文=平辻哲也/Avanti Press

2016年の大ヒットアニメ映画『君の名は。』のモデルとなった岐阜・飛騨市は同年の観光客数が100万5881人と前年より3.6%増えたという。映画がヒットすれば、“ご当地”は賑わう。そんななか、映画と地方の関係に一石を投じる作品がある。新鋭・坂下雄一郎監督による吉沢悠主演の『エキストランド』(11月11日公開)だ。悪徳プロデューサーが疲弊した地方の弱みにつけ込み、無理難題を押し付けて低予算で映画を製作しようというブラックコメディだ。

製作(撮影)において一番大変だったのは、
僕自身が悪徳プロデューサーにならないこと

主人公は、過去に大失敗して、映画が撮れなくなったプロデューサー、駒田(吉沢)。起死回生のため、誰も手を挙げない企画の製作担当に立候補。作詞家が仕事の片手間にケータイで書いたという台本で、ひいきの新人を起用するという超ワケアリ案件だ。

その映画は、若者が全国を歩いて、家の材料を延々と集めて、自力で家を建てるという物語。同じような場面の繰り返しで、どうにも面白そうには思えない中身。ロケ地には海、山、川が必要だが、製作費はたった100万円。ロケ地探しで困っていたところ、ある地方の役場の職員(前野朋哉)が、撮影場所の誘致や撮影支援を通じて地域の活性を図るフィルムコミッション(FC)を立ち上げたがっている、という話を聞きつけ、利用しようと考える。

舞台となる「えのき市」は特産品や名所もない地方都市。「えのき市の名前が全国の映画館で流れるんですよ」との甘い言葉に釣られてしまう。プロデューサーは自分の都合の良いFCマニュアルなるものを作成。ロケ地の許可、エキストラ集め、後片付け……と何から何まで「FCの仕事だ」と押し付ける。最初は喜んで協力していた町の人々も疑問を感じ始めて……というストーリーだ。

坂下監督は2013年、大阪芸術大学での“助手”経験を基に大学の内幕を描いたコミカルな人間ドラマ『神奈川芸術大学映像学科研究室』がSKIPシティ国際Dシネマ映画祭長編部門で審査員特別賞を受賞した、期待の星。2016年に『東京ウィンドオーケストラ』で商業監督デビューした。『東京ウィンド〜』は有名オーケストラと間違われて、屋久島に招待されたアマチュア楽団と、その間違いのまま押し通そうとする島の女性職員が巻き起こすコメディ。商業映画第2弾となる本作は、前2作をかけ合わせたような内容だ。

製作にあたっては約2年半かけて、全国13のFCを取材。撮影は、信州上田フィルムコミッション(長野)の全面協力の下、延べ300名以上の市民がエキストラで参加した。「安直な地方創生の悲劇や問題点、それを食い物にしている人などなど、をたくさん目にしました。そんな要素をFCと映画というものに当てはめて作る物語はどうかと思い作り上げました」と、田中雄之プロデューサーは公式サイトで書いている。「製作(撮影)において一番大変だったのは、僕自身が悪徳プロデューサーにならないこと」。そりゃ、そうだ。

プロデューサーは口がうまい、中には事件化している映画も!

『エキストランド』
(c)Koto Production Inc.

劇中のトラブルは、“FCあるある”話だ。よく「犬好きに悪い人はいない」とか「映画好きに悪い人はいない」と言われるが、そんなことは一切ない。平気でウソをつく悪い人はいる! とりわけ、プロデューサーは口がうまい。中には事件化している映画もある。

製作費十数万円の学生映画から10億円の大作まで約20本のドラマ、映画に協力したFC関係者は語る。「一部ですが、イヤな思いも経験しました。協賛金と称して金を要求されたり、『高速道路でカーチェイスをしたいので、許可を取ってくれ』とか、『川辺の道がぬかるんでいるので、車や人が通れる強化プラスティックの板を明日、用意しろ』とか。メシがまずいと言われて、ボランティアの料理班が翌日から来なくなったり……。大抵は現場プロデューサーが問題なんです。でも、結果として、いい作品ができれば、それでいいんです」。泣けるじゃないですか。こんな純粋な地方の人を利用するんですよ。

興行界では、“ご当地映画”に当たりなし、とも言われ、特に東京の映画館は上映を敬遠する。ヒットには普遍性のあるオリジナルな物語と魅力ある土地の“二重奏”が必要だ。高峰秀子主演、木下惠介監督の『二十四の瞳』(1954年、香川・小豆島)、高倉健主演、山田洋次監督の『幸福の黄色いハンカチ』(1977年、北海道・夕張)など長年、その土地の宝となる作品は少ない。『エキストランド』には、信州の人たちの期待に応えるようなヒットを願いたい。