文=赤尾美香/Avanti Press

とにかく、“はいからさん”が好きだった。どのくらい好きだったかというと、小学校5年生の学級お楽しみ会で、「はいからさんが通る」のお芝居をしたことがあるくらい。きっとあれは、日本で最初の舞台化だったはずだ。ただし、そこは小学生。舞台化したのは、主人公の“はいからさん”こと花村紅緒が、反体制運動家の嫌疑で投獄された牢屋での話。「国鉄(現在のJR)の路線図みたいな顔」とか「メイクなしでキッスに入れる」とか言われる、いかつい顔の女牢名主(羅鈍のお定)をはじめとする牢屋仲間や警官たちと繰り広げるドタバタ・シーンだけを切り取った。恋愛話は一切なし。私は台本を書きナレーターを務めたが、仲間の名演もウケて、私たちのグループは鼻高々だった。「週刊少女フレンド」での連載(1975〜1977年)を、少女時代に毎週夢中で読んだ世代として、11月11日から公開される『劇場版 はいからさんが通る 前編 〜紅緒、花の17歳〜』を観て、そんな昔のことを思いだした。

(C)大和和紀・講談社/劇場版「はいからさんが通る」製作委員会

シリーズ累計1200万部超のメガヒットを記録した“時代コメディ”

原作の「はいからさんが通る」は、作者の大和和紀いわく“時代コメディ”だ。舞台は大正時代の東京。世相が大きく移りゆくなか、お転婆な女学生の主人公がさまざまな人と出会い、波瀾万丈の事件を乗り越えて純愛を実らせるまでが描かれる。今では珍しくない卒業式での女学生の袴姿は、「はいからさん〜」人気に影響されて増殖したという説もあるくらいの人気作。私も、紅緒の袴&編み上げブーツ姿には憧れた。それまでの少女漫画のセオリーを覆す型破りなヒロイン像が、同時代の女の子から絶大な支持を受け、シリーズ累計売上げ部数は1200万部を超える。

舞台は大正時代の東京(C)大和和紀・講談社/劇場版「はいからさんが通る」製作委員会

明治末期から大正にかけて、女性は自我に目覚め、職業や恋愛の自由を主張し始めた(それでも参政権を得るのはずっと後のこと)。世界情勢的には第一次世界大戦と第二次世界大戦の狭間にあたり、日本軍はロシア革命に干渉してシベリアに出兵。紅緒の許嫁(いいなずけ)である伊集院少尉がそこに加わっていたことで、ふたりの運命は思いもよらない方へと動いていく。

はねっかえりのヒロインが4人のイケメンから愛される“元祖F4”的展開

そんな時代を背景に、物語の真ん中には太く純愛が貫かれている。はねっかえりのじゃじゃ馬だけど、正義感が強く心根のやさしい主人公が、タイプの違う4人のイケメンに好意を持たれるという展開は、“「花より男子」のF4の元祖”と呼びたくなるような設定だ。でも、コメディゆえ、酒乱の紅緒はたびたび暴れるし、現実離れした脇役も少なくない。紅緒が好物のつくねで東京タワーを作っているのは時代考証的にはおかしな話だけど、気にしちゃいけない。昭和の時代臭プンプンのギャグは、今読むとかなりお寒いものもあるし、このご時世では自主規制に引っかかりそうなものもある。果たして2017年にこれをアニメにして(前後編の2部構成で、後編は18年公開)若者の興味を引けるのだろうか? その疑問に対する答えが欲しくて、観に行った。

(C)大和和紀・講談社/劇場版「はいからさんが通る」製作委員会

新劇場版の紅緒には、大和和紀色が感じられない!?

まずは、キャラクター・デザイン。これはもう無理。ごめんなさい。今のトレンドに寄せた絵には大和和紀色が感じられず、お子様向けにしか見えない(ただしこれは本作に限ったことではなく、昨今のアニメの多くに私が持っているイメージも同様)。紅緒の親友、環の軽薄な派手さなど、まるでキャバ嬢。とても平塚らいてうが主宰した「青鞜」に傾倒しているようには見えないし。何を隠そう、最初にこのヴィジュアル・イメージを見た時、「この映画は観ないでいいや」と思ったくらい。その印象はスクリーンで観ても変わらなかった。原作に寄せすぎては、“昔の少女漫画感”が出過ぎて、作品自体が古臭く見えてしまうというのも理解はできるが、もう少し何とかならないものか。

早見沙織のキリッとした声と、宮野真守のイケメン声は好感度大

しかしながら、キャラクターを活かす声は、思いのほかよかった。特に早見沙織のハツラツとしてキリッと通りのいい声は、芯が強く快活な紅緒にマッチ。物語が複雑になるとともに、紅緒の感情も揺れ幅が大きくなる後編を、どう演じてくれるかとても楽しみだ。

早見沙織の声は、芯が強く快活なヒロイン・紅緒にマッチ

一方、少尉の声を担当したのは実力、人気ともに声優界トップクラスの宮野真守。持ち前のイケメン声が炸裂、最初はちょっと甘すぎると感じたけれど、次第に私の脳内少尉との微妙な差が埋まっていったのは、彼の演技力が成せるわざか。少尉もまた後編では苦悩を抱えることになるので、宮野の演技力に期待したい。

伊集院少尉を演じる宮野真守のイケメン声が炸裂

ポジティブ思考のヒロインは、40年たってもやっぱり魅力的!

ともあれ。40年経ってもやはり、紅緒の凛々しさや健気さ、一見がさつに見えて気配りや思いやりに長けているところは、たまらなく魅力的だ。かつて、少女漫画の世界では、“平凡でドジで冴えない私”という主人公像が人気だったこともあるけれど、紅緒は違った。料理や裁縫は苦手だけど、竹刀を持たせれば男性顔負け、恋も仕事も全力投球、ポジティヴ思考のスーパーウーマンだ。そんな紅緒だからこそ読者は憧れたし、愛する人を一途に思い、思われ、ゆえに自分の気持ちを封印してなお密やかに相手を愛する姿に涙した。

(C)大和和紀・講談社/劇場版「はいからさんが通る」製作委員会

今回の前編<紅緒、花の17歳>では、紅緒と少尉の出会いから、シベリアで消息不明になった少尉が満州で馬賊になっているかもしれないという情報の真偽を確かめに紅緒が彼の地に旅立つまで、全体の1/3程度を描いている。これだけでも、十分波乱万丈。97分の上映時間では、かなりの駆け足だったと言わざるをえない。連載漫画が2年かけてやったことを、数時間でやりきろうとするのだから、簡単なことでないのはわかる。が、テレビ・アニメ(1978〜79年)では到達しなかったエンディングまでを描くことをうたった本作であるから、リアルタイムで原作に熱中したファンが納得のいく取捨選択をもって、感動の後編を制作していただきたいと切に願う。そして、我らが“はいからさん”の在り方や生き様がいかにかっこいいか、若い世代にも届けばいいな、と思う。