言わずと知れた世界的キャラクター“ムーミン”。愛らしい佇まいとほっこりとした世界観が人気を集め、ムーミングッズを扱うショップやカフェが続々登場したほか、2019年にはテーマパークの開園も予定されています。また、12月2日(土)には最新映画『ムーミン谷とウィンターワンダーランド』が公開を控えています。

そんなムーミンですが、誕生のきっかけや日本へ広がるまでの経緯について、よく知らない人もいるのではないでしょうか。ここでは、知られざるムーミンの秘話をご紹介します。

ムーミンは戦争の只中で生まれた

まずご紹介すべきは、ムーミンの誕生についてです。ムーミンの生みの親であるトーベ・ヤンソンは、フィンランドの芸術一家に生まれ、わずか15歳でキャリアをスタートさせました。イラストレーターとして雑誌やポストカードのイラストを描きはじめたトーベは、やがてイタリアやフランスへ渡り美術の勉強に励みます。帰国すると、油彩画の個展を開いたり、数々の公共建築に壁画を描いたりと、画家としての地位を着実に築いていきました。

そんなトーベがムーミンを生み出したのは、彼女が10代の頃。弟との喧嘩に負けた悔しい気持ちを絵にぶつけ、トイレの壁に鼻の長い醜い生き物を描きました。このことを機に、彼女はこの生き物を度々描くようになっていきます。

やがて第二次世界大戦がはじまり、トーベがいたフィンランドも争いに巻き込まれていきます。すると強い反戦の気持ちを抱いていた彼女は、イラストを担当していた雑誌に、独裁者たちを笑う風刺画を描くようになるのです。

こうした風刺画にも実名でサインを載せていたトーベ。次第に彼女のサインの横には、あの醜い生き物がひょっこりと顔を見せるようになりました。現在のムーミンとは異なる、怒ったような表情を浮かべる生き物は、トーベの心の代弁者として、また拠り所として、彼女を支えていたのかもしれません。

終戦とともに、生き物は正式に「ムーミン」の名を冠し、ひっそりと出版されます。そしてイギリスで人気に火がついたのをきっかけに、世界へ広がっていきました。

ムーミンを和訳した元・女スパイ

トーベ・ヤンソンが戦争の渦中で生み出したムーミンは、海を越え日本にもやってきます。その際に和訳を担当した翻訳家の中に、小野寺百合子という女性がいました。

若き日の百合子は、陸軍少将である小野寺信と結婚すると、信の赴任に伴い1941年からスウェーデンでの生活をはじめます。信の仕事は、軍人外交官として近隣のソ連やドイツの動きを探り、それを暗号化して日本に伝えること。百合子は、暗号の翻訳と電信係として、夫の活動を影で支えることになったのです。

信は「欧州の日本スパイの親玉」と恐れられた敏腕スパイでしたが、非戦派であり、「戦争は絶対にいけない」と口にしていたといいます。百合子もまた、反戦の気持ちを抱きながらも、軍人外交官の妻として、華やかでありながら緊張感に満ちた日々を送らなくてはならないことに心をすり減らしていたのかもしれません。

広島・長崎の原爆投下を経て終戦を迎えると、信は戦犯容疑者として連行され、百合子は米軍の施設に収容されてしまいます。やっとの思いで夫婦が日本での暮らしを取り戻すと、そこにはムーミンとの出会いが待っていました。スウェーデンの児童文学を翻訳していた百合子のもとに、北欧文学者の山室静からムーミンの翻訳依頼が届いたのです。こうして百合子らの手によって、ムーミンシリーズは日本でも親しまれるようになりました。

ムーミンの言葉のひとつひとつが私たちの心を静かに揺さぶりますが、その裏に激動の人生を送った日本女性がいたことを思うと、一層味わい深く感じられるのではないでしょうか。

「クリスマスさんってどんな人?」映画初の冬のムーミン谷が登場

(C)Filmkompaniet / Animoon
Moomin Characters TM

この冬公開の、ムーミンの最新映画『ムーミン谷とウィンターワンダーランド』は、映画シリーズ初となる冬のムーミン谷が舞台となったお話です。

冬が始まろうとする頃、ムーミンは「クリスマス」という存在を知ります。冬から春までは寝て過ごすムーミンたちにとって、その言葉は初めて耳にするもの。「クリスマスさんってどんな人?」そんな疑問を胸にクリスマスを探しに出かけたムーミンは、冬の魔法に出会い、やがて最高の夜が訪れるのです。

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本作は、トーベ・ヤンソンが監修を務めたオリジナルアニメをデジタル・リマスター化した作品です。主役のムーミンは、『紙の月』(2014年)や『湯を沸かすほどの熱い愛』(2016年)で数々の映画賞を総なめにした宮沢りえが担当。劇場版アニメの吹き替えは12年ぶりとなりました。また、ナレーションの神田沙也加も、優しい声でムーミン谷を包みこみます。

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寒さが厳しい季節だからこそ、ムーミンの小さな冒険劇は観る者の心をあたためるはず。また、今回ご紹介したような作品の背景に思いをめぐらせてみるのも一興です。

『ムーミン谷とウィンターワンダーランド』は、12月2日(土)より公開です。

(鈴木春菜@YOSCA)