文=久美雪/Avanti Press

「基本的にアニメーションの監督としてやってきているんですけれど、アニメーションというものにそれほど思い入れはないんですよ」。駆け出しの監督ならまだしも、映画『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲』(2001年)や『河童のクゥと夏休み』(2007年)、『カラフル』(2010年)、『百日紅』(2015年)といったアニメーション映画で、日本はもとより世界でも高い評価を受けている原恵一監督が明かした一言だけに、強烈な印象を受ける。

原監督が自身について赤裸々に語ったのは、10月25日(水)から11月3日(金・祝)にかけて開催されている東京国際映画祭の特集上映「映画監督 原 恵一の世界」の作品の一つで、10月30日に行われた『カラフル』上映後のトークショーだった。対談の相手を務めたのは映画評論家の町山智浩氏。

森絵都の同名小説をアニメ映画化した『カラフル』。本作はシンエイ動画を退社した原監督が、フリー演出家として初めて手掛けた作品となる。死んでしまった“ぼく”は、天使に導かれ、自殺で息を引き取った少年“真“の体に入りこむ。現世にもどる再挑戦のため、「小林真」として生きることになるが、彼が自殺をした理由を知ることで、再挑戦の本当に意味を考え始める、という物語。

ラッシュを見た時に、あぁ、アニメだったわと思う(笑)

トークショーではまず町山氏が、『カラフル』はアニメ独特の現実にはありえないような動きを極力おさえているように感じるとの指摘から始まった。原監督はその指摘に対し、「本当に実写みたいな感覚で作ろうと思ったんです。アニメらしさ、アニメの得意な部分をどんどん封印していこうと。あえて、必要のない盛り上げとかをしない。家庭のなかの日常、食事のシーンとかをなるべく丹念に描いて、家庭内の何かいびつな親子関係みたいなものを、お客さんに印象づけたいと思ったんですね」と説明。

この非常に実写的な考えに町山氏が、「反アニメ的という具体的な意識があって狙ったのでしょうか」と原監督に投げかけたのが、冒頭に記した言葉だった。ざわめく客席に対し、原監督は苦笑しつつ、「なんか、絵コンテを描いているときは実写の絵コンテを描いているような気分なんですよね。だから、ラッシュを見た時に、あぁ、アニメだったわと思う(笑)」と、さらに追い打ちをかけて会場をわかせることとなった。

世界一影響を受けている脚本家は山田太一さん

丹念に家庭の日常を描いた『カラフル』。町山氏はその描き方から脚本家・山田太一のドラマを思い出したという。山田太一を意識したのかと問われると、原監督はずばり「めちゃめちゃしました! 僕が世界一尊敬して、世界一影響を受けている脚本家は山田太一さんなんです」と宣言。このトークショーでそのことを確認したかったという町山氏は、推測が当たり満面の笑み。『カラフル』のクライマックスのシーンなど、山田太一的なシーンを挙げて一つひとつ確認するほどだった。

原監督と町山氏による山田太一愛は熱を帯び、原監督が自身の山田太一愛に溢れるエピソードを明かしてくれた。「ずっと憧れの存在だったんですけど、同人誌的な本を編集している人が僕と山田太一さんの対談を企画してくれて、山田太一さんにオファーしたところ、僕のことを知らないので作品が見たいと言ったらしいんですね。そこで、企画した人が『河童のクゥと夏休み』と『カラフル』を送ったところ、山田太一さんが見てくれて、この人とだったら会いたいと言ってくれたらしいんですよね。本当にやばかったですよ! もう会いたいけど、会うのが怖い!」。

トークショーの最後には現在取り掛かっている新作に関する話題も浮上。「公開は再来年? まだはっきりしたことは言えないんですが、内容的には僕自身初めての挑戦となる、本格的なファンタジーです。笑いあり、涙あり、アクションあり」とのこと。『カラフル』とはまた違った演出が楽しめるであろう新作に期待がかかる。そして締めの言葉として「今のところ僕の感触でいうと……、すごく面白くなります!」と力説。盛況のなかトークショーは終了を迎えた。