11月18日公開の『エンドレス・ポエトリー』は、アレハンドロ・ホドロフスキー監督の自伝的作品です。歌舞伎のような黒子たちが登場して小道具を扱ったり、当時の世界観を表現するために書き割り(風景や建物が描かれた張りもの)を使ったりなど、舞台のような雰囲気が味わい深い作品となっています。ほかにも、詩のように情熱的なセリフ、カラフルな衣装や音楽なども含めて、映画ならではの総合芸術が堪能できます。

奇想天外なホドロフスキーの映画は、制作や演出にも仰天エピソードがあることで有名です。そのいくつかを紐解いていきます。

画家のダリやミック・ジャガーをキャスティング!?

ホドロフスキー監督による幻の名作といわれているのが、1975年に撮影が開始されるはずだった映画『DUNE』です。出演者には画家のサルバドール・ダリ、ミュージシャンのミック・ジャガー、名優オーソン・ウェルズなどが名を連ねていました。さらに音楽はピンク・フロイドが、キャラクターデザインは手塚治虫などにも影響を与えたことで知られる、フランスの人気漫画家メビウスが手掛けることになっていたのです。

そんな豪華なメンバーを集めるべく、ホドロフスキーは自ら出演交渉にあたっています。当時は美食家になっていたオーソン・ウェルズを口説き落とす際には、パリのレストランまで足を運びました。

そうした出演交渉の中で、ダリからは出演の条件として、世界一の報酬額にすることや、キリンを燃やすことを求められました。結果として、彼の愛人までも出演することになるなどのハプニングに見舞われます。金銭面の問題から撮影は中止となってしまいますが、完成していれば間違いなく面白い作品となったはずです。後にデヴィッド・リンチ監督が制作を引き継ぎ、1984年に『デューン/砂の惑星』が公開されますが、そのキャスティングにはホドロフスキーの意図をくんだと思われる部分が見て取れました。

例えば、ハルコネン男爵を演じたケネス・マクミランは、俳優ではなく、英国ロイヤルバレエ団のダンサー兼振付師です。その風貌はオーソン・ウェルズを彷彿とさせます。そして、ミック・ジャガーが演じる予定だったハルコネン男爵の甥には、歌手のスティングをキャスティングしました。

この映画で出会った特殊効果のダン・オバノンやH・R・ギーガーなどが、後にリドリー・スコット監督の名作『エイリアン』(1979年)でタッグを組むきっかけになった意味でも、伝説的な映画だといえるでしょう。

なお、この幻の作品を当時の絵コンテを使って監督自らが紹介するドキュメンタリー映画、『ホドロフスキーのDUNE』が2013年に公開されています。これを観れば、ホドロフスキーが思い描いていた作品の全貌を知るとともに、お茶目なホドロフスキー監督の魅力にハマってしまうかもしれません。

ミュージカルじゃないのに、なぜかセリフを歌う母親!

『エンドレス・ポエトリー』の前日譚となる『リアリティのダンス』(2013年)で注目したいのが、ホドロフスキーの母親サラのセリフです。なぜかミュージカルでもないのに、すべてのセリフをオペラ調で歌っています。実は、ホドロフスキーの母親にはオペラ歌手になるという夢があり、ホドロフスキーはそれを映画の中で叶えてあげたかったのだとか。

ホドロフスキーの作品では、たびたび彼の家族が制作に参加しています。『エル・トポ』(1970年)で7歳の時にデビューした長男ブロンティスは、『リアリティのダンス』ではホドロフスキーの父親ハイメを演じました。そして、今回『エンドレス・ポエトリー』でアレハンドロ青年(ホドロフスキーの分身)を演じるのは四男アダン。ミュージシャンとしても活動していて、この映画でもサウンドトラックを作曲しています。さらに、ホドロフスキーの妻パスカル・モンタンドン=ホドロフスキーは、衣装デザインを手掛けました。

ちなみに、『リアリティのダンス』から始まったホドロフスキーの半自伝的映画は、1995年に次男テオを亡くしたことから、せめて映画の中で家族を復活させようとしたことがきっかけ。ホドロフスキーの面影を感じさせる息子たちが、ホドロフスキーやその父親を演じることで、家族の絆が伝わってくるようです。

アンディ・ウォーホルも絶賛したデビュー作『エル・トポ』

ホドロフスキーの名を一躍とどろかせることになったのが、デビュー作の『エル・トポ』(1970年)です。この作品でも、さっそくホドロフスキーらしい演出を見ることができます。

物語は真っ青な空の下でどこまでも続く砂漠の中、馬に乗った主人公エル・トポと息子の登場シーンから始まりますが、なぜか息子は帽子だけを被ったほぼ全裸の姿。画家サルバドール・ダリの絵画を思わせるような、シュールな映像の美しさに圧倒されます。その後、何の説明のないまま物語は進んでいくのですが、なんと20分近くセリフらしいセリフがありません。そのため、何が起きているのかを理解するためには、映画に没入して観続けるしかないわけです。

当時、アンディ・ウォーホルやデニス・ホッパー、ジョン・レノンなどが大絶賛したことから一般公開されたものの、不評の為に3日間で打ち切りになったという逸話も。このことが、「ホドロフスキー監督の作品は難解だ」という誤解に繋がってしまったのではないでしょうか。

ちなみに、エル・トポとはもぐらという意味。ホドロフスキーの作品には馬やロバから、ヒキガエル、チンパンジーまで、毎回たくさんの動物が登場します。『ホーリー・マウンテン』(1973年)では、ヒキガエルが動き回っているセットを爆発させるなど、まるで自主映画のようなギリギリの表現を見せました。『エル・トポ』ではウサギが登場するのですが、主人公が近づくと……。なかなかショッキングな光景なので、詳しく知りたい人はぜひ映画を観てください。

(C) 2016 SATORI FILMS, LE SOLEIL FILMS Y LE PACTE/2017年11月18日(土)新宿シネマカリテ、ヒューマントラストシネマ有楽町、渋谷アップリンクほか全国順次公開

最新作の『エンドレス・ポエトリー』ではホドロフスキーの分身ことアレハンドロ少年が、チリの首都サンティアゴで暮らす様子が描かれています。スペインの詩人ガルシア・ロルカの詩集に夢中になるも、父親は詩を読むのは男らしくないと激怒。やがて、芸術家姉妹と出会った彼は、家を出る決意をするのでした。その題名には、当時一緒に過ごした芸術家たちへのオマージュが込められているように感じられます。

もちろん、ホドロフスキーらしい演出にも注目です。前作から引き続いて母親役を演じるのは、オペラ歌手パメラ・フローレス。彼女はアレハンドロが出会う女性詩人ステラ・ディアス・バリンも演じているのですが、こちらはまるで女性プロレスラーのような風貌で登場します。しかも、7色のカラフルなタイツに見えるのは、なんとボディペインティングでした。この驚きの2役を見抜ける人はなかなかいないのではないでしょうか。

ほかにも、占い師の助手で、タロットカードの内容を読み上げる青年が、なぜかベッドに全裸で横たわっているなど、奇想天外なホドロフスキーワールド。ぜひ一度その唯一無比の世界に足を踏み入れてみてはいかがでしょうか?

(文/デッキー@H14)