「舟を編む」「まほろ駅前」シリーズの直木賞作家・三浦しをんが徹底的に人間の闇を描く異色作を映画化した『光』が11月25日に全国公開される。

本作は、25年前の殺人事件に関する秘密を共有する幼なじみの3人が再会したことにより、過酷な運命に翻弄されていく様子を活写したサスペンスドラマ。妻子とともによき家庭人として暮らしている信之を井浦新、秘密の暴露を信之にちらつかせる輔(たすく)を瑛太、過去を捨ててきらびやかな芸能界で貪欲に生きる美花を長谷川京子、信之の妻・南海子(なみこ)を橋本マナミが熱演し、それぞれが新境地を開拓している。かねてから競演を望んでいたと語る井浦新と瑛太にお話を伺った。

本能のまま演技出来る喜びを感じた

Q:スクリーンのおふたりから発せられる熱情に圧倒されました。信之と輔が醸し出す狂気と怪物性を表現する際、これまでにない演技経験をされたのでは?

井浦新 特に瑛太君と共演したシーンでは、“人間ではなくなっているな”と感じました。相手のお芝居を受けて反応していく過程が人間ではなく、動物の反射になっている感覚でした。演技の技術ではなく、自分の内側が動物になり、自分を守るために相手をガッとかみ殺してしまうような、本能的な感覚です。本能のままで虚構の中に飛び込んでいき、瑛太君と芝居をしているうちに、それが本当になっていく喜びを感じながら演じました。この作品だからこそ味わえた経験だと思っています。

瑛太 僕は、基本的にお芝居は楽しむものだと思っていて、その究極の楽しみを味わってしまった感覚があります。頭で考えたり、計算したりする事を超えたところへ行けたと思っています。過去の作品でもそういった経験はあるのですが、この作品ではすべてのシーンでお芝居の快楽を得ました。やはり、信之役が新さんであったことは大きく、撮影中はずっと胸騒ぎがしていましたね。

美女2人の本気濡れ場に感じた女優魂

Q:おふたりがそれぞれラブシーンを演じた長谷川京子さんと橋本マナミさんの妖艶な演技も素晴らしかったです。新さんと瑛太さんがおふたりと共演した際に感じた印象を教えてください。

井浦新 僕は役柄上、おふたりとお芝居をする機会をいただけましたが……まぁ、女優は怖いなと(笑)。とにかくおふたりに飲み込まれないようにしなければいけないと思いました。橋本さんに関しては、つながった映像を観て本当に驚かされました。家族3人のシーンと輔と一緒にいるシーンでは、顔が全く違うんです。家族3人のシーンを撮っている時、すでに輔とのラブシーンを撮り終えているのに、そんな匂いさえ感じさせず、母親の顔を見せているわけです。お芝居のことを真面目に考え、ひとつひとつを悩みながら演じている姿が印象に残りました。

長谷川京子さんが演じた美花は、幼少期まで描かれているので、信之や輔と同じくらいの熱量を持っていないと3人のバランスが崩れてしまいます。しかも、僕らの中で撮影日数が一番短いという現実的な難しさがある中、よくあそこまで一気に役を仕上げたなと思いました。それと同時に、京子さんは僕らと演技のアプローチが違う、とも感じました。僕らはお互いに感じ合いながら役を作り上げていきましたが、京子さんは作り上げたものを監督の演出でそぎ落としていきながら美花になっていく作業でした。現場で監督の演出に対応していく姿はとても大変そうでしたが、そういった作業を楽しんでいるようにも見えました。僕らとは別の形で演技を楽しんでいる姿が良いなと。橋本さんと長谷川さんは、この作品で全く違った女性像をまとっていて、素晴らしかったですね。

瑛太 橋本さんは、初めましてとご挨拶した時に「瑛太さんは役柄を実生活に引きずるタイプですか?それともオンとオフで切り替えられるタイプですか」と質問されて(笑)。初めてお会いした女優さんにそういった話を聞かれたことがなかったので、その時から橋本さんの作品に対する意気込みを感じましたね。橋本さんと同じ部屋にいるシーンは、クランクインした早い段階で撮ったのですが、濃厚なシーンで、しかもそれが日常という設定だったので緊張しましたが、橋本さんが真摯に役と向き合う姿と南海子がもがいている姿が重なって見えて。輔としては、そういう姿を何も感じないで見ている、南海子を信之に近づく道具としか見ていないという気持ちで演じていましたが、自分をすべて捨ててゼロから役を作り上げた橋本さんの姿を素晴らしいなと思いました。実際に南海子がそこにいるように感じることが出来たので、僕も違和感なく役に入っていけました。肉体でからむシーン、声でからむシーンの両方において、演じやすかったですね。

Q:新さんは輔と南海子の濃厚なラブシーンを観て、驚きましたか?

井浦新 驚くというよりも、こういう方が実際にいらっしゃるんだろうなと思いながら観ていました。

Q:瑛太さんは本作の魅力をどのように捉えていますか?

瑛太 原作を読んだときにも感じたのですが、この質問に関しては、考え抜いても明確な答えが見つからないんです。この映画は、無心に感動したり、感情移入したり、分かりやすいメッセージを問いかけたりする内容ではありません。観た方は、見てはいけないものを見た、衝撃的なものを見たという共通の印象を受けると同時に着目点次第で観た後の感想が異なる。そこがこの映画の面白さだと思います。恐怖が自分の内側に迫ってくるような新しい感覚が、多くの皆さんに届くことを願っています。

(C)三浦しをん/集英社 (C)2017『光』製作委員会

映画『光』
11月25日より新宿武蔵野館、有楽町スバル座ほか全国公開
配給:ファントム・フィルム
公式サイト:http://hi-ka-ri.com/
(C)三浦しをん/集英社 (C)2017『光』製作委員会

取材・文/田嶋真理 写真/横村 彰