きつけてやまないのでしょうか。そこで、映画になったパイロット男から“愛すべきダメ人間”の魅力について探ります。

大胆不敵な天才詐欺師はまだ10代!? 『キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン』(2003年)

わずか16歳で詐欺を働きはじめ、400万ドルもの小切手偽造をおこなったフランク・W・アバグネイル・Jr。彼の自伝小説をもとに作られた映画が『キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン』(2003年)です。裕福で幸せな家庭が崩壊したことを機に家出をしたフランクは、パイロットや医者という立場が社会的な信用を得やすいことに気づき、パンナム航空のパイロットや大病院の小児科医になりすまし、次々と詐欺を重ねていきます。豪快な手口ではあるものの下調べや準備は周到で、その緻密さから被害額はどんどん膨らんでいきました。

映画の中で、そんな彼を追ったのはFBI捜査員のカール・ハンラティ。逃げるフランクと追い続けるカールの姿はルパン三世と銭形刑事のようですが、カールという人物は実在せず、フランクを更生へと導いてくれた人々を組み合わせて、創作されたものです。次々と女性を口説き落とす話術と、19歳にして司法試験に合格するほどの頭脳を持つフランク。そんな彼にただ真面目に挑み続けるカールの姿勢が、フランクを出頭させ、最終的にフランクは偽造犯逮捕の手伝いまでするようになります。

“ダメ人間”というより、むしろ非常に優秀なフランクですが、素直になれず茶化すことでしかカールと接することができないところが、まだ幼さを残す10代の若者らしさを感じさせます。実際にフランクを支えた周囲の大人たちも、彼のことを我が子のように思っていたのかもしれません。

日本人なのに米軍パイロットを名乗る愚かな詐欺師『クヒオ大佐』(2009年)

日本にもパイロットと偽り詐欺を働いた有名な犯罪者が実在しました。彼の名は「クヒオ大佐」。純粋な日本人でありながら自らをアメリカ空軍パイロットと名乗り、複数の交際女性に結婚詐欺をした人物です。映画の中でクヒオ大佐に騙されるのは、男慣れしていない弁当屋の女主人や、自然科学館に勤める女性など、真面目で地味なタイプばかり。一方で、クヒオ大佐は銀座のホステスに近づくものの、あっさりと偽物であることを見破られ、逆に騙されそうになってしまうという愚かで気の小さい側面を持っています。

軍服のレプリカを纏い、カタコトの日本語を話す「ニセパイロット」に騙される人がいるのかと疑いたくなりますが、被害総額は1億円にも上ると言われているから驚きです。時代は1970〜1990年代、海外旅行や外国人との交流が今ほど盛んではなかったことから、女性たちはアメリカ人&パイロットという眩い肩書きと、夢を見せるような語り方にあっさりと落ちてしまったのかもしれません。

また、劇中ではパイロットとしての妄想と現実が入り乱れるシーンが描かれ、クヒオ大佐本人もその境が曖昧になっている姿が印象的。他の誰でもなく、彼自身が大きなコンプレックスに囚われているという背景が滲み、うら寂しさを感じさせます。映画の原作本を執筆した吉田和正氏も「クヒオ大佐には不思議な魅力がある。彼の詐欺は悪質さより滑稽さが先に立つ。彼にしてみれば、一緒に“クヒオ大佐ごっこ”を楽しんだだけ」と語り、刑期を終えても同じ手口の詐欺を繰り返すクヒオ大佐に愛着が湧いている様子。意図せず“ダメな子ほどかわいい”心理をくすぐる人物だと言えるでしょう。

乗客を救ったヒーロー機長は、前科者!? 『フライト236』(2010年)

『フライト236』(2010年)は、燃料切れを起こした「エアトランザット236便」の緊急着陸を成功させたパイロット・ロベールが主人公。しかしヒーローであるはずの人物が、刑務所に服役していた過去を知られたことで、一転マスコミのバッシング対象になってしまいます。映画では、連日の悪夢から逃げるため酒を煽るうちに依存症に陥ったロベールが施設に入ることを決意し、リハビリを通して破天荒な半生を振り返る姿が描かれます。

若い頃はクラブに入り浸り、家庭を顧みない体たらくだったロベール。当時勤めていた航空会社を辞職した後は、小型機で麻薬を密輸し捕まるという、絵に描いたような“ダメ人間”でした。「神経が鈍るため、パイロットは抗うつ剤を使えない」。その理由からロベールはアルコールに頼るようになったと語り、自分が弱い人間であることを告白します。けれど、熱心なセラピーの末に彼の脳裏に蘇ったのは、あの事故の日、緊迫した空気の中で機長として迅速かつ的確な判断を行った自分の姿と、無事に地上に降り立ち喜ぶ人々の笑顔。ロベールを貶めていたのは彼自身だったことに気づき、呪いから解放された瞬間でした。

本当のロベールは、何度“ダメ人間”になっても立ち上がる不屈の精神と、パイロットとしての誇りだけは揺らぐことなく持ち続ける、強くたくましい人物。それゆえ今回の不時着も成功させることができたのです。彼の家族や周りの人々はそのことを知っていたからこそ、側を離れず再起を願い続けたのでしょう。

才能と愛嬌で破天荒な人生を歩む『バリー・シール/アメリカをはめた男』

(C) Universal Pictures

大手航空会社の天才パイロットとして活躍した後にCIAの極秘密輸パイロットに転身し、影で麻薬の密輸人も請け負って莫大な財産を築いたバリー・シール。まるで嘘のようなアメリカ史上最高にぶっ飛んだ実在する男の生涯が、この度『バリー・シール/アメリカをはめた男』として公開されることになりました。

(C) Universal Pictures

密輸が取締局にばれるも、警告に耳を貸さず武器の密輸にも手を出し、さらに儲けを膨らませていく“賢いダメ人間”バリー。彼の人生はトピックの派手さもさることながら、破天荒な出来事をあふれんばかりの才能と愛嬌で乗り切っていく、泥臭く人間的な姿も魅力となっています。本作でバリー役を務めるトム・クルーズも彼に強く惹かれたようで、「彼の人生は驚きに満ちていて、とにかく信じ難い」とコメント。髪が乱れるのも厭わず、これまで経験したどの役とも似ていないバリーを楽しんで演じていたようです。

(C) Universal Pictures

空を飛ぶという夢のような行為には、並ではない集中力や判断力、危険を乗り切る力が要されます。だからこそ犯罪や偉業を成し遂げる人物が生まれたり、その肩書きを利用しようと企む人物が現れたりするのかもしれません。

いずれにせよ、「空飛ぶ男」は規格外でたくましく、チャーミングな人物ばかり。10月21日(土)全国公開の『バリー・シール/アメリカをはめた男』(2017年)もぜひ劇場でご覧ください。

(鈴木春菜@YOSCA)