子どもは、ごく親しい大人の背中を眺めて育つもの。例えば父母が一生懸命働くところを目にするうち、親の仕事に関心を持ち、同じ世界で活躍したいと考えるようになるのも、自然なことではないでしょうか。
とりわけ音楽、文学、美術などの芸術的分野は、親から受け継いだ才能が大きく影響してくる分野であるといえます。

映画界で名声をつかんだセレブリティの子どもたちが、成長して映画関係の仕事に就き、親と共にひとつの作品を作り上げることは少なくありません。互いをプロフェッショナルとして認め合い、切磋琢磨しながら創作にはげむ親子の姿はとても刺激的。ここでは映画界の重鎮とその子どもたちの関係に注目してみたいと思います。

ジャッキー・チェンと、その息子ジェイシー・チャン

カンフーアクション界の大スター、ジャッキー・チェンには、元女優のリン・フォンチャオとのあいだにもうけた、一人息子がいます。歌手で俳優のジェイシー・チャンです。
ジェイシーはジャッキーの多大な援助を得て、芸能界入りを果たしました。しかしインタビューの場で、「僕にとってのアイドルは、父親ではない。見返りなき愛情を注いでくれた賢明な母だ」と力強く語るなど、父ジャッキーへの非難ともとれる言葉を口にすることがあったため、しばしば親子確執が囁かれました。

というのも、ジャッキーは映画撮影で家を空けることが多く、家庭の事情をマスコミに知られないように、妻子と距離を置いていました。そのため、ジェイシーは父親とほとんど交流を図ることなく幼少期を過ごし、母子家庭のような環境で育ったのです。母親が背負った様々の苦労を目にするうち、父親に対してポジティブな感情をもつことができなくなったのかもしれません。

しかし、日本テレビ系列「ザ!鉄腕!DASH!!」の水鉄砲合戦や「原叶緑茶」のコマーシャルで親子共演を果たすうち、少しずつわだかまりが解けていった二人。ジャッキーが総監督・主演をつとめた映画『1911』(2011年)には、ジェイシーが主要キャラクターの張振武役で出演し、互いをリスペクトし合う様子がうかがわれました。

世界のKITANOと、その娘・北野井子

北野武監督の愛娘で、歌手・女優の北野井子(きたのしょうこ)もまた、父から受け継いだ才能を音楽・映画の世界で開花させた人物です。ヴェネツィア国際映画祭で金獅子賞を獲得した父の監督作品『HANA-BI』(1997年)への出演が、井子にとっての芸能界デビューとなりました。
井子は翌年の1998年にX JAPANのYOSHIKIプロデュースで歌手デビューも果たしています。その際、デビュー曲のミュージックビデオを製作したのが、当時すでに「世界のKITANO」と呼ばれていた父・武でした。

活動初期の頃は母の旧姓を名乗り、“松田井子”の芸名で活動をしていた井子。父・武の語るところによると、父親がフライデー襲撃事件で前科者になってしまったため、北野姓を名乗らせることは娘の成長に芳しくないと判断し、母親の姓を名乗らせることにしたとか。井子の名についても、知り合いの美人ホステスにちなんで名付けたとするなど、どこまでが真実なのかわからないエピソードをおちゃらけて語る武ですが、井子の芸能活動を熱心に支援する姿には並々ならぬ愛情の深さを感じます。

アレハンドロ・ホドロフスキー監督と、2人の息子たち

(C) 2016 SATORI FILMS, LE SOLEIL FILMS Y LE PACTE
『エンドレス・ポエトリー』は11月18日(土)、新宿シネマカリテ、ヒューマントラストシネマ有楽町、渋谷アップリンクほか、全国公開中

自伝映画を撮影する際、若き日の自分自身の役を我が子に演じさせるというのは、なかなか粋な試みです。カルト映画界の巨匠アレハンドロ・ホドロフスキーは、監督最新作の映画『エンドレス・ポエトリー』に5人の息子のうち2人をキャスティングし、末っ子のアダン・ホドロフスキーに青年期の自分を、長男のブロンティス・ホドロフスキーにその父を演じさせました。

主演のアダンは父親譲りの芸術的才能に秀でた人物で、俳優のほかに、短編映画の監督や作曲家としても活躍しています。本作のオリジナル・サウンドトラックもアダンが手がけたとのこと。
また、長男のブロンティスは7歳のときにホドロフスキー監督の代表作『エル・トポ』(1970年)で俳優デビューを飾り、以降銀幕ばかりでなく舞台やテレビでも役者として活躍してきました。現在はオペラの演出などにも精力的に打ち込んでいる多彩な人物です。

(C) 2016 SATORI FILMS, LE SOLEIL FILMS Y LE PACTE
『エンドレス・ポエトリー』は11月18日(土)、新宿シネマカリテ、ヒューマントラストシネマ有楽町、渋谷アップリンクほか、全国公開中

極彩色の華やかな映像美と、虚実を融け合せた幻想的な演出が印象的な本作は、ホドロフスキー監督が追求し続けてきた「マジック・リアリズム」の集大成にして傑作。監督に内在する芸術的感性のルーツを探究しながら、鑑賞した人々が真の自分自身を発見し、生に対して前向きになれる、そんな魔法のような作品です。

才気溢れる親とそれを受け継いだ子どもの間には、揺れる葛藤と大きな愛情が存在していることが窺えます。そんな彼らがともに作品をつくると、他者にはなしえない新しい表現の可能性が生まれるのでしょう。

『エンドレス・ポエトリー』は11月18日(土)より新宿シネマカリテ、ヒューマントラストシネマ有楽町、渋谷アップリンクほか、全国公開中。

(桃源ももこ@YOSCA)