文=新田理恵/Avanti Press

日本のベストセラー作家・夢枕獏の原作をもとに、カンヌのパルムドール(最高賞)受賞監督チェン・カイコーがメガホンをとった日中共同製作映画『空海―KU-KAI―』。空海といえば遣唐使として中国で学んだことも知られる有名なお坊さん。本作の空海は、詩人・白楽天とともに謎解きに奔走するのですが、その凸凹コンビぶりが「萌える」と中国のSNS等で熱い視線が注がれています。

ホームズとワトソンを思わせる僧侶と詩人のミステリー

この映画、邦題やポスター・ビジュアルから「空海の伝記映画?」と思っている方も多いようです。もしも坊さんが決死の覚悟で大海原を渡り、中国で密教を修める過程のお話ならぶっちゃけ若い観客にはキツそうですが、安心してください。その中身は、壮大な唐の都・長安を舞台に繰り広げられる絢爛豪華なファンタジー。空海と詩人の白楽天(白居易としても知られる)がタッグを組み、権力者が次々ナゾの死を遂げていく事件の真相を探るエンタテインメント性に富んだ大作です。

『空海―KU-KAI―』2018年2月24日公開
(c)2017 New Classics Media,Kadokawa Corporation,Emperor Motion Pictures,Shengkai Film

今年の東京国際映画祭で、同映画祭用に編集された10分間の特別映像が上映されるなど、全貌が明らかになりつつある本作。天才・空海と快活な白楽天が、「静」と「動」の絶妙なコンビネーションを織りなします。

空海は決して奇人ではありませんが、ちょっとシャーロック・ホームズとジョン・ワトソンぽくもある組み合わせ。この映画のメイキング映像が中国で公開されるや、「2人、ちょっとカップル(中国のネット民はCPと書く)感あるよね。萌える……」という声が相次ぎました。確かに、落ち着き払った表情を崩さず流れるように歩く空海の周りを、子犬のように跳ね回る白楽天の対比はなかなかキュート。私立探偵と元軍人ならぬ、坊さんと詩人。東洋文化の香り漂う渋いバディの誕生です。

青田買いしたい塩顔系ハンサム・黄軒(ホアン・シュエン)

空海を演じるは染谷将太。坊主頭にするとぱっちりした目元が強調されて、法衣姿はさながら「一休さん」。中国の一部ネット民を萌えさせています。

『空海―KU-KAI―』2018年2月24日公開
(c)2017 New Classics Media,Kadokawa Corporation,Emperor Motion Pictures,Shengkai Film

白楽天役は中国の若手実力派俳優・黄軒(ホアン・シュエン)。日本の予告編やチラシでは「シュアン」と表記されていますが、ここでは敢えて正しい発音に近い「シュエン」と表記。中国では映画、ドラマにひっぱりだこの人気者ですが、日本では一部のコアな中華エンタメファンを除きほぼ無名の俳優です。日本人女性にも受けそうな高橋一生や坂口健太郎に通ずる塩顔系ハンサムの彼を知らないのはもったいないので、この機会に青田買いしていただくべく、少ししっかり紹介させていただきます。

中国では今、演技力は多少アレでも、「小鮮肉」と呼ばれるぷりっぷりの若いアイドル俳優が人気です。30代のホアンは既にそのカテゴリーには入りませんが、圧倒的な演技力と端正なルックスで、若手に負けない人気と俳優としての評価を同時に獲得している貴重な存在。ブレイクした2014年前後はヒロインの「初恋の人」役が続いたことから、「国民の初恋」と呼ばれて女子の胸をときめかせました。

ファンが支持するのは、
人気が出ても浮つかない控えめな性格

黄軒(ホアン・シュエン) 撮影=伊藤さゆ

映画や演劇大学出身の俳優が多い中国は、テクニックに秀でた俳優の宝庫。ただ、ホアンのようにリアリティが勝る情感豊かなお芝居が観客の目を引きつける俳優は多くありません。演技力がアレな若手とベテランの狭間で、ちょうどいい位置にいるのがホアン・シュエン。今回のチェン監督はじめ、中国の著名監督たちがこぞって彼を起用したがる売れっ子ぶりで、日本公開作の中では、盲人マッサージ師の焦燥や怒りを体現してみせたロウ・イエ監督の『ブラインド・マッサージ』(2014年)でその魅力を確認することができます。

ホアンのファンが彼を支持する理由のひとつは、人気者になっても浮つかない控えめなその性格。背景には、不運続きだったキャリア初期の苦労が影響しているのかもしれません。

出演予定だったチャン・イーモウ監督の『王妃の紋章』(2006年)は、撮影開始直前に役柄の年齢設定が変更されたせいで他の俳優にチェンジされ、ロウ・イエ監督の『スプリング・フィーバー』(2009年)では尺の問題で出番がごっそりカットされるなど、苦渋を味わってきました。後に、チャン・イーモウは『グレートウォール』(2016年)で、ロウ・イエは『ブラインド・マッサージ』でホアンを起用しているので、資質は評価していたようです。

年の割にシブい趣味。若年寄ぽさも共通点

東京国際映画祭の『空海―KU-KAI―』の舞台挨拶 撮影=伊藤さゆ

控えめなだけでなく、お茶とお酒をたしなむのが好きで、オフの時は家で読書と書道をしているという、若干オッサンくさい趣味もいい味になっています。こちらも25歳という年のわりに落ち着いた染谷将太といいコンビです。

東京国際映画祭の舞台挨拶で、
なぜか絶対目を合わせない二人

東京国際映画祭のために来日したホアンと染谷は、舞台挨拶では互いに目を合わせず、染谷さんは完全にツンデレな様相。でも本当はかなり仲がいいようです。舞台裏を知るスタッフは「控室では中国語混じりの英語でお二人仲良く語らっていらっしゃいました」と明かしてくれました。

黄軒(ホアン・シュエン)とツンデレな染谷将太 撮影=伊藤さゆ

『空海―KU-KAI―』の中国語タイトル『妖猫伝』の微博(ウェイボー、中国版Twitter)公式アカウントが公開したメイキング風景では、ホアンが染谷のセリフの練習に付き合う姿や、猫を抱きながら談笑する姿が紹介されています。

『妖猫伝』公式微博アカウントはさらに、今回の来日中にスタジオ撮影されたスーツ姿のふたりの笑顔あふれるツーショット写真も公開。強力にバディ推ししているんだなと感じました。

黄軒(ホアン・シュエン)とちょっと気になる(?)染谷将太 撮影=伊藤さゆ

中国の映画記者は、「本作のような文学作品をベースにした時代劇は、派手なアクションやコメディを好む若い観客を動員できるかどうかが懸念材料」だと言います。「萌え男子」二人の「CP」感で興行収入を伸ばすことはできるのか!? 中国での公開は12月22日、日本公開は2018年2月24日(土)です。