ある時はモデル、またある時は歌手、毎週日曜日は「シューイチ」のMC。その人の正体は、芸能生活20周年目前の女優・片瀬那奈。あまり知られていないかもしれないが、コメディ作品をやらせたら日本で右に出る者がいないほどのコメディエンヌぶりを発揮する逸材でもある。

それは映画『海月姫』、『変態仮面』、連続ドラマ「オンナミチ」しかり。金子修介監督に「コメディエンヌぶりがハンパじゃない!」と言わしめた初主演映画『こいのわ 婚活クルージング』(11月18日公開)でも持ち前の“お笑いポテンシャル”の高さを見せつける。

根っからのお笑い好きでテレビっ子

「小さいころから根っからの超お笑い好きで、今でもテレビっ子。芸能活動をする上で一番身になっているのが、お笑い芸人さんです。芸人さんたちのコントもそうだし、トーク時の間や入り方、言葉の強弱、ワードチョイスなど、お笑いは自分にとって無意識のうちにお芝居の勉強になっている」と古今東西のお笑い芸人をリスペクトしている。

芸能生活での恩人として名前を挙げるのは、関西を代表する笑いの天才・ダウンタウンの浜田雅功。バラエティ未経験の10代の頃に出演した深夜番組「浜ちゃんと!」で出会った。「浜田さんや出川哲朗さんからリアクション芸を学ぶという企画があって、生まれて初めて熱々おでんや激痛マッサージに挑戦しました。それがあまりにも面白くて、私の中でのバラエティ開眼になった。浜田さんの頭の回転の速さや呼吸感に触れることもできて、ものすごく勉強になった」と感謝しきり。「早い段階で笑いのトップにいる方の横にいられたことは、自分にとって大きな財産」と実感を込めて話す。

出鼻をくじかれた経験がバネに

片瀬が女優としてキャラクターと対峙し、現場に臨むとき、バラエティで磨いた反射神経がものをいう。それがコメディだったらなおさらだ。「事前に決め込んでいくのではなく、現場に臨んでその時に出た“今”で返したい。セットに面白い道具があったらアドリブで使ったり、もはやモノボケ感覚。しかもリハーサルで周りから『いいね!』と言われてしまうと、なぜかそれ以上のことをやらかしたくなる。合格点をもらうと突っ走りたくなるタイプ。冒険は常にしています」。なぜなら予定調和は“笑い”の天敵だから。

過去に「パナソニック・エステジェンヌ」シリーズのキャンペーン“きれいなおねえさん”3代目を務めたこともある美人。しかし笑いがわかっている分、コメディ作品での片瀬の振り切れぶりはすさまじい。カンニング竹山もかくやのキレ演技を見せたかと思えば、急にシリアスになったり、表情もコロコロ変わる。そもそも女優として綺麗に映りたいという願望は早い段階からなかった。それは初主演ドラマ「美少女H2」(1999年)での苦い経験からきている。

当時、女優業に興味はなかったが「ドラマ初主演のオファーをもらったからには」と150%の力でぶつかり、撮影時は自分の中で手応えも得ていたという。ところが「自信満々でいざ完成品を観てみたら、演技はド下手で自分の思っていたものと全然違った。まさに“ダメだこりゃ!”」と映像編集スタジオでイスからずり落ちる事態に。「その時に初めて綺麗に映ることが全てではなく、役に寄り添った素のリアクションが大切だと思い知った。それがあまりにも悔しくて、女優で成果を残してやるという気持ちに火がついたし、吹っ切れた」。出鼻をくじかれた経験が女優としての大きなバネとなり、探求心になった。

芸能生活初の映画主演

(C)2017「こいのわ」製作委員会

芸能生活20周年目前。自ら道を狭めないことがモットーだ。「この仕事を辞めようと思ったことは一度もありません。やったことのないことや知らないことは気になる。いただいたら、とりあえずなんでもやってみる。それで合うか合わないかを決める。やってみて“どうでしょう?”という感じ」。その言葉に嘘はなく、モデル業、女優業、歌手業、タレント業と片瀬のこれまでの活動は多岐に渡る。器用貧乏に陥る恐れもありそうだが、そんな状況を楽しんで乗りこなしている節もある。

そして『こいのわ 婚活クルージング』で映画初主演。「これまでは主演の方が面白くなるように場面を引っ掻き回すのが自分の仕事だと思ってやってきたので、逆に自分自身が物語の軸になるのは凄いことなんだと感じた」と襟を正すも「何はともあれ現場が気持ちよく、スタッフ・キャスト全員が楽しく仕事ができれば、おのずと良い作品になるものなので、私としては普段と変わらずオンオフなく、みんなが楽しく過ごせるよう心がけました」と撮影を振り返る。

芸能生活20周年というアニバーサリーに向けて、女優としてさらなる飛躍を目指す。「明るい役も多いので、あえて多重人格とか猟奇的な殺人を犯すヤバイ人を演じてみたい。サスペンスやホラーはコメディに相通ずるところもあるし、『こいつ何を考えてんだ!?』と思われるような、私っぽくない役柄がきたら……確実に燃えますよね」。持ち前の冒険心とパッションが低下することは……しばらくなさそうだ。

(文・石井隼人)