文=金田裕美子/Avanti Press

一度食べた味は絶対に忘れず、しかもそれを完全に再現できる「絶対味覚」。かなりうらやましい能力です。わたくしなんぞは、おいしいものに出会うと「おーいしー!」とひたすら食べることに夢中になり、あとから「しまった、あのおいしさの秘密を探って覚えてくればよかった」と思うことがしょっちゅうです。『ラストレシピ~麒麟の舌の記憶~』は、そんなうらやましい、絶対味覚=“麒麟の舌”を持った天才料理人をめぐる、時代を超えた壮大なミステリー。映画にはもちろん、天才料理人の作るそれはそれはおいしそうな料理がこれでもかと登場します。今回はその中でも印象的なふたつのメニュー、「ロールキャベツの雑煮風」と「ビーフカツサンド」を作ってみたいと思います。

行方知れずの“食彩全席”レシピ集を探せ!

お話は現代から始まります。麒麟の舌の持ち主・佐々木充(二宮和也)は、“人生の最後にもう一度食べたい料理”を再現してくれる、通称「最期の料理人」。瀕死の依頼人の望みをかなえては高額な報酬を得るという、料理界のブラックジャックのようなことをしています。そんなある日、充にとりわけ大きな仕事の依頼が。それも依頼人は中国料理界の重鎮・楊清明(笈田ヨシ)。70年前の満州国で、日本人料理人が考案した伝説のフルコース「大日本帝国食彩全席」を再現してほしい、そのためにはまず、行方がわからなくなっている食彩全席のレシピを探し出してほしい、というのです。

『ラストレシピ ~麒麟の舌の記憶~』11月3日全国東宝系にてロードショー
(C)2017 映画「ラストレシピ ~麒麟の舌の記憶~」製作委員会 (C)2014 田中経一/幻冬舎

最初はうさんくさい話にどうも気乗りのしない充でしたが、1930年代、食彩全席のメニューを作成するために満州のハルビンに渡ったという元・天皇の料理番、山形直太朗(西島秀俊)の足跡をたどるうち、次第にこの依頼にのめり込んでいきます。そして、中国と日本の各地を直太朗ゆかりの人々を訪ね歩いた末に、思ってもみなかった事実に行き当たることに……。映画では、失われたレシピの謎を追う充と、レシピ作りに励み、ある陰謀に巻き込まれた70年前の直太朗の姿が並行して描かれます。

『ラストレシピ ~麒麟の舌の記憶~』11月3日全国東宝系にてロードショー
(C)2017 映画「ラストレシピ ~麒麟の舌の記憶~」製作委員会 (C)2014 田中経一/幻冬舎

「大日本帝国食彩全席」のメニュー作成は、帝国陸軍による極秘指令。陸軍大佐・三宅(竹野内豊)は、「日本の威信をかけて、中国料理で最高の宴席とされる満漢全席を超えるフルコース料理を作ってほしい。どれだけ費用がかかっても構わない」と直太朗に太っ腹な指示を出します。まあ、この太っ腹にはとんでもない裏があったことが後々わかってくるのですが。「満漢全席」は清の時代に始まった超豪華な宮廷料理。フカヒレやつばめの巣、熊の手、猿の脳味噌(!)など、中国各地から美味・珍味を集め贅を尽くしたそのコースは、100を超える料理を何日もかけて楽しむものなんだとか。それを超えようというのですから、112品からなる「食彩全席」のメニューも当然、凝りに凝ったものになります。

直太朗はふたりの助手(西畑大吾、兼松若人)と妻・千鶴(宮崎あおい)とともに日々メニューの研究に没頭し、完成させたメニューの名前をひとつひとつ紙に書いて壁に貼っていきます。これがまたすごい。「日本料理と世界各国の料理を融合させ、日本人だけでなく世界中の人が喜ぶ料理を作ることが民族間の相互理解を深める」という信念を持つ直太朗が使う食材はといいますと……キャビア、フォアグラ、トリュフのフランスの3大珍味はもちろん、鯛や平目、アワビ、オマール海老、上海蟹、からすみ、スッポン、松茸、セップ茸、虎の肉、孔雀の舌……まだまだ続きます。直太朗が赴任したハルビンは、ヨーロッパとロシアにつながる鉄道が敷かれた一大交易拠点。ロシアの蔵相と会談するために訪れた伊藤博文が暗殺されたのもハルビン駅です。政治・経済の中心地であるとともに、世界中のさまざまな食材が集まる町でもあったのでしょう。

『ラストレシピ ~麒麟の舌の記憶~』11月3日全国東宝系にてロードショー
(C)2017 映画「ラストレシピ ~麒麟の舌の記憶~」製作委員会 (C)2014 田中経一/幻冬舎

挑戦したいけど食彩全席、立派すぎ!作れるのは…

大日本帝国食彩全席は、究極の宴にふさわしく盛りつけも美術作品と見まごうばかりのゴージャスさです。あまりにきれいに飾りつけられていて、どれが何やらどんな味やら、見た目からは想像しにくいのですが、その中で素直に「おいしそう!」そして「作れそう!」と思ったのが、「ロールキャベツの雑煮風」と「ビーフカツサンド」であります。

『ラストレシピ ~麒麟の舌の記憶~』11月3日全国東宝系にてロードショー
(C)2017 映画「ラストレシピ ~麒麟の舌の記憶~」製作委員会 (C)2014 田中経一/幻冬舎

ロールキャベツはなんとなくロシア料理というイメージがありますが、起源はブドウの葉でひき肉などを包むトルコ料理、ドルマなんだとか。それが東ヨーロッパなどの各国に広がるうちにキャベツが使われるようになったのだそうです。今では日本でも洋食や家庭料理として定着しているばかりか、おでん種としてもすっかりおなじみになり、コンビニでさつま揚げやこんにゃくと仲良く並んでいる姿を見かけるようになりました。直太朗の「ロールキャベツの雑煮風」は、その名の通りロールキャベツとお雑煮を融合させた料理。コンソメと和風出汁、挽肉と餅の組み合わせは、日本人に対して頑なだったロシア人の心を解きほぐす役割を果たします。

『ラストレシピ ~麒麟の舌の記憶~』11月3日全国東宝系にてロードショー

ロールキャベツの雑煮風から挑戦!

ではまずロールキャベツの雑煮風から作ってみます。キャベツは葉の根本に包丁で切れ目を入れ、1枚ずつはがします。水道の水を葉の間に流しながらそっとはがずと、破れずにきれいにできます。もし破れてしまっても2枚重ねて使えば補修できるので、あんまり神経質にならなくても大丈夫。芯の厚い部分は包丁でそいで平らにし、そいだ部分はみじん切りに。はがした葉は、熱湯で柔らかくなるまで茹で、冷水にとって水けを拭き取ります。

次に具。玉ねぎのみじん切りはバターで透き通るまで炒めて冷ましておきます。ボウルにこの玉ねぎと合挽肉、みじん切りのキャベツ、卵、塩、こしょうを入れ、粘り気が出るまでよく混ぜます。これをハンバーグを作るような要領で手の上で平らにし、真ん中に細く切った餅をのせて挽肉で包み俵型に整え、広げたキャベツの葉の根本のほうにのせ、巻いていきます。

鍋に隙間なく並べれば煮ている間に動かないので形が崩れることもありませんが、凧糸やかんぴょうで巻いたり、葉の先端を爪楊枝や短く切ったスパゲティでとめておけばより安心。昆布と鰹節でとった出汁とコンソメを合わせたスープで1時間ほど煮込みます。煮込んでいる間に、もうひとつのメニュー、ビーフカツサンド作ります。

和洋融合!? ビーフカツサンド

ビーフカツサンドは、食彩全席のメニューのひとつであるビーフカツレツをパンで挟んでサンドイッチにしたもの。これは両方の時代の場面に繰り返し登場する料理です。満州のシーンでは、パンではなく肉まんの皮みたいな食感の中華の蒸しパン、パオで挟む中華バージョンも登場、子どもたちがおいしそうにほおばっていました。

ビーフカツの作り方は基本的にトンカツと一緒。牛肉は、赤身好きなので今回はヒレを用意しました。肉を叩いて形を整え、塩こしょうしてから小麦粉、卵液、パン粉の順に衣をつけ、油でカリっと揚げます。

レア、ミディアム、ウェルダン、揚げ具合はお好みで。トーストしたパンにバターを塗り、千切りキャベツとビーフカツを挟みます。ここでの和洋融合の秘密は、味つけにソースでなくしょうゆを使うこと。パンの耳を切り落とし、食べやすくカットすれば出来上がりです。

完成! かなりおいしそうです

先ほどのロールキャベツもよーく煮えて、おいしそうな匂いが漂っています。ではさっそく食べてみます。ロールキャベツの中のお餅はどうなっているんでしょう。ナイフで真ん中から切ってみると……。おわっ。お餅がやわらかくなりすぎて、挽肉部分からドロっと流れ出してしまいました。そりゃ、あれだけ煮込めばお餅も溶けるよねえ……お雑煮だってお餅を入れたらそんなに長時間煮込まないし。でも、ロールキャベツは煮込まないわけにはいきません。直太朗、どうしたらいいの? もしかしたら彼も、美しくお餅をサーブするために研究を重ねたかもしれません。気をとりなおし、流れ出たお餅をかき集めて一緒に食べてみると、ロールキャベツのお味はとってもグー。魚介系と牛肉系の出汁が混ざり合って、ちょっとラーメンのスープみたいな感じもします。「和+洋=中」ってこと??

ビーフカツサンドは、お醤油の香りがなんともいえないアクセントになっていて、おーいしー。カツといえば牛より豚が圧倒的にポピュラーな関東圏出身ゆえ、ヒレ肉を見るとつい「ステーキ!」と思ってしまいますが、カツにしてみるのもいいなあと認識した次第です。

出身地が違おうが国が違おうが、おいしいものはおいしい。ふたつのメニューを作ってみただけですが、直太朗の「世界各国の料理を融合させて、世界中の人が喜ぶ料理を作りたい」という思いが、なんとなくわかるような気がしました。麒麟の舌を持つ充には、直太朗のレシピを通じて彼の信念がもっと強く伝わったに違いありません。

《ロールキャベツの雑煮風》
キャベツ、合挽肉、卵、玉ねぎ、切り餅、出汁(昆布と鰹節)、コンソメ、塩、こしょう
《ビーフカツサンド》
牛肉(ヒレ、サーロインなど部位はお好みで)、小麦粉、卵、パン粉、塩、こしょう、食パン、キャベツ、バター、しょうゆ
《映画っぽい雰囲気を盛り上げる小道具》
調理台内蔵トランク、コックコート、レシピ集、カメラ