11月4日から公開された映画『シネマ狂想曲~名古屋映画館革命〜』は、「メ~テレ」(名古屋テレビ放送)で今年2月に放送され、反響を呼んだドキュメンタリー番組に未公開映像をプラスした作品です。同作に登場するのは、映画愛がほとばしるひとりの男。とにもかくにも、名古屋で“映画館革命”を目指して孤軍奮闘する彼の一挙手一投足から目が離せなくなる1作です。

映画監督たちに愛される名古屋の名物副支配人

その映画愛がほとばしる男とは、坪井篤史氏。名古屋のミニシアター、シネマスコーレの名物副支配人です。通常の映画館の副支配人ならば、劇場全体の運営を見渡す立場なのでしょうが、彼はちょっと違います。受付でチケットのもぎりもすれば、映画を紹介する手書きのポスターを作ったり、映画のために自分がやれることはなんでもこなし、苦労を厭わない。その映画への愛はすさまじく、映画のことを話し始めると相手が聞いていようといまいと、とめどなく話し続ける。事実、同僚スタッフは彼が映画の話を始めると、途中からほぼ聞き流しているなんてことも……。

坪井さん本人が“VHS墓場”と呼ぶ、ビデオソフトの保管庫には名作というよりも“どれだけの人の目に触れたのか?” と疑問に思うような無名の映画がずらり。ほぼ自主的アーカイヴ、よく言えばB級映画の救済を繰り広げています。ちなみにレーザーディスクも集めています。彼のことを慕う映画制作者は多く、同映画にも『フラッシュバックメモリーズ3D』(2012年)の松江哲明監督、『婚前特急』(2011年)の前田弘二監督ら錚々たる気鋭監督たちがインタビューに答え、白石晃士監督は坪井氏を親しみをこめてこう称しています。“ちょっと頭のオカシイ映画好き”と。

前代未聞の上映スタイル「超次元トビダシステム」と「超次元絶叫システム」

このように、監督たちも認める映画好きですから、“映画館革命”のために彼が実現させる企画が、これまたほかの劇場ではまず実現しないであろう、驚きの内容です。中でも、『ボクソール☆ライドショー ~恐怖の廃校脱出!~』(2016年)で一夜限り実施された「超次元トビダシステム」と、『貞子vs伽椰子』(2016年)の白石晃士監督とタッグを組んで編み出した「超次元絶叫システム」での上映会は、掟破り。上映の常識を大きく覆していきます。どういったシーンなのかは、実際の映像のおもしろさが半減してしまうので、あえて明かしませんが、この上映会時の劇場はほとんどカオス状態に! 出てはいけないものがスクリーンから飛び出してきたりして、もはや映画館なのか、ロックのライブ会場なのか見分けがつかないほどの熱狂のステージと化し、前代未聞の上映会になりました。

映画ファンの心をくすぐる試みがほかにも

こうしたユニークな独自企画で、名古屋を映画で一番熱い地にすべく、“名古屋映画館革命”を前に進ませる坪井氏。『シネマ狂想曲~名古屋映画館革命〜』では、そんな坪井氏の奮闘の日々を見つめています。その姿は一見すると、なんだか無謀なことにトライしているように映ってしまうかもしれません。でも、よく見つめてみると、彼が実際にやろうとしているのはひとりでも映画ファンを増やし、映画館を何ものにも代えがたい映画体験の場にすること。好きな映画をひとりでも多くの人に届けたいという映画に携わる人間の切なる願いにほかなりません。

実は、こういう映画ファンの心をくすぐるユニークな試みはほかでも出始めています。代表的なのは、「爆音映画祭」です。通常の映画の音響セッティングではなく、音楽ライブ用の音響セッティングをフルに生かし、映画を大音量の中で観るこの上映は大好評で、いまや全国に人気が飛び火。全国各地の劇場で上映会が組まれるまでに成長しました。さらに音の質と圧を追求した立川シネマシティの「極上音響」「極上爆音」上映も出現。この上映スタイルも映画ファンの間で熱い支持を受けています。

また、“映画は黙って静かに観るもの”という常識と真逆をいく、映画に合わせて歌って踊って歓声をあげることもOKにしてインド映画をのりのりで楽しむ、マサラスタイルの上映も定着しつつあります。昨今、シネコンの全盛でどこか画一化され、ともすると味気ないスペースになりつつあるように映る映画館ですが、こうした流れを見ると、じわじわと坪井氏をはじめとする映画ファンの心に寄り添った映画館革命が各地で始まっているのかもしれません。

坪井篤史やシネマスコーレが次にどんな特別企画を実現させるのか? 注目していて損はないでしょう。同時に坪井氏のような映画界及び映画館になにかおもしろいことを巻き起こす革命児が、もっと現れることを期待せずにはいられません。

(文/水上賢治@アドバンスワークス)